業務連絡④
「土曜日13時から! 集合時間はそうだね、12時半にしようか!」
しばらく神奈月先輩の関係無い話が続いた後やっとフットサルの話になり、改めて集合時間の確認と必要な持ち物の確認を行い、その日は解散となった。
俺と梨音はせっかくなので同い年組である前橋と一緒に帰ることになった。
前橋の家は電車で一駅隣にあるということで駅まで一緒に歩いて帰った。
「へ〜、きいは元々サッカーやってたんだ」
「うん…………身長が伸びないからやめた」
梨音は既に前橋のことをキイと名前で呼んでいた。
距離の縮め方が上手いね。
「俺は高校でも身長は伸びるって言ったんだけどな」
「…………早寝早起きしたらなんて、小学生に言うセリフ」
「本当だね。自分が小学生なのにね」
「誰が小学生だ。俺はちゃんと実際に成長した人を知ってるからこそのアドバイスなんだぞ」
「へー、まさか自分だなんて言わないでよね」
「言うかよ」
「じゃあ誰?」
「若元梨音って知ってる?」
「私じゃない!!」
バシンと肩を叩かれた。
そうだよお前だよ。
中学生の頃に俺に自慢してきてたもんな。
早寝早起きしてたら1年で10cm身長が伸びたって。
女子にしては驚異的すぎるだろ。
その後の2年はそんなにだったけど。
夜更かししてたんですかね。
「中1の頃はすぐに身長でマウント取ってきてたもんなぁ。すぐに追い抜いてやったけど」
「そんなにマウント取ってない!」
「な? 前橋、こいつみたいに早寝早起きしてたら身長も胸も成長しまくりだから」
「せ、セクハラ! 堂々とセクハラ発言してる!」
「確かに…………梨音なら説得力ある」
「きい!? 騙されないで今この人最低のクズ発言してたから!」
前橋は梨音の胸をマジマジと見ていた。
良かった、いつもの勢いでセクハラ発言してしまったけど、前橋はあまり気にしないタイプみたいだ。
セーフ!
「それはそれとして……高坂は最低」
ダメだった!
余裕で軽蔑されてた!
女子の引いた目怖ぇー!
「…………くすくす」
あ、でも前橋笑ってる。
今の何がツボったんだろう。
あんまり笑わないけど、やっぱり笑うと可愛いよな。
「高坂も梨音も面白い」
「そ、そうか? まぁ梨音は芸人としてやってけるほど面白い奴ではあると思うが」
「修斗のことでしょ。特に顔」
「誰が芸人顔だおい! せめて喋りを推してくれ!」
「くすくす」
駅に着くまで俺と梨音のやり取りが続き、前橋がそれを見て笑っているという不思議な漫才空間が成立していた。
決して本意ではなかったが、前橋がそれで喜んでいたようなので俺も楽しくなった。
「じゃあな前橋、気を付けて帰れよ」
「またね〜きい」
「うん……二人も気を付けて」
前橋はそのまま駅の改札の中へと入っていった。
俺と梨音はそれを見届けた後、家へと帰った。
「きいと仲良くなれて良かった」
不意にそう言った梨音の言葉に俺も賛同した。
「な? 悪い奴じゃないだろ?」
「うん。しかも凄い可愛らしいよね」
「まぁな。ああ言うのを美少女って言うんだろうな」
「そうねー」
…………思うんだが、女子が他の女子の事を可愛いって褒めてる時って、最終的にはなんて返すのが正解なんだろうな。
こう言う場合は相手のことも褒めるのがセオリーなのか?
無言で終わるよりも、綺麗な着地点ではあるよな。
例えば『お前も充分可愛いよ』。
…………ないないない。
きっしょ。
相手が彼女とかならいいかもしれないが、幼馴染とはいえ梨音相手にこの発言はキザ過ぎる。
恥ずかし過ぎてよう言えんわ。
…………でも逆の立場になって考えてみる。
『新之助ってカッコいいよな』
『うん。ああ言うのをイケメンって言うんだろうね」
『そうだな』
『……でも修斗も格好良いよ』
…………悪くないな。
全然悪くない。
ただの妄想なのにニヤけてくるわ。
ということは褒められる事自体はやっぱ嬉しいもんだと思う。
要はその褒め方次第だ。
とすれば、俺自身の考えを伝えるのではなく、第三者からの評価を
「…………梨音も神奈月先輩に広報役として選ばれるぐらいだし、周りから見たら可愛い方なんじゃねーの」
「…………そ、そう?」
「自信持っていいんじゃね」
「そっか…………ふふ、修斗がそう言うなら」
別に俺じゃないよ、と言おうとしてやめた。
その時の梨音の笑顔を見たら、わざわざ否定するのが野暮だと思えたからだ。
直接伝えても良かったんじゃないか、そんな風に思ってしまった俺がいた。
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