第7話 消しゴムと仲間

 はぁー〜……。この前、青くんは悩んでいたみたいだけど、結局今は、なんやかんや赤ちゃんと黒くんと仲良くしているようだ。


「バツバツーーーー!」


「何だよ。まだ慣れてないんだから仕方ないだろ」


「バツバツーー!赤ちゃんって呼ーーんーーで!」


「ふっ。純血の力の持ち主よ。落ち着くんだ」


「だっさ!なっが!バツバツ!黒くん」


「ふっ。…………」


「いや、もう候補ないんかい」


「ふっ。……紅蓮の、……紅蓮の使い、よ」


「いや、言うなら堂々と言えよ」


「あはは。マルマル!」


「どこがマルなんだよ」


 はぁー〜……。うん、仲良さそう。良かった。はぁー〜……。

 悩んでいたのは、メーカーが三人の中で独りだけ違うからだったみたいだけど。はぁー〜……。結局、同じボールペン同士。気が合うものがあるのだろう。


 はぁー〜……。気にしないようにはしているけれど。はぁー〜……。僕ってやっぱり、独り者なんだな。はぁー〜……。心なしか、今日はため息が多い。はぁー〜……。もう引きこもっていたい。

 同じ出身地のやつはいないし、消しゴム仲間もいないし。はぁー〜……。主さんは、消しゴム2個持ちしないんだよなぁ。はぁー〜……。2個持ちの方が少数派だと思うけど。はぁー〜……。


 シャーペンなら、「出身なんて関係ない。主様に尽くすなら関係ない」なんて言いそうだ。はぁー〜……。まぁ、たぶん正しいんだろうけど。

 はぁー〜……。シャーペンか。最近は、僕なんかにも話しかけてくれる。好かないやつだと思ってたけど、まぁ、いいやつだと思う。


 はぁー〜……。


「どうしたんだ?消しゴム。いつも以上にため息なんてついて」


 そう、こうやって話しかけてくれる。優しげな目で、ということはないけれど、話しかけてくれた。

 シャーペンに相談するなんて、何だか癪だ。はぁー〜……。


「何か気にかかることがあるなら、解決しなければ。主様に仕える身として、全力で仕事ができるようにするべきだ」


 はぁー〜……。言うと思った。はぁー〜……。こうなると、シャーペンは長そうだ。話すのはやっぱり癪だし、返しも予想できるし。はぁー〜……。できれば話したくないが、質問責めされる方が嫌だな。


「はぁー〜……。僕、独り身だから。それが、嫌だってゆうか……」


「出身が同じやついないってことか。どこ出身であろうと、主様に尽くすなら皆同じだ」


 はぁー〜……。言うと思ったよ。しかも、めっちゃ真面目な顔で言ってるし。はぁー〜……。


「あ、忘れているかもしれないけど、消しゴム仲間はいるんだけど」


「え……?」


「僕の頭に、ちっさいやつが」


「おい、ちっさい言うな」


 いきなり、シャーペンの頭から、聞き慣れない声が聞こえた。そういえば、シャーペンの頭に、蓋があったけど、開けたらちっさい消しゴムがいたのか。


「悪口言われてる気がする」


「はぁー〜……」


「ため息でごまかすな!」


 頭にいるやつまでめんどくさいんだな。はぁー〜……。


「おい、また悪口言ってないか」


「はぁー〜……」


「全くだ!小さくて何が悪いんだよ!どいつもこいt」


 あれ?あ、蓋で閉ざされた。はぁー〜……。疲れた。あんなやつが仲間なんて、嬉しくない。


「主様の気分で、たまに開くんだよ。めんどくさいからあんまり開いてほしくないんだけど」


「おい、めんどくさいって言うんじゃねぇ!」


 はぁー〜……。


「っていうか、開けるなら使えよ、主はさぁ!」


「主様の悪口言うな」


「この真面目やろーが」


 はぁー〜……。何でこんなに気が合わないのに、一体になってるんだ。いや、逆か。一体になってるのに、何でこんなに性格が違うんだ。

 言い合いをしていると、主さんはシャーペンを逆さにして、シャーペンの頭を使って、文字を消した。


「…………」


 しばらくちっさい消しゴム黙ったままだった。そして、いきなり声を上げた。


「うあああああ……!なんで本当に使うんだよ!俺はきれいなままでいたあかったのによぉ!」


 どっちなんだよ。はぁー〜……。めんどくさいやつだなぁ。けど、このままあいつが使われ続ければ、僕は筆箱の隅で引きこもれる。あぁ、そうなってくれないかなぁ。


 その夢は、一瞬で潰えた。主さんは、僕を持ち上げて、紙にこすりつけた。


「お前がそうやって、ずっと使われていたら、俺はきれいなまm」


 また主さんは、蓋を閉じた。ずっと閉じててもいいのに。はぁー〜……。でも、そうか。あんなのでも、仲間はいたのか。そうか。


 ため息の数が、シャーペンの頭の消しゴムと知り合う前より、少し減っているのを、自身では気づいていないのだった。

 ただ、寂しい気持ちがほぐれたのだけは、心の隅で感じていた消しゴムだった。

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日常の中で。 夏野 鈴 @natu__no_oto

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