交易

 その村は五〇〇名ほどが暮らすそれなりの大きさの集落だった。

 マルス隊は、面識のある『大きな村』者を前に立たせ、みんなで手を降って敵意がないことを示して村の中に入れてもらう。

 長老らしき者がやってきて、マルスに水の入った動物の皮の袋を差し出した。

 マルスも応じ、中身を確認してからしっかりと口をつけてそれを飲んだ。

『塩』は粘土を焼いて作られた、つぼかめといったかま焼きの容れ物に詰められている。

 水によく溶けるが、腐ることが無いのがとても良い食料、調味料だ。

 それを、運んできた肉類と交換していく。

 お互いに譲り合い、形としては不満が出ることなく全ての交換が終わった。

 塩の入った壺などは、厚手の毛皮の袋に入れられて、割れることのないように丁寧に運ぶ手はずだ。

 皮袋に入れた状態で塩窯しおがまは置いておき、マルス隊は夜が明けるまで村の中で休息を取ることにした。

 自前の食料の残りで食事を済ませ、ただし水だけは村から貰った。

 事件が起きたのは、当日の夜のことになる。

 あいにくの空模様そらもようで、月明かりがかくれては顔を出す。その程度の天気、くもりだ。

 まだ雨は降っていないが、ここは湿地帯。

 雨が降る状況もそう珍しくはないはずだった。

 熱や火に干渉する力を持つものは、百人がいれば一人か二人はいる。

 魔法というものは、謎に包まれているが、便利でもある。

 その日は魔力を持った子どもが、村の入口前に二箇所置かれたたきぎの場所で火をつけた。

 その子どもは変わった子で、『暗い』という言葉の意味を測りかねていた。

 その子どもは、暗視あんしの魔法を持っていたのだ。

 太陽を直接見るのは大の苦手だが、代わりにわずかな光を増幅ぞうふくさせることで、真夜中でものが見える。

 あいにくの空模様だが、月が一瞬、顔を出した。

「変なやつが居る!!」

 その子どもが村の外へ向け、指を指して騒いだ。

「敵か! 山賊さんぞくか!?」

 見張り番も不安げに子どもの声に耳を傾ける。

「違う。なんか『にょろにょろ』がたくさん動いている! こっちに近づいてくるよ!」

「まさか……」

 蒼白そうはくになった見張り番が子どもを連れて、村の者たちを呼びに行った。

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