虐殺

 大量の矢が放たれる。ほとんどは遠くからでも撃ち込めるゼロ国・イェード軍の巨弓きょきゅうからだ。

 その集落に居る奴隷どれいや正規兵が持つ、硬いはずの盾が簡単に粉砕ふんさいされ、兵の多くが死んだ。

 見てわかる通り長いやりを警戒するのは当然で、密集陣形を取る敵兵士をイェード軍は次々に矢で仕留めていく。

 イェード軍五〇〇〇人は僅かな死傷者で、約四〇〇〇人からなる敵部族を打ち破ったのだ。

 ほぼ遠隔兵器のみで、白兵戦はくへいせんとはならなかった。槍を使わせずに仕留めることに成功した。

 集落は陥落かんらくの有り様で、イェードが内情を知っていれば、自滅を待つのみだったはずだろう。

 正規兵を失ったすきに奴、隷兵士や奴隷階級の者たちが反乱を起こして、上の者を殺害。

 逆に叛徒はんとを抹殺すべく、正規兵はイェード軍ではなく予備戦力だった奴隷兵士に手をかけた。

 勝手に争いが起きている様子を遠巻きに見ながら、イェードが指揮する軍は北側から更に包囲網を狭め、一部の精鋭がイェードに率いられて集落内部へと侵入していった。

 イェードは、実際の目で見たその景色に、眉をひそめた。

 狂ったように近づいてきた、奇声を上げる兵士らしき男はイェードのファングボーンを使うまでもなく、彼の持ち物であったナイフを投げられ、頭に突き刺さって殺された。

「ひどくみにくい光景だな。

 これは皆殺しの現場だ」

 集落内部では、酷い方法で殺された死体がいくつも転がっていた。

 苦しめられ、はずかしめられてから殺された者たちが多くいた。

 服装でわかるが、一般の者もいるし、軍人と思しき者もいた。

「内乱でしょうか」

「多分な。

 一旦引き上げるぞ。

 これ以上は見ていられない」

 イェード隊は警戒しつつ、ひるがえって集落の外へと戻った。

「我々も多くを殺したが、この集落そのものではない」

 吐き捨てるように、イェードはそう言った。

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