第3話 危機

 はぁー〜……。僕にはどうにも好きになれないやつがいる。

 何?この始まり、聞いたことがあるって?そんなの僕は知らないよ。

 で、そいつっていうのは……。

「主様……」

と、よくつぶやいている、シャーペンとかいうやつだ。

 僕はそいつが書いた文字を消すのが仕事なんだけど。はぁー〜……。それがやつには気にくわないらしい。まぁ僕も、仕事があるのは幸せなことだ、なんて思っていそうなやつの考えは、理解ができない。

 まぁそいつとも、最近理解し合えるような気がしてきたんだけど……って、今はやつのことを説明している場合ではないのだ。人生最大の危機だあ、消しゴム生か。

 僕は今、床に寝転がっている。幸いなのは仰向けということだけだ。さすがに床に顔を張り付けられている状況は避けたい。

 目の前では、照明が光っていて、目がチカチカしてくる。この状況になったのは、主さんが移動中、筆箱を落としたことが理由だ。筆箱のチャックが開いていたせいか、バラバラと僕たちは廊下に投げ出された。僕以外の仲間は主さんと主さんの友人に拾われたのだけど……。はぁー〜……。どうやら僕は拾い忘れられたようだ。

 チャイムはすでに鳴ったから、全然人も通らない。当分はこのままだろう。はぁー〜……。

 

 はぁー〜……。主さんのもとで働くようになって、二ヶ月ほどが経っていた。僕の頭は着々とすり減っている。たまに足の方も。

 僕ら消しゴムは、使われる度に小さくなっていく。小さくなればなるほど、もともと薄い存在感はどんどん薄くなっていく……。はぁー〜……。から、落とされたり、今回みたいに投げ出されたりすることはよくあった。だけど、その度に主さんは拾ってくれたけど。はぁー〜……。今回は拾ってくれなかったようだ。

 やっぱり僕なんて、小さくて存在感は薄いし、消すだけが仕事で、でも鉛筆かシャーペンで書いた文字ぐらいしか消せないし……。しかも小さくなればなるほど、主さんが僕を失う可能性はどんどん高くなっていく。僕らはたいてい使い切られることはないし、シャーペンやボールペンのように、「お気に入り」になって、長く使われることはない。はぁー〜……。僕、なんて。

「キーンコーンカーンコーン」

 チャイムが鳴った。はぁー〜……。もうずっとこのままなのかな……。まぁ仕方ないか。なんだかもうどうでもいいや。

 だんだん眠くなってくる。はぁー〜…………。


 目が覚めたら、馴染みの光景があった。机の上。黒板。主さんの手。筆箱。シャーペン。

 ?????

 僕の頭はハテナで埋め尽くされる。なにがあったのだろう……。

「消しゴム!!よかったな!!」

 はい??

 とりあえず、あのまま忘れられてお終い、ということはなかったようだ。よかった……。

「主様からああ言ってもらえるなんて、うらやましい!」

 ちょっと待て。

「僕、覚えてないんだけど……」

「何?!なんてもったいない」

 シャーペンは目を丸くさせてこちらを見る。

「しかし、僕が代弁するのはおこがましいことだ」

 シャーペン〜〜……。まぁシャーペンらしいといえばそうだけど……。

 でも、きっと「いいこと」を言われたんだろうな。

「主さん、ありがとう」

 今日はきっと、いい夢をみられるな、なんて思った。


「よかったぁ、消しゴムあって」

「柚はすぐ物なくすからねぇ、気をつけないと」

「そう!だから、この消しゴムは最後まで使い切ろうって決めてるの!消しゴムは特にすぐなくしちゃうから」

「わかる!いつの間にかなくなったりするよね」

「これをきっかけに私の悪癖を直そうと思って」

「私も使いきれるようにがんばろっかな」

「なくさないように、お互い頑張ろうね」

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