第56話 ヨート&えるまvsマコト&えるま
辺り一面、銀世界に染まった。
「……ッ、マルコの、能力か――ッ!」
「強奪してるって分かってただろ。いちいち口に出すな。それともお前は、そうして口に出さないと頭に叩き込めないのかよ」
「……そうだよな、お前はバトル漫画を読みながら、『どうしてこいつは自分の能力をべらべらと喋るんだ?』って言うタイプだもんな――」
「会話のきっかけとして言うことはあるが、本気で思って言うことはねえよ。ありゃフィクションだ、読者に合わせて説明してるだけに過ぎねえ。設定集なら構わねえが、漫画で見せるならキャラに喋らせるのが当然だろ。それが一番、自然な流れなんだからよ。
なんでもそうだぜ、『バカに合わせ』ないと、いらねえ手間が増えてくる」
あらゆる可能性を先んじて潰しておく……後で手間がかからないように、トラブルを未然に防ぐために親切な設計にしているわけで……過剰でちょうどいいのだ。
「まあ、それでもバカはトラブルを持ってくるんだがな」
と、マコトが脇を見る……そこにいるのは青柳えるま・オリジナルである。
「マコト様っ、私はなにをすればいい!?」
「黙ってブランコでも漕いでろ」
言って突き放す。これを、仲間はずれにするな、とは言わない。マコトにとって彼女は邪魔なのだ……、悪い意味ではないと思う。銀世界のように、周囲に影響を与える能力を使う場合、巻き込んでしまうから――だから言葉こそ強いが、えるまのために遠ざけたのだ。
「……このままはぐれた方が俺的には都合が良いんだがな」
「逃がさない。だって分裂して、どこまでも追っていくから」
「じゃあまずてめえの『分裂』を強奪するしかねえか」
えるまがマコトから離れ、ブランコに乗った。だが銀世界によって凍り付いているために、漕いでもブランコは動かなかった……、ただのベンチである。
「ハンデは……、いらねえか。殺し合いだ、全力でやらねえと後で禍根が残る」
「そうだな。それでも、縛りプレイをするなら勝手にしてもいいぜ」
「しねえよバカ。てめえは生かしておくと後々、マジで厄介になる気がするからな……だからここで徹底して潰しておく」
おれとマコトは似た者同士だ。いや、マコトが言うにはおれがマコトに寄せているようだけど……、確かに影響を強く受けているのは事実だ。だから、マコトはマコトを相手にしていると考えているのかもしれない……まさに、分裂したみたいに。
そう考えた時、生かしておくのは悪手であると判断したのか……、濃く影響を受けているおれからすれば、その評価は嬉しいが、しかし――、
攻撃能力ではないたった一つの能力を持つおれに向けて、銀世界、さらに弾幕、遮音、絶空を持っているんだろ……? 勝てるのかよ、これ。
「……分かってたことだろ」
その上で、どうマコトを攻略するべきか。
マコトだったら、こんな状況でも、絶対に諦めない。
「撤退するべきタイミングはあるぜ、ヨート」
マコトが握っているのは氷の剣だ。その長さは短く、まるでソラが持つ小太刀型の木刀に似ていた――それを模して作ったのか?
だとすれば――、まずい!?
「敵の手に絶空がある時点で、向き合うのは最悪だ」
刃の軌跡を追え――、その方向さえ分かっていれば、絶空がどう飛ぶかも分かるはず!
マコトが横一線に刃を引いた。おれは慌てて屈んで――ガンッ!? と、顎に衝撃。
「っ……!?」
「刃の切っ先だけ見てるからそうなる。
お前、俺が片手で弾幕を放ったことに気づかなかっただろ」
弾幕……、バウンドした、球体型の衝撃波……っ。
「ほら、今度こそ絶空が飛ぶぜ。いいのかよ、そんな体勢で」
重心が後ろに向いてしまっている、ここからすぐには切り替えられない。
だったら倒れてしまった方がいいか。
真上から絶空が落ちてこない限りは、見て避けられるはず。
倒れ、横に転がろうとしたら、ぐいっと服が引かれた――誰だ? と思ったが、違う。
倒れた地面とおれの服が凍結し、繋がったのだ。
「……っ、次から、次へと――ッ!!」
「これが複数能力者の強みだな」
そして、これでもまだ第一段階だ。単一での連続使用をしているだけである……、組み合わせているわけじゃない。だけど、もしもこれが組み合わせられたら……。たとえば『バウンドする絶空』なんてものがあったら、回避なんてできるわけがない。
銀世界、弾幕、絶空――たった三つで、おれは追い込まれている……ッ。
「終わりかよ、ヨート。つまんねえな……退屈しのぎにもならねえな」
氷の剣がおれを狙っている。
「いつまで地面にいるつもりだ? ほら、絶空が飛ぶぜ?」
早く立ち上がらないと……っ。
だが、銀世界の凍結がさらに進み、おれは完全に地面と一体化してしまって……。
なにか、打開策は……っっ!?
「ヨート様、いま助けるよ!」
「バカっ、えるま、お前一人じゃ無理だ! 早く逃げろ、絶空が飛んでくるぞ!」
「だったら増やせばいい――私の能力は、『分裂』だから!」
ぽんぽんぽんっ、と増えていくえるま。
同時に、えるま・シックスの体が、だんだんと年齢を下げていく……。
気づけば彼女はナン子よりも小さくなっていて……。
「みんなでヨート様を引き剥がすんだ!!」
『うん!』
バカ……、小さくなった体じゃあ、力を合わせても元のお前一人分と大して変わらないんじゃないのかよ……ッ!
「人の壁か、まあ、一つの障害にはなってんのか」
「マコト……? お前っ、まさか!!」
「どうせ分身だ、罪悪感はねえよ」
絶空が飛ぶ。その斬撃が、最もマコトに近い位置にいたえるまへ当たり――、
――ザンッッ、と両断された。
上半身が、ずず、とずれていき、下半身からずり落ちる。
転がった上半身は、瞳の色を失い、悲鳴も上げなかった。
温かく、赤い液体が流れてきて……、皮肉にも凍結していたおれと地面を繋ぐ氷を、僅かだが、確かに少しずつ、溶かしている……。
「あっ、もう少しで剥がれそう! ヨート様、起き上がって――」
べり、べりべり、と、凍結の強さが緩んでいる。その隙に、おれはえるまたちの力を借りて、拘束から抜け出した。
……苛立っている。
怒りが、いつも以上におれ自身の力を引き出しているのかもしれない。
「……分裂は、ストックが増えることじゃない……」
「増えることだ。お前がどう解釈しようがどうでもいいが、少なくとも俺はオリジナル以外は人形同然だと思っている。だから殺しても、なんとも思わねえ。
お前はそういうことを言いたいんだろ? だったら先んじて潰しておいてやる。
俺は、えるまを殺しても、これを人殺しだと思ってはねえよ」
「マコトッッ!!」
「文句があるなら口じゃなく腕と結果で示せよ。力のねえやつが指図すんじゃねえ」
再び、絶空が飛んでくる。
大丈夫、分かる――この軌道は、避けられ、
「だから、俺は強奪者だ。この銀世界は俺がいじれるんだよ、ヨート」
ぴし、と足裏が地面と張り付いた。さっきのような縛り付ける規模は時間がかかるが、一瞬、固まる前の接着剤程度の抵抗感をおれに与えることはできるわけで……、
そしてその隙は、絶空を受けるには、充分過ぎる時間だ。
「っ、の――」
ふと、手を伸ばせる範囲にえるまがいたことに気づく。たとえばここで彼女を引き寄せ、盾にすることも――、ッ、ふざけんなッ! そんなこと、人としてやっていいわけねえだろッ!
他者の影響を受けやすいと言われているおれでも、さすがに線引きくらいある。
今のマコトの思考に影響されない程度には、おれなりのルールはあるのだから――。
伏せれば間に合う。ギリギリ、たぶん、大丈夫な、はず――、
しかし、鮮血が舞う。
その血は、おれの前に飛び出した分裂したえるまで――。
「は?」
「私は自覚してるの、ヨート様の盾だってこと」
おれに寄り添う、えるま・シックスが周りのえるまと目配せをして、
「私は使い捨ての人形でいい。だから、ヨート様、私を使って!」
「えるま……」
その考えは、マコトから引き継いだものなのか……それとも、マコトに出会う以前から、お前はこの能力を、そういう役目に使うべきだと、決めていたのか……。
死んでも回収される命かもしれない……、分裂したえるまがいなくなれば、小さくなったえるま・シックスも元の大きさに戻っていく――、つまり死んだえるまの分身が得た経験値は、元のえるまへ還元される、と見てもいいのだろうか……でも。
えるま・シックスが、そもそも分裂先なのだ。
お前は、おれについてくれている……じゃあお前が死ねば、えるま・オリジナルに還元されるはずだけど――その場合、お前の意思は、オリジナルに影響を与えるのか?
こうしてお前が独立している時点で、分身先はただの人形なんかじゃないだろ――、人間だ。
一人の、ちゃんと自分の心を持つ、女の子だろ……ッ。
「盾になんか、できるかよ……」
「ヨート様が生きていることが、私の、今の一番の願いなの!」
さらに前へ出るえるまを、引き寄せる……彼女の背中が、おれの胸にとん、と当たった。
え、と上を向くえるまと、見下ろすおれの目がばっちりと合う――、
こんな小さい子が、盾になる……? おれが、そうさせてしまっているのだ……。
赤面し、あわわわっ、と戸惑うえるまの頭に、ぽん、と手を置き、
「ありがとう、えるま」
彼女とおれの位置を、反転させるように――おれが前に出る。
……策なんかねえさ、勝ち目だって見えてない。何度、転がしても、敗北の目しかねえな――それでも、敗色濃厚のサイコロを、えるまだけに転がすわけにはいかねえ。
そんなの、おれ自身が、許せるわけがねえんだから。
思い出せ、いまのおれに、なにができる?
銀世界、弾幕、絶空の弱点は? 弱点でなくとも、突ける隙は――穴はあるのか?
探せ。ないなら作れ。今まで、そうして逆境を乗り切ってきただろ。
人じゃない、能力じゃない、環境でもなければ――なら。
場所だ。
この立地を、利用しろ。
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