第9話 十位圏内
「おい、誰だ、お前は」
校舎を迂回してきたのか、おれたちに近づく足音一つ。
おれとは反対方向に逃げた、ユータだ。
「こっちのセリフだけど……」
少女は一瞬、おれに視線を向けた。
おれの仲間であれば、安易に手を出せないと配慮してくれたのだろう。
「四位の支持者でおれの親友のユータだ」
「お前は、また……ッ」
呆れた様子で、ユータが大きな溜息を吐く。
「バカは死ななきゃ治らないのかよ」
「死んで治るかどうかも怪しいけどな」
「自分で言うな……。
で、そいつはなんだよ、俺たちのクランに入りたいのか?
見たところ能力者のようだが、
他のクランから移籍をしたいって言うなら認めるが、そうでないなら――」
ユータが手の平を少女に向け、
「敵なら殺すだけだ」
「待てっ、ユータ! この子はおれを助けてくれたんだ、害はない!」
「お前を助けたからなんだ? 害がないって保証にはならねえよ。
そもそも、お前の知り合いだからって攻撃をしない……、
なんて、俺が気を遣うと思うか?
忘れるな、お前は俺の敵なんだ。お前と一緒にそこの女も殺すつもりだっつうの」
「やめろッ!」
「だったら移籍をするか、死ぬか、選べ。
選ばせてるだけ優しいと思えよ。
こっちは問答無用で殺すこともできるんだからな。
そしてヨート、お前には最終警告だ、生理的な嫌悪感があるのかもしれねえが、なんとかしろ。四位を支持してくれれば、俺はお前を殺さなくてもいいんだからよ」
「……なんであなたが主導権を握っているのよ……」
ぼそっと呟いた少女の声を、ユータは聞き逃さない。
「この場で、俺が最も強いからだ。
クラン内でも俺はある程度の信頼が置かれている。リーダーからも『特別順位』を受け取っているからな……、能力も増強されているんだよ。
お前の能力がどういうものか知らないが、増強された俺の能力に対抗できるか、女」
「できるんじゃない? シンプルだからこそねじ伏せられる能力ってあるものだし」
この子……、好戦的だ。
能力からして攻撃的なのだろうとは思っていたけど。
一触即発の空気感……、
どちらかが動けば、戦闘が始まってしまうだろう。
能力者同士の殺し合いが。
「ま、待てよ! あんただ、あんただけでもいい、
ユータに従って四位に移籍した方がいい!
……嫌悪感があるのは分かるけど、嘘でもいい、とりあえずでいいから、移籍すればここでの戦闘は避けられる! あとでまた移籍をし直せばいい――だから!」
「いーや!」
べー、と舌を出しながら、
「どうしてあたしが譲歩しなくちゃいけないの? あたしを心配してくれてるのは分かるけど、それってあたしよりもあっちの方が強いって思ってるからよね?」
「それは……、ああ、そうだ。ユータとあんたじゃ環境が違う。
あんたがどこの所属か知らないが、クランの数は一人一人の能力者の能力を強化させる。
ユータの能力は今どれだけ強いのか分からない……っ、おれは!
おれを助けてくれたあんたに、危険な目に遭ってほしくないだけなんだよッッ!」
彼女の手を取り、力強く引っ張る。
乱暴かもしれない……、
それでも彼女を手繰り寄せ、目を合わせる。
引き止める理由はこれしかない。
しかし、最も強い理由だとも思った。
「……そ、そこまで心配してくれるなんてね……驚いちゃった」
「退いて、くれ。怪我を、しないでくれ……っ」
頼むから。
「ふう。でも、そういうことなら、安心して。あたしは大丈夫だから」
「そんな証拠がッ、どこに――」
「これ」
ぺろ、と、少女が服をめくり上げ、お腹を晒した。
白い肌が目に飛び込んでくる。
傷一つない手触りの良さそうな肌の上に、刻まれた数字があった。
それは……、
「……能力者は、体の一部に数字が刻まれている……。
とは言っても、二位から二十位までだがな。
それ以下は圏外、と表記される。
……数字というだけで、上位能力者とすぐに分かるが――まさか、お前がねえ……」
ユータが口の端を吊り上げ、くはっ、と笑った。
「――ここで潰しておけば、
リーダーの敵は減らせるわけだよなあッ、十位圏内!!」
「……え」
そう、少女のへその上に刻まれていた数字とは――、
『8』だ。
十位圏内、八位の能力者。
「自己紹介が遅れたわね、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます