第46話 接触! 強奪者
掲示板はまったくあてにならないので、聞き込みを柱に情報を集めていきましょう。
相手はもちろん、能力を奪われた人たちです。その人たちは当然、犯人の顔を見ているわけですから、断片的な要素を組み合わせていけば、パズルのように一枚の絵が完成するはずです。……はず、でしたけど?
「噛み合わない……」
会話ではなく。
情報が、ですね。
被害者の人たちが言っている犯人の人物像が、まったく一致しません。もしかして複数人で動いていますか? 単独ではなく組織であったと。それなら納得です。ですが……、
「掲示板から読み取ると、単独犯っぽいですけどねえ――」
着替えと整形を繰り返して活動し続けているとか? 割に合いますかね? 能力で変えているなら――能力で変えているなら!
変身の能力でも奪っていれば、可能な逃走劇です!
「まんまと騙されましたよ!」
となると聞き込みも、方法を変えなければいけませんね。見た目はもう情報にはなりません。いえ、なりますけど、まあ、かなり実入りは少ないと見るべきでしょう。ですから変身していても同一犯であれば絶対に変わらない癖や、口調――そこを突いてみますか。
「すみませんお姉さん、お訊ねしたいことがありまして――いいですか?」
被害者の方を見つけました。アポは取っていません。近くのカフェにてなにやら暗い顔をしていたので声をかけただけです。能力強奪事件の被害者ではないかもしれませんが……だとしたらそれはそれで、このお姉さんの力になれるかもしれません。
へい店員さん、わたしにカフェオレをプリーズ、甘めでお願いしますねと声をかけたら、タブレットでお願いしますと言われました。忙しく働いているわけではないのですからここで意思疎通をした方が早いのでは? と思いますけど。
機械に頼ってばかりだと後々に痛い目を見ますよ? まあいいです、タブレットを操作してカフェオレを注文しました。ちらりお姉さんを見ると、わたしがさり気なく注文したことには気づいていない様子……、お会計は一緒になりますけど払ってくれますかね?
それは、これからのわたしの対応次第というわけですか。
……試されていますね……望むところです。
「あなたは……?」
「赤座真緒と言います。もしかして……能力を奪われましたか?」
お姉さんは顔を真っ青にさせました。思い出して血の気が引いた、というわけですか?
「ええ……、私の、能力が……ッ」
この世界での唯一の対抗手段と言えます。能力には能力、と言うには相性やら性能の差は出てしまいますが、丸腰でないだけで安心感はありますからね。能力に対抗するのに拳銃一丁では心許ないです。持っているだけで相手に敵意ありとも誤解されてしまいますし。
あくまでも自衛のため。それでも向こうからすれば武器に変わりありませんから。その点、能力は目に見えません。誤解はされませんが……、ただまあ、こっちも素直に相手を信用できません。ヨートせんぱいがおかしいだけですから。
わたしの能力が遮音でなければどうするつもりだったのでしょうか。
「ん、知り合いかい、
「
と、お姉さんの視線がわたしの後ろへ向きます。振り返ってみればそこにいたのは上下をデニムのデザインで揃えた服装の男の人でした。
お姉さんの知り合い……彼氏ですか? 年の差がありそうですから、姉弟とかですかね。
「この子は……私を心配してくれて、声をかけてくれたみたいで……」
「そうなのか……、ありがとう。
彼女、能力強奪事件に巻き込まれて、ちょっと傷心中でね……」
男の人は手に持つノートを開き、お姉さんに見せる。
「犯人がどこで目撃されたのか、情報を調べてきたよ……、
有志の人たちと協力して、犯人を捕まえるためにきっと役に立つさ」
「ありがとう……」
「いいって、姉さんのためなんだから」
「それ、わたしも見ていいですか?」
「ん? 君も能力を?」
少し迷いましたけど、ここは本当のことを言っておきましょう。
「いえ、違いますけど、大切な人の能力が奪われましたので」
「そうか……、なら君も、『被害者の会』の一員だね」
能力を奪われていない人は仲間にはなれない、と思い込んでいましたが、仲間がやられた、という人は多いらしいです。被害者の会の中で、能力者は貴重な戦力……、
となればわたしの手も邪魔にならない――と彼は言ってくれましたが、
「でも、わたしの能力は戦闘向きではないんですよ……」
「どんな能力なん――いや、迂闊に喋らない方がいいね。
こんな場所で話したら、誰に聞かれたか分かったものじゃない」
「そういうことであればいらない心配ですね」
なぜならわたしの能力は遮音だから。音を消す。つまりわたしが喋る自分の能力の詳細を、このテーブル以外の人には聞こえないように、遮断するのです。
話すよりも先に実演してしまえばいいわけです。
「へえ、そんな能力なのか……」
「はい、なので隠密行動には向いている能力ですね」
悲鳴を消せば人攫いも簡単です。まあ、しませんけどね……、
わたしの細い腕の腕力では攫うことができても小型犬くらいでしょうか。
「ふうん、いいね」
男の人が、とんとん、とペンをノートに走らせて、
「それ、使い勝手が良さそうだ――奪ってみようか」
ばんっっ、と机が真上に飛ぶ。彼が膝でテーブルを蹴ったのです。わたしたちが飲んでいたカフェオレが、宙を舞う。お姉さんが椅子から倒れ、わたしも尻もちをついた。
「え、えっ!? お姉さんっ、あなたの弟さんが反抗期です!!」
「――記憶消去完了、機能を停止します」
お姉さんが急にロボットみたいになった! ――いや、能力による影響を受けている!?
「記憶改竄、変身、それに掲示板に書かれている情報をいじったのは俺だ。面白いくらいにお前らは誰かが書いたかも分からない情報を信じて右往左往するよなあ……」
「まさか……あなたが!?」
「犯人だ、と自白した俺がさて、記憶改竄されていないと言い切れるかな?」
「こんな人通りが多い場所で戦闘を起こして……、
――あれ!? 誰も、こっちに注目していない……?」
カフェの店員さん、お客さんだけじゃなく、目の前を横切る人たちもわたしたちには目を向けていません。まるで、見えていないかのように――。
「認識をずらす能力ならひと手間で済むが、完全ではないからな。
だから周囲一帯が見えなくなる能力と、お前の遮音の能力を使ったんだよ」
「っ、わたしの能力を、奪って――っ!」
「まだ奪っちゃいねえよ。使えるだろ、お前も」
言われて確かめてみると、確かに能力はわたしの中にあります……、
あれ? まだ強奪されていません……?
「奪うには、条件がある……?」
「ない方がおかしくないか?
ま、面倒な手順があるんだが、お前相手にはイージー過ぎる条件だ」
犯人の姿が消えました。どこに――、
気づけばわたしの首に相手の腕が埋まっていて……げぇっ!?
きゅっと、喉が締まります。
「あ、そう言えば悲鳴も聞こえなくできるのか。なら別に、もっと手早く殴って終わらせても良かったのか……まあいいか。意識を落とせば同じことだ」
ぐぐ、とさらに力が強くなる。わたしの力では、とても振り解けなくて……っ!
両足が浮き始めました。力が、逃げていきます……。
「ヨー……、せん、ぱ……い……」
「ん?」
そして、わたしは狭まる視界を広げることができませんでした。
―― ――
目が覚めると、わたしはカフェの店員さんに介抱されていました。話を聞くと、わたしはここで気絶していたようで……、寝落ちでもしてしまったのでしょうか。いえ、そんなはずがありませんね……寝落ちするほど疲れていたとしても、そこで寝ないのがわたしです。
ユータせんぱいの能力を取り返さずに、眠っていられるものですか!
そこでわたしは違和感に気づきました。魂が体から抜けると少しだけ軽くなると言われますが、そんな感じでした。体の中にあったものがなくなっているような感覚……、これって――、
「遮音が、なくなっています……」
能力が、なくなって――奪われています!?
店員さんに聞くと、「いえ、お一人様での来店でしたよ?」と――。
そんなわけがない。わたしがこんなオシャレなカフェに一人で入るはずがないです。人から言われるとムカつきますが、自分でなら言っちゃいますよ、場違いですからね! それに、お会計は二人分です……押し付けられた形になりますが、今はそれよりも。
わたしはついさっき、能力強奪事件の犯人と接触していた……、そして能力が奪われたということですか。気絶したのにアビリティ・ランキングから脱落していないところを見ると、手持ちの残機は関係なく、この場合は脱落対象外になるわけですか――、新情報ですね。
能力を奪う条件がある……、
いやまあ、無差別にリスクなく奪えるわけがないことは百も承知ですけどね。
「病院へ……」
「いえ、必要ないです。あと、これお会計です。ぴったりですので、レシートもいりません」
細かいやり取りは省きます。今は犯人を追うことが先決なので。
犯人の顔は覚えていないけど、服装は覚えています。上下を『ジャージで揃えた』服装だったはず。そして、白いスニーカーには、コーヒーの茶色がべったりと付着していた――。
顔じゃなく、足下を見れば。
犯人は、簡単に見つけ出せるはずです。
記憶改竄をされている可能性はもちろんありますが、相手に抜けたところがあるとすれば、顔や服装は意識しても、足下までは見ないのではないか? と思っただけですけど。
足下まで変えられていれば、特定は難しいですけど、でも、挑戦する意味はあります。
俯いて歩くことで分かる真実もあるんですよ?
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