第72話 vs殿ヶ谷アギト その2
「ユータ……、悪いな、助かった」
「だからお前のためじゃない、真緒に泣きつかれたから――」
「だとしても、ありがとうは言うべきだろ」
むすっとしたのか、そっぽを向いてしまうユータだった……、素直にありがとうと言うと茶化したり不機嫌になったりするところは変わらずあいつらしいな。
――別に、泣きついたわけではないですけどね。
と、心に届く、真緒の声……あ、そうなのか? でもユータはお前に泣きつかれたと言っているけど……お前とユータだったら当然、ユータを信じるからな?
――泣きついたフリですよ。あーでもしないとユータせんぱい、動き出しそうになかったですからね。ヨートせんぱいを助けにいきたいのに、一度、喧嘩になってきまずいみたいで……ツンデレさんですよねえ。
フリって……じゃあ実際に泣きついたんじゃないか。
泣きついたフリでも、『フリ』ならしているってことだろ?
――どうでもいいだろ、そんなこと。
と、口を挟んだのはナン子だった。……助かった、この調子だと真緒とずっと言い合いをしてしまいそうだった……、戦場にいながら。
ユータが助けにきたからと言って、勝利が確定したわけじゃない。まだスタート地点に立っただけだ……、少なくともおれよりは、ユータの弾幕は第二位に通用するかもしれない……。
脅しとしても機能するだろう……。だってさっき、相手の側頭部へ当たった弾幕の衝撃波は、赤い第二位の体を、少しだが、よろけさせた。
ダメージ、と言うほどではないが、それでも傾けさせたのだ……前進である。
観察しろ、見極めろ。
攻撃手段を得たのだ、あとはこれを利用し、相手の反応を見る。
攻撃特化であれば相殺するだろうし、防御特化であれば防ぐはず……どっちだ!?
「いてぇな、くそ……っ、ちょっと
ギリギリ間に合ったか、と呟いた……第二位。
間に合った? これも、ヒントの一つになるはず……っ!
「痛ぇ、で済む攻撃なわけないんだけどな……」
過去に喰らったことがあるおれも、弾幕の強さは分かっている。威力が追加されなかった、初撃でもかなりの痛みがあるのだ……、それを側頭部に喰らっている――脳震盪どころか、そこで意識が吹き飛んで終わりのはずだ。
最悪、頭蓋骨が割れる可能性だってあるのだし……。
「ユータは第二位の能力を知っているのか? ほら、お前のクランリーダーに聞いたり、大手クランだからこそ分かる情報とかさ。
メンバーもたくさんいるだろうし、そこで噂になっていたりとか……」
この際、虚実は問わない。
噂もヒントになるなら聞いておくべきだ。
「……残念ながら、ないな。完全にシークレットだ。
第二位……、一応、クランメンバーである自警団でさえ、知らないって感じだったからな」
意図的に伏せている? 第二位が? いや、そんなセコイ真似をする男には見えなかった。
まあ自分から明かして、正々堂々と戦おう! ってタイプでもないだろうが――。
隠しているわけではないが進んで言うタイプでもなく、かと言って聞かれたから教える、という素直な性格でもないだろう。
……それ、隠しているのとなにが違うんだ?
あいつからすれば、おれたちの対応の仕方こそが、理想なのかもしれない。
暴いてみせろ、そう言っているわけか……。
「ユータはどう思う? あいつの能力……攻撃か、防御か――」
「さあな」
……協力する気、ねえじゃん。
「予想もつかないし、考え過ぎて、こっちの動きが止まるのは最悪だ。
だから深くは考えない……、暴くために、こっちは手数で勝負をする!!」
弾幕。
ユータの手の平から、球体型の衝撃波が撃ち出された――、形を持たないので当然、見えない。なんとなく空間の歪みで分かるだけだ。
体験しているおれからすると不思議と輪郭は見えるのだが、初見だと見えないだろう……ただ、見えにくいだけで、まったく目視できないわけではない。
察しが良ければ、すぐに視認するところまで持っていける天才はいる。
「三つか」
と、赤い第二位が呟いた。
弾幕は一つではない……それを初見で、しかも一瞬で見抜いた!?
「バウンドを繰り返すことで威力が増すか……、別に、調べたわけじゃねえよ。探せばあるんだろうが、そんな手間なんてかけなくとも、見ていれば分かる。
将棋と一緒だろ、ある程度の型があるんだ。
衝撃波を同時に三つも出して、ビリヤードみてえにわざとぶつけたのなら、そこに意味がある――だったらもう、威力が増すしか、考えられないだろ」
周囲に瓦礫があるとは言え、密閉空間ではない。こんな場所ではユータの弾幕は最高の結果を残すことはできないだろう……、
まだ避けられることを前提に、直線的に衝撃波を撃った方が良かったのかもしれない――、
「分かってる」
ユータは言った。
「周りを瓦礫の山を崩せば、大きめの瓦礫も転がるだろ。……だったらヨート、お前の反転も活きるんじゃねえか? 俺にしたみたいによ――」
……ユータに、したみたいに……。
確かに、小さな瓦礫だけでは反転で入れ替えたところで意味なんてなかっただろう……、だけど大きめの瓦礫が複数、ごろんと転がっていれば、できることは増える――でも、
ユータの時のような油断を、相手がしてくれるか?
迂闊にこっちへ近づいてくるような、そんな悪手を出すとは思えないけど……。
「かもな。あいつは俺らを見下しているようで、油断はしてないようだしな。……ったく、王様みたいに王座でふんぞり返ってくれていれば、付け入る隙があったんだが……無理そうだな」
それは、根っから、人の上に立つタイプではなかった、ようにも思えた。
それこそが、付け入る隙にも見えるが……、
それを手段、にまで、確立できているわけじゃない。
「とにかく相手を動かすしか、ヒントを得る手段はないだろ――ヨート」
「おれはどうすればいい!?」
「自分で考えろ。とにかく瓦礫を破壊して、足下に敷き詰めておいた。あとはお前の、お前にしかできないやり方に任せる。俺は、弾幕でなんとかあいつに攻撃を当てる――」
どうやって? と聞くよりも早く、ユータが弾幕を撃った――直線だ。能力の肝と言えるバウンドを利用せず、最小の威力(それでも充分に強いのだが――)で、第二位へ向け、撃つ。
だが、当然ながら第二位は首を傾けただけで、衝撃波を避ける……なのに。
ゴンッッ!! と、鈍く鐘を鳴らすような音が響いた。
それは第二位の後頭部へ、衝撃波が直撃した音……——、
「いっっ、いっ、たぁっっい~~っっ!!」
額を両手で押さえているのは、えるまだった。そう言えば傍にいなかったと思えば、瓦礫の山を回り込んで、第二位の背後を取っていた?
もしかして……、近づいてくる弾幕を、自分の額で打ち返し――と言うよりはバウンドさせるための壁として使い、方向転換させた衝撃波を、第二位へ当てたのか!?
じたばたと地面を転がるえるま……大丈夫なのか!? 石頭なのかもしれないけど、だとしても額に衝撃波を喰らえば、痛い以上に頭蓋骨が割れる可能性だって――、
「最小威力ならさすがにそれはないな。ただ……、意識を持っていかれてもおかしくはないんだが……、分裂体だったとしても、よく耐えたもんだな、と思うぞ」
目尻に涙を溜めながら、えるまがおれと目が合って笑顔になった。
そして、ぐっと親指を立ててくる……ああ、頑張ったな、近くにいたらついつい頭を撫でていただろう……それくらい、えるまの功績は大きい。
これではっきりした。
弾幕の直撃を喰らっても、平然としている第二位は、防御特化――かもしれない。
――いえ、せんぱい。たぶんどっちもですよ。
真緒の補足が入る。
正確にはナン子の推測だったのだが……、真緒が手柄を横取りしているらしい。
――この子みたいな『絶対防御装甲』を持ちながら、ソラせんぱいのような『絶空』に近い攻撃力も持っていると見るべきです……、二つの能力を持っている、が近いのですか……?
二種類も能力を持っているなんて、そんなの……、ルール違反じゃないか? マコトは、複数の能力を持っていたけど、それはあくまでも『奪った』ものである。
手札が揃えば強いが、そこに持っていくまでに、かなりの労力がかかる……、
そう考えればリスクも大きい。
だが、この二位は、最初から二位だった。
であれば、最初から二種類の能力を持っていた、のか……?
――違うよ、ヨート。
真緒は「??」と首を傾げて(いるだろうなあ、と雰囲気で分かった)、
「もしかして分かったの? じゃあ説明してよほらほらっ」
と、ナン子の背中を押している(のが目に浮かぶ)。
仲良くしろよ……、いや、仲が良いからこそか?
――二種類じゃない。二つの効果を持つ能力を一つ、持っているんだ……。
二つで、一つ……、……使い分け?
使うべきタイミングが、縛られているのか、それとも強制されているのか……。
――二位はたぶんだけど、右手に剣を、左手に盾を持っているんだと思う……、左右はたとえだから、細かいことは気にしなくていいぞ、わけがわからなくなるから。
どうして右に剣で、左に盾で……、と考えていたところで言われたので助かった。
そんなことまで考え出していたら、おれの脳内メモリはあっという間に埋まるだろう。
剣と盾、二つの効果を持つ能力……、
だけど、一度に使える効果は、片方だけ――。
――だとしたら説明がつくだろ? 瓦礫を八方へ飛ばした攻撃力、衝撃波の直撃を受けても平然と立っていられる耐久力……防御力か。
その都度、両手に持つ武器を切り替えて使っていたのだとすれば、辻褄も合うしな。
それに、
光明が見えている……、剣か、盾か。
剣を使っている時は当然、盾の効力はなく、盾を使っている時は、剣の効力はない。
同じタイミングで、圧倒的な攻撃力と防御力を発揮させることはできないってわけだ。
「……カウンター」
剣を使用している時に攻撃を当てれば――、あいつは盾の効力を持っていない!
こっちの攻撃が通るはずだ……っ。
だが、まだ確定ではない。信じ過ぎるのも毒になる可能性だって……っ、
「確定として考えてもいいだろ、じゃないとまた振り出しだぞ」
「それもそうだな……よしっ! ナン子の推測で、カウンターを狙っ」
「いけるか、ヨート?」
ユータがこれまでになかった、本気で心配した表情を浮かべ、
「相討ち覚悟で突っ込む勇気、あんのかよ?」
「…………」
そうだ、盾の効力がないということは、剣の効力が迫っているわけで……、たとえおれのカウンターがヒットとしても、同時に剣の効力がおれの体を貫けば、当然、おれは無事では済まないわけで――死ぬ可能性が、高い……高過ぎる。
それを覚悟して、第二位の懐に踏み込まなければ――、
ナン子の推測も、見出した光明も、意味がない。
だけど同時に、こんな一か八かの可能性だったとしても……、
足を動かし、挑まなければ、おれたちでは勝てない相手――なのだ。
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