不死身の怪物

 その生き物は、獲物えものの熱を感知かんちする特殊な目を持っていた。例の子どもとはまた違った目だ。

 昼も夜も、お構いなしに活動する特殊な生態であり、その身体の形状から陸を素早く移動するのは苦手だが、泥中に穴を掘ってじっくりと時間をかけて狩りをする。

 呼吸は頭の上にある呼吸孔で行い、運悪く頭上を通った獲物を、その多数ある足で捕まえて捕食ほしょくする巨大生物だった。

 村の者たちは、恐怖を込めてその怪物を『イモート』と呼んでいた。

 その意味は『死なない』。すなわち『不死身ふじみ』。

 長老いわく、その真っ黒な足はいくら攻撃し、切断しても、すぐに生えてくるというのだ。

 村人たちはイモートについては足の部分しか知らなかったので、長いつるが魔法の力によって生命を帯びた魔法生物なのだと信じ込んでいた。

 にわかには信じがたい生物だが、見てみればわかるだろうとマルス隊は、松明たいまつを片手に戦いにおもむいた。

 村から出てすぐのところで、大量の蔓のような肉、足がうごめいているのが遠巻きにわかった。

 危険を意識する、マルス隊一行だった。

「このままでは、村人たちが襲われて死ぬ。ここで倒すしかない」

 村から出たマルスは、そう宣言する。

 副長全員がうなずき、他の戦闘員が続く。

 これが相手では、弓はまず当たらないので皆は牙などを加工したナイフや片刃剣かたはけん、イェードは得物・ファングボーンのその重さから松明を持たずに両手で構えて迎え討つ態勢を取った。

 たきぎの火があったのは幸運だった。

 すでにイモートは火の、その強い熱を獲物だと勘違いして、捕食態勢に入っていた。

 だからこそ足が、大量に堀った穴に泥中の奥底から出ていたのだ。

 暗視の子どもがいなければ、まず夜番の者が先に手早く捕食され、その後はゆっくりと村で寝ている者が餌食えじきになっていったことだろう。

「これは腕? 足?

 いや、なんでもいい、攻撃するぞ!」

 イェードは考えをすぐに切り替えて、巨大な棍棒を振り回す。螺旋状に嵌め込まれた牙の刃が長い足を捕らえ、切断する。

 切られた足は痛覚つうかくがあるのだろうか、ちぢんで引っ込む。

 イェードの勇者ぶりに感嘆かんたんする皆だが、まもなく驚愕の光景を目の当たりにすることになる。

 切られた足が戦闘中の最中にじわじわと伸びていき、ほぼ完全に修復されたのだ。

 足の先からはまだ血が滴っているが、すでに『にょろにょろ』とうごめいている。

生命せいめいの力、化け物……」

 マルスが言葉にならないような言葉を発するが、まだ隊の戦意はくじけない。

「根本はどこにある!?」

 イェードはしかし、おいそれとは突っ込めない。

「よく見ろ、

 つめがあるのと、無いのがあるぞ!」

 班長の一人がそう言った。たしかにそうだ、イェードも続いて理解した。

「一度切ってしまえば、爪までは簡単には生えてこないようだな。

 攻撃力を削げるわけだ!」

 言って、さらにファングボーンを振ってもう一本の先端を切断する。

 足はやはり同じ長さにまで回復するが、爪はなくなっていた。

 時間をかければ爪までも再生するのかもしれないが。

 先端の血がしたたっているのは、肉で完全に塞いで、爪が生えてこられなくしないためのものなのかもしれない。

 とげのような爪がついた足は、松明めがけて刺突してくる。完全に獲物だと思っているようだ。

 足本体も、その筋力は相当強いものだった。

 誰かの足が怪物の足に巻き取られ、その身体をひっくり返されて持ち上げられる。

 その男が悲鳴と共に持ち上げられるが、イェードが自分のファングボーンを投げてその刃を引っ掛けるようにして、絡まった怪物の足を切断する。

 捕食に運ばれつつある男は、濡れた泥の上に無傷で落下して、悲鳴を上げて他のものへと再び合流する。イェードも前転して、手早くファングボーンを回収した。

「これでは、キリが無い!」

 マルスが苦しい声を上げる。

 先端の尖った爪付きの足も危険だし、身体に巻き付く足の方も危険。存在全てが危険だった。

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