第5話

いつもと変わらない朝。

私は、家を出る。


あんまり気合いが入り過ぎてると思われるのも嫌だったから、ほんの少しだけメイクも髪型もいつもより気を遣ったかも。

意味ないかもしれないけどね。


昨日あれから、どう話しかけようか考えていた。

口下手で、どうせ上手く話せないだろうから手紙でも渡そうかと思ったけど、知らない子から急に手紙渡される方が怖いよなって。だから、りっちゃんのアドバイス通り、普通に話しかける事にした。

普通に。

そう、普通にね。

普通に?

普通にって、どうやって?

とりあえず、あれだ。

挨拶して、自己紹介。それだけだ。

出来るだけ、普通っぽく。

普通、普通ってなんだ?世の中の普通って、何が普通で何が普通じゃないんだーー!


頭の中を色々な考えがぐるぐる回る。


バスが曲がってやってくる。

5、4、3、2、1


扉が開いた。


美少年は、いつもの様子でいつもの席に座っていた。


降りるバス停のギリギリまで、私は近くの座席に座り、話しかける機会を窺っていた。


もうあと二駅で、私は降りなければならない。

勇気を出せ、あいりっ!ここで頑張らなくてどうするっ!!!


私は立ち上がって、その勢いで美少年の目の前に立った。


「あのっ!お、おはようございますっ!川西大我さんですか?私、松崎あいりって言います!よ、宜しくお願いしますっっ!!」


汗ばむ手。

彼の顔は1秒たりとも見られなかった。私は、暫く俯いていた。

彼からの言葉を待った。


「おい」


ん?意外と乱暴な物言いなんだなぁ。


「は、はいっ、、!」


「川西大我は俺なんだけど」


私は咄嗟に顔を上げた。

美少年は、きょとんとした顔でこちらを見ていた。


「おい、こっち」


後ろから声がした。


「へ?」


振り向くと、そこにはまた違うタイプの美少年が立っていた。


少し癖のある黒髪に、しっかりとした眉毛。気の強そうな目。整った鼻筋。日に焼けたような肌。なんか、スポーツが得意そうな感じ。



この人、誰?

頭の中が真っ白になった。



人違いしちゃったんだ、私、、、。

恥ずかし過ぎる、、、。

あまりの恥ずかしさに真っ赤になった私は、美少年に謝ることすら出来ないまま、降りる1個前のバス停で咄嗟に降りてしまった。

うう、、、もう全部終わった、、、。

さようなら、私の恋、、、。


「待てよっ」


気付けば、気の強そうな美少年もバスを降りていた。


「ちょっと聞きたい事あるし、10分くらいいいか?お前どうせ次のバス待つだろ?」


これが、私と川西大我の出会いだった。




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