極寒と灼熱

「寒いというのに、食料となる生物は数知れない。

 良い世界だ」

 案内されて移動する直前、アザトがそう言った。

「この遠征えんせいが終われば、さらに大きな軍を動かそう。狩り場と住処の拡張を行い、第二のゼロ国を作る」

「『第二のゼロ』ですか。

 少し、ややこしい」

 ゼロの由来を知っているわずかな者であるイェードが、笑って答える。

 一〇〇〇人の軍事力を率いて、彼らは進んだ。

 朝に出発し、雪原を移動する。運が良ければ、一日足らずで着くそうだ。

 しかし、運はそう良くなかった。

 すぐに猛吹雪に襲われ、が遅くなる。

 竜が出るよりはまだいいと思っていた矢先に、風に乗った火炎が隊を横薙ぎに襲う。

 猛獣の王の威容が、猛吹雪の中で少しずつ見える。降り注ぐ雪の中で、竜が襲いに来たのだ。

「国王を中心に密集せよ!!

 絶対に王を守れ!」

 イェードはファングボーンを振るい、そう命じた。

 ただ狩るのではなく、王を絶対に守らねばならない。

 重みを感じながら、イェードと軍人たちは動いていく。

 極寒と灼熱。相反する要素に道を阻まれるゼロ国軍だった。

 いつものように巨弓部隊を展開する。狙うのは眼だ。決まっている。

 幾度いくどとなく対竜戦を行ってきた精強な部隊は、損害に動じることなく戦線を維持し、竜などは打ち払う。

 出発からおよそ二日後に、大集落へと着いた。

 話をしてから、五〇〇人ほどの軍隊を残し、残り五〇〇人の近くがゼロ国への帰路についた。

 イェードやアザトは凱旋がいせんし、ゼロ国に戻る。

 その予定だった。

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