第6話 青くんと赤ちゃんと中二病

 俺は青。青のボールペン。


「そう、俺は青。そして、青と言えば、シャーペンくん」


「え、……冷静?」


 うんうんと首を縦に振る。そして視線を横に移した。


「消しゴムくん」


 消しゴムくんビクリと体を跳ね上がらせ、答える。

「はぁー〜……、僕……?はぁ、僕もフィルムは青なのに……。青くんみたいに冷静で爽やかな感じとはかけ離れてるよな……はぁ……」


「どしたの!!何の話??」

 ふせんが登場。シャーペンが答える。

「青色ってどんなイメージかっていう話」

「青色??青色はねぇ!!あ、集中力が上がるって聞いたことあるよ!!」

 集中力が上がる、か。それは初耳だ。


 しかし。それ以外にもあるだろう。


「それに加えて。だよ」

 皆そろって、首を傾げる。全くだ。


「それは。イケメn……」

「バーーーーーツ!それはバツーーー!」

 うげぇ。出た。


「バツだよ!バツ!全く青くんってばぁ」

 ってことは、あいつも。

「ふっ。待たせたな。もちろん蒼穹もイケメンなイメージもあるかもしれないが、一番はやはり、漆黒の闇からいでし、我が纏う色。そう、くr……」

「バーーーーーツ!中二病黒くんもバツーーー!」

 すかさず赤くんが割り込む。


「ブラッドレッドフレイムよ……。まだ我のセリフは終わっていない」

「バツバーーツ!なぁに、ブラッドレッドフレイムって!長いし微妙にダサーーい!」

「なんと。この俺が考えた言葉がダサいと」


 その後も赤くんがバツバツ、と黒くんに突っ込みをいれ続ける。黒くんも精神力が削られていく。

「赤くん、そろそろにしないと、黒くんが」

 俺が赤くんを止めに入ると、すかさず赤くんのターゲットが俺に移る。


「もぉー!青くんってばぁ!あたしのことはくん付けじゃなくて、ちゃん付けで呼んでよ!」

 嫌だよ。ちゃん付けで呼ぶなんて恥ずかしいし。全くだよ。こいつらは。赤くんマルバツばっかり言ってるし、黒くんはどうやら『中二病』という病にかかっているらしい。お大事に。と毎日思っているが、いっこうに治る気配がない。お大事に。


「なんでちゃん付けしてほしいんだ?」

 一応聞いておく。赤くんはグイッとこちらに顔を寄せて答えた。


「なんか、そっちの方がビビッときたから!マルーーーっ感じで!」

 なんだそれは。

 俺が呆れていると、横で黒くんが声をあげた。


「ふっ。我が名付けた、ブラッドレッドフレイムより、赤ちゃんがいいと。仕方がない。それが御身の望みであるなら、従おうではないか」

「マルーーーー!中二病黒くんマル!」

「ふっ。この我の良さにようやく気がついたとは。ふふふ。まぁ、まだ本気の60%しか出していないがな。はっ!どうした我の右手!ああ!右手が疼く!」

 それが言いたかっただけだろ。

「マルマルーー!」


 まず、なんでこいつら話通じてるんだ。話に入っていけない。他の皆も、もう呆れて二人の話を聞いていない。


 いつもそうだ。二人は話し始めたらすぐ二人の世界に入ってしまう。俺はいつも置いてけぼり。同じボールペンなのに。理由はなんとなく分かる。俺だけ“ぺんてる”だからだ。対して、二人は“uni”。もうそこから俺らはすれ違っている。

 いや。まぁ別に、仲が良くなりたいとかではないが。あんなうるさいやつら。が、同じボールペンとして、仲間外れは、その、なんか。な。


 他の文具たちは、いちいちそんなことを気にはしないのが多い。シャーペンくんなら、「どこの会社出身でも、主様に尽くすのなら関係ない」なんて言いそうだ。シャーペンくんは“ZEBRA”。“ZEBRA”出身は、他にもマーカーくんたちがいる。仲間がいるやつには、きっとこの気持ちは分からないのだ。


「はぁー〜……」


 このため息は。


「消しゴムくん」


 そういえば、消しゴムくんも俺と同じで、独り者。“トンボ鉛筆”だ。きっと消しゴムくんなら、俺の気持ちを分かるかもしれない。


「はぁー〜……、赤ちゃんも黒くんも元気だよなぁ。僕なんか違って……。気が合ってるし。はぁー〜……。こんな僕と気があってくれるやつがいたらなぁ……。はぁー〜……。でも、僕って同郷のやつがいない独り身だし。のあぁ、でも、こんな性格なのがいけないのかなぁ……。はぁー〜……」


 聞いているだけでため息が出そうだ。はぁー〜……。って、だめだだめだ。癖がうつりそうだ。

 でもやはり、消しゴムくんも僕と同じように思っていたんだ。なんだか親近感。


「消しゴムくん」

 もう一度呼びかけると、こちらを振り返った。


「あ、青くん……」

「僕も同郷のやついないから。気持ち分かる」

「あ、そうか。そういえばそうだったね……。で、でも、全然そういう風に見えないよ……。二人と、仲、良さそうだし……。はぁー〜……」


 仲が良い……?仲が良いのだろうか。


「ねぇねぇ!青くん!バツーーーーって感じがするんだよ!」

 突然耳元に甲高い声。


「どうしたんだ?あ、赤、ちゃん……?」

 恥ずかしい。よく分からないけど、どにかく恥ずかしい。

「あ、マルマルーーーー!青くんマルーーーー!えへへっ!なんだかマルーーって感じで嬉しいね!」

 赤ちゃんはぴょんぴょんと跳び上がっている。悪い気はしない。


「でもねでもね!中二病黒くんのはバーーーーツ!なの!」

「黒くんが言うと似合わないってことか?確かそうだけど」

「マルマル!」

 合ってた。


「ふっ。まぁこの我の言霊には似合わぬのは、仕方のないことだ。ふっ」

 なんか腹立つな。


「中二病黒くんだからかなぁ!ビビッとこないの!」

「ふっ。だが、我にも言いたいことがある。その『ちゅうにびょう』をつけるのは、我にはふさわしくない。ふっ。せっかくなら、漆黒の悪魔と呼んでいただきたい」

「それはバツ」

 うん、それはないな。


「黒くんはやっぱり、中二病黒くんでマル!なの」

 ここだけは息が合うな。


「ふっ。なら、仕方が、ないか……」

 なんか落ち込んでる。珍しいな。


「ふっ。右手が疼く!!!!疼ーーーーく!!!!」


 やっぱり大丈夫そうだ。

 それからも中二病黒くんは、疼く疼くと叫んでいた。結局、黒くんは、赤ちゃんのことをなんと呼べばのだろうか。解決しないまま、黒くんが会話に参加しなくなってしまった。


「えへへっ。マルマルって感じだね!なんか」


 赤ちゃんまでマルマルと叫び続けてしまっている。全くだ。全くだけど、なんだか笑顔がこぼれている自分がいる。


 仲が良いって、こういうことで良いのかなって、そう思う。


「右手が疼く!!!!」

「マルマーーーーーール!!!!!」


 やっぱうるさいな、こいつら。



「あ、そういえばね!青くんも、中二病黒くんも、イケメンではないよ!めっちゃバツバーーツ!なの!」


「………。右手が、疼かない」

 よく分からないが、きっと気持ちは一緒だ、黒くん。

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