第49話 分裂・レベル2

 第二位……。


 そんな相手が、自警団と繋がっている――そう言えば前にソラが、「第二位のクランメンバーが、現・自警団みたいよ」と言っていた気もするな……、あくまでも噂程度ではあったが……。

 自警団本部があるスカイツリー周辺で、しかも同じ顔の人間がほとんど同時に、殺された……その痕跡はないに等しく、絶対的な強者でしかあり得ない傷だった――偶然か? 

 偶然にも思えるし、意図的にも思える……でも、だからってその人となりを知らない第二位を、偏見で犯人とするわけにもいかないし……できない。


 この子、セカンドもまた、あらゆる可能性の中の一つを言っただけなのだろう。

 そしてもしも第二位がこの町にいるのであれば、能力強奪事件の犯人が、目をつけないわけがないし――いや、第二位の能力を奪えたら、そりゃ最高ではあるけど、奪うまでが大変だ。奪うつもりが返り討ちに遭えば、意味がない……、そこは最優先で避けるべきところだ。


 となると……もしも第二位がこの町にいるのであれば、能力強奪事件の犯人を見つけ出す指針になるかもしれない。第二位とは離れた場所に、犯人がいるとも言えて――、


「まあ、確証はないけどな」


 そうだ。それに、サード、フォース、フィフス、だっけ? その子たちを殺す理由が見つからない。個人的な恨みという可能性もあるが、そうだった場合はこの場にいるセカンドとシックスも危ない。もっと言えば、この子たちのオリジナルだって、危険であることは同じだ。


「目についたから殺したんだよ」

「ん?」


 そう、セカンドが言った。目についたから、殺した? 

 そんな人間離れした判断で人を殺すのか? いくらそれができる力を得たからと言って……。


 拳銃を手にした子供が面白半分で小さな動物を撃ち殺す、みたいな感覚か……?

 それを分身とは言え、同じ人間相手にするなんて――。


 よりにもよって、そんな感覚をしている人間に、二位の能力ちからが宿るなんて。

 それともそんな能力ちからが宿ったからこそ、人格が歪んだのか……。


 かつてのユータのように。

 いや、ユータはあれが素だったみたいだけどな。


「で、でもっ、私みたいに偶然、こうして食虫植物に食べられたかもしれないし!」


「お前は自業自得だろ。罠ですと言わんばかりの毒々しいリンゴを取ろうとしやがって……それに怪獣なら、怪獣と分かる痕跡があるもんだってこの子が言ったはずだろ。

 それがないってことは、やっぱり人為的な隠蔽の仕方が関わっているんだと思う」


「はえー」


 と、分かっているのか分かっていないのか、そんな表情を浮かべるシックス……、セカンドも呆れた様子だった。瓜二つだけどセカンドの方が精神的に少し大人か?


「それで、セカンドはどうしたいの?」

「どういうことよ」


「サードもフォースもフィフスも死んじゃったけど、

 ……もしかして仇討ちをしにいこうってことなの?」


「……違うよ。死んじゃったのはしょうがないと思う。こんなこと、日常茶飯事だし」


「ってことは、みんなのことはもういいんでしょ? じゃあ私がこの――新しい王子様と一緒にいてもいいじゃん! 嫉妬で私たちを突き離さないのでよね!」


「マコト様への恩返しを忘れたの!?」


 おれを柱にして言い合いをするなって……あと、気になっていたんだけど……、


「マコト、って、お前ら二人の恩人、なんだよな……?」


『うん』


 声が揃う。……そのマコト、もしかしておれが知っているやつなのか?


五堂ごどうマコト?」


 並んだ二人が見合って、


『そこまでは知らない。でも、マコト様』

「あ、そう……」


 ようするに、自分で見て確認するしかないわけか……。


「ほらっ、だから帰るよ、シックス!」

「いやーっ! 王子様から離れたくないもんっ!!」

「この人も困るでしょうが!!」


 なんだか、姉と妹のやり取りに思えてきたな……、双子みたいなものなら、やっぱりセカンドとシックスで差があるし、姉妹と言ってもいいのだろう。


「えーっと……シックス? 一旦、そのマコト様のところへ戻った方がいいんじゃないか? その人へ恩返しをしてから、またおれのところへきてくれればいいからさ――」


 おれの腕にしがみついているシックスは、まったく力を弱めない。

 逆に、さらにおれを強く掴んでいる……というかもう抱き着いているな、これ。


「離れたくないから、王子様も一緒にきて」


「それはいいけど……まあ、そのマコト様の確認もしたいしな。

 あと、おれを王子様って呼ぶな」


「じゃあっ、あなたのお名前は!?」


 そう言えば名乗っていなかったか。


「おれは――」



「ヨートッ、真緒を見なかったか!?」


 と、曲がり角から顔を見せたのは、病院で安静にしているはずの、工藤ユータだった。


「え、ユータ!?」

「ヨート様……」


 隣ではシックスが目をキラキラさせながらおれを見上げている……状況が渋滞してるっての! 

 とにかく今は緊急性が高いユータが最優先だ。


 セカンドは危機感があるのか、現れたユータを敵と思って身構えていたが、敵意がないことを察知して構えを解いていた。今のユータは『弾幕』を奪われている……だから能力はない、はずだ。アビリティ・カードを持っていなければ、丸腰である。


 丸腰で町を駆け回るのは危険だが、そうも言っていられない事情があるのだろう。

 真緒を見なかったか? か。探しているのはこっちも同じだ。


「ユータ、どうしたんだよ……怪我は……、

 こうして走り回れるなら大丈夫なんだろうけどな……」


 以前、ソラの絶空によって斬られた腕も、無事にくっついているし……、

(絶空はその断面が綺麗になる……だからこそ、ゆえに、破損部分の修復も難しくないらしい。そういう治療の能力者によって、ここまで回復したのだ――とは、真緒から聞いていた)

 さすが第四位のクランだ、能力者の層が厚い。


 そんなユータは、やはりまだ全快とはなっていないようで……、ぜえはあ、と息が整うまでしばらく時間を使っていた――そして、


「真緒を探せ! 今すぐだ! あいつは――殺されるぞ!?」

「殺される? 真緒も狙われているのか?」


「違う……真緒が『マコト』を見つければ、俺たちに知らせる前に一人で戦うはずだ。あいつは俺のために、奪われた能力を奪い返そうとして……ッ、

 あいつの能力じゃ勝てるわけがねえだろうに!!」


「待てユータ……なあ、本当に、能力強奪事件の犯人は、マコト――五堂マコトなのか!?」


 ユータは、頷いた。


「ああ、あいつだよ。俺は奪われたんだ、顔を見てる――、

 昔から変わらねえ、マコト本人だったぜ」


 なら、おれの目的は決まった。


 真緒を見つけることに加え、数少ない親友に、会うことだ。


「シックス、セカンド、連れていってくれ――マコトのところに」

「ヨート様? マコト様と知り合いなの?」


「まあな……、おれにとっちゃあ、あいつは親友であり、悪友であり――、

 おれが憧れたやつなんだよ」


 だから知りたいのだ、どうして他人の能力を奪っているのか。

 あいつの中でこの行動は、どういう意味を持つのかを。


「おれも、協力できるかもしれねえからな」


 ―― ――


 彼女は『分裂』の能力者らしいです。そしてわたしは、『遮音』の能力者――ただ、今は奪われてしまっているので無能力者ですけどね。


 となると、わたしたちは互いに攻撃能力を持っていないことになります。

 勝負なんてつかないのでは? と思いますが、能力に頼らなければ、女の子同士の喧嘩でも普通に殴り合いはあるわけです。


 そして、分裂できるということは数が増えるということです。

 多勢に無勢。数の利は、強力な攻撃能力よりも脅威になります。


 たとえ分裂した相手が、小学生低学年くらいにまで縮んだとしても、です。


『見つけた!』


 高い声が重なりました。

 彼女は一切、一定距離から近づいてきません。遠くから、手の平サイズの石ころを投げてきて――致命傷にはなりませんが、しかし当たれば痛いですし、なにより鬱陶しい……っ。

 こめかみにいくつか石が当たり、皮膚が切れて、つーと血が流れてきました。それが目に入って、視界が覆われてしまっています……。袖で拭っても拭っても、こういう傷ってなかなか血が止まらないんですよね……。


「もうっ、遠くから卑怯です!」


『わっ、こっちにきた!』


 さっきまで近くにいたのに、意識を向けるとすぐに逃げるハトですか。

 わたしが投げた石ころは、誰もいないところを転がります……、彼女たちはどこかへ逃げたみたいですが……かと言って監視の目はなくなりません。


 体の小ささを活かして、隙間や高所から、わたしを見ているのですから……。


『マコト様には近づけさせないよ!』


「はいそうですか、とわたしが諦めると思いますか?」


 引けない理由があります。それはお互い様ですからね、そういう言葉は不要ですよ。


『でも、本当に私たちを全員、倒せるの?』


 すると、小学生低学年から、さらに小さくなった、

 まるで、五歳程度の女の子が、裸足でぺたぺたと歩いてきて……、



『「ミリオンズ」――たとえば私たちが固まってあなたを囲めば、

 人間の体温と熱で、殺すこともできるかもしれないよ?』

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