-1話
その日はしとしとと、雨が降っていた。
俺は放課後の図書室で、カウンター係をやっていた。
――なぜかって?
俺が、図書委員だからである。
高校でも委員会などという制度は存在しており、何かしら入らなければいけない……というわけでもなかった。
この学校には、部活動が多く存在している。
少し前までは、読書部なるものがあったそうで、部員たちが図書室の運営を行っていたそうだ。
しかし、年々部員は減少、最終的には廃部となってしまい、運営する者がいなくなってしまった。
そこで仕方なく、委員会制度を設け、各学年クラスから一人ずつ選出されることとなった。
図書室での業務は、貸出がメイン。
ただ、座っているだけでいい。
たまに司書の先生に頼まれて、棚の本を整理する。
楽。
楽っちゃあ楽だ。
――なのに。
誰もやろうとしない。
挙手するやつは、クラスで一人もいなかった。
俺だって嫌だ。
さっさと帰りたいし。
けどな……負けたんだよ!
ジャンケンで!
しびれを切らした担任が、強制的に行ったジャンケン。
……で、なんと運の悪いことか。
俺は負けた。
あり得ない。
マジであり得ない。
俺、ジャンケン弱すぎ。
「ちょっとちょっとー、弐方クン。先輩にばっか仕事させてないで、替わりましょうかくらい言ったらー?」
書架整理から戻ってきた、三年の間島先輩に嫌味を言われた。
「……すみません」
「アハ。冗談冗談ー! 私、そんな嫌なやつじゃないしー!」
先輩……ここ、図書室……
ほぼいないけど、一応勉強している人もいるから、静かに……
「つーかさ、マジだるいよねー図書委員って!」
俺は少し驚く。
間島先輩はこの通り明るいし、やる気ゼロの俺にも親切に仕事を教えてくれた。
手も早いし、司書の先生からも信頼されていると、俺は見た。
本人曰く、一年生のときから図書委員らしいので、てっきり好きでやっているもんだと思っていた。
「なぁに、その顔」
「いや……間島先輩は図書委員の仕事が好きなのかと」
「えーっ? 全然! 全っ然好きじゃない!」
マジか……
「じゃあ何で、三年連続で図書委員なんてやってるんですか?」
「だってさぁ、誰も手挙げないし。あの沈黙の時間、無駄じゃん」
わかる……わかるけど。
「あとはー、内申点のため! 学級委員長はちょっと責任重すぎて無理ィってなるけど、図書委員なら私にもできそうじゃん? 部活に委員会、それも同じものを三年連続! 心証いいでしょう?」
きゃはっと、無邪気に笑う間島先輩……。
はぁ、結局進路のためね。
進学にしろ、就職にしろ、一つのことを長く続けるという姿勢は、良い自己アピールになるだろう。
「これを言うとさ、最低とか言われるんだけど、じゃあお前がやれよって感じじゃない? 黙ってうつむいて、誰かがやるって言い出すまで待ってるやつが、何言ってんの? って」
仰る通りです……
そんなやつに自ら名乗り出る間島先輩の考えにどうこう言う資格はございません……
「間島先輩……すごいっすね」
「そう!? ありがとー」
いちゃもんつけてくるやつほど、何もしない。
そういうやつは、いつでもどこでもいる。
……俺も黙ってうつむいていた人間の一人だから、偉そうに言える立場じゃねぇけどな。
「そういや先生……遅くないっすか」
「本当だねー」
司書の先生は、国語担当教師たちとの打ち合わせがあるとか何とかで、席を外している。
閉室時間までには帰ってきてほしいが……
「あーっ!」
突如間島先輩が叫ぶもんだから、俺はビクッと体を震わせた。
な、何だ!?
「伍紙先生だぁー!」
間島先輩は、図書室に入ってきた白衣の男性教諭を見て、叫んだのだった。
「コラコラ。ここは図書室だろう? 静かにしなさい」
「はぁーい」
注意されるが、この女ときたら……目が完全にハートだ。
……無理もない。
保健室の伍紙先生と言えば、美形で有名だ。
入学したばかりの俺でも知っている。
保健室の先生って、女の先生のイメージだけど、この学校では男性という何ともまぁ珍しい。
モデルばりの高身長に、スタイルの良さ。
最早日本人離れな端正な顔立ち。
掛けている眼鏡すら格好よく見えてくる。
こんな先生が保健室にいるせいで、仮病を使う女子が後を絶たないとか……
「伍紙先生、図書室に何しに来たの?」
俺のことなど完全に忘れてしまったかのように、デレデレと間島先輩は先生にまとわりつく。
……やれやれ。
「ん。ちょっと調べ物をしたくてな」
「へー、そうなんだ。何の本を探しているの? 私が案内してあげるー!」
頼まれてもないのに、間島先輩は強引に先生についていく。
「弐方クン、留守番よろしくー!」
……俺、ため息。
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