業務連絡③
「まだ神奈月先輩は来ていませんか?」
「一度来ていたけど、大鳥君と職員室に行っちゃった。あ、でもきいちゃんならいるよ〜」
「前橋?」
「そこの個室で作業してるんじゃないかな〜。ちょっと呼んでくるね〜」
そう言って新波先輩は会計専用とプレートがかけられている扉をノックした。
「きいちゃ〜ん。お友達が来てるよ〜」
「………………私を訪ねるような友達はいないと思います」
卑屈っ!
返ってきた返事があまりにも暗すぎるだろ!
もう4月後半に差し掛かってる頃だぞ?
そんなんじゃ心配になるよ前橋。
「でも高坂君ってきいちゃんのお友達じゃ───」
「っ!? ちょっ、痛っ!!」
部屋の中からドタバタと音がしたかと思えば、悲痛に呻く声も聞こえてきた。
何やってんだろう……。
しばらくすると扉が静かに開き、中から前橋が顔を覗かせた。
「…………久しぶり」
「よ、よぉ。大丈夫か? 涙目になってるけど……」
「なってない」
いやなってるだろ。
目がうるうるして顔しかめてるじゃん。
「どこかぶつけたんじゃ?」
「…………少し寝てただけ」
前橋がそれでいいならいいけど……。
「きいちゃん仕事の途中だった? 邪魔しちゃってたらごめんね〜」
「いえ、そんなことは……」
「でも本人寝てたって言ってますからね」
前橋にキッと睨まれたかと思えば、梨音に頭を叩かれた。
「そういうデリカシーの無いことは言わないの。前橋きいさん、だよね? 私、7組の若元梨音。広報をやらせてもらうってことで、生徒会に入るかもしれないから、これから宜しくね」
「…………よろしく」
「修斗がもし失礼な事言ったら私に言ってね。代わりにお仕置きしとくから」
「お仕置きってなに? 俺小学生か?」
「当たらずとも遠からず」
「いや遠かれよ。限りなく遠かれよ」
「若元……さんは高坂と仲良いね」
「一応、小さい頃からの腐れ縁だからね」
「そう、なんだ…………」
「だから腐らすなって。新鮮であれよ」
俺との縁をいちいち腐らせたがるな。
そんな消費期限短いのか?
防腐剤バチバチに塗りたくってやろうか。
「今年は生徒会長選挙が始まる前なのに、こんなに生徒会が賑やかで楽しいわね〜」
「去年は違ったんですか?」
確かに本来は生徒会長が決まってから他の役員を決めるはずだよな。
神奈月先輩がいるからこそ起こった現象か。
「……そういえば私は去年、選挙が終わった後に生徒会に入ったから選挙前のことは知らないんだった〜」
「今の会話なんだったんですか」
もうやだこの人。
会話の流れが読めん。
「ただいまみんな! 生徒会長様のご帰還だよ!」
突然、元気よく扉が開いて入ってきたのは神奈月先輩だった。
その後ろに大鳥先輩もいる。
「おや? そこにいるのは次期庶務と広報の二人じゃないか! よしよし、もう生徒会役員としての自覚が芽生えているわけだね。素晴らしいことだよ」
「いや、週末の話を聞きにですね」
「照れ隠ししなくても大丈夫! この才色兼備、品行方正が制服を着て歩いているような生徒会長様の下で働けることに心躍らせているんだろう? 仕方ないことさ!」
人の話を聞かない人しかおらんのかここは!!
今のところ出会った中の変人トップはぶっちぎりで神奈月先輩だからな!
ちなみに次点は新之助。
「会長、高坂と若元が困ってます」
「おっとすまない。溢れるリビドーを抑えきれなかった」
「抑えられたことがないじゃないですか。高坂、若元、この通り会長は少し変なところがあるかもしれないが、悪い人ではないんだ。見限らないでくれよ」
「む、後輩の前でその言い方は酷いんじゃないかなー」
「それなら少しは落ち着いた行動を取って下さい」
おお…………まともだ…………。
大鳥先輩のおかげで話が締まる。
さすが去年から神奈月先輩と一緒に生徒会にいただけあって、扱い方が上手い。
最初に大鳥先輩を見た時はイジられまくってて大丈夫かと心配になったが、やはり先輩なだけあって頼りになるな。
身長は少し低いけど。
「高坂」
大鳥先輩に呼ばれた。
「はい」
「…………前にも忠告したと思うが、よく考えた上での決断なんだよな?」
ヒソヒソと周りに聞こえない声で先輩が話す。
「生徒会に入ることがですか? まぁ、やることも他にないですから」
「そうか…………」
「何かあるんですか?」
こんなに渋るとはどういうことだ?
とてつもないほどの激務だったりするのか?
「いや…………薄々気付いていると思うが、うちの会長は少し変わっているだろう」
「まぁ、はい」
「あの人が生徒会に引っ張ってくるのはだいたい癖が強い人達なんだよ。去年の先輩達がいた時は…………酷かった」
そういうことか。
類は友を呼ぶというが、神奈月先輩が引っ張ってくる基準は確かに変だよな。
特に俺とか。
「僕は去年、ストレスのせいで胃に穴が空きそうになったよ」
「そんなにですか?」
「ぶっちゃけ、あの時高坂に忠告したのも、君を生徒会に入れさせないための脅しも含めてだったんだ。初日から他の生徒に生徒指導するなんて変わってる奴、生徒会に入れたいだなんて普通思わないだろ?」
「ごもっとも」
だからあの時俺に忠告してきたのか。
要は俺を気遣ってとかじゃなくて、自分の心労がこれ以上祟ったら困るから、だったわけだ。
「まぁ、聞いたところによると高坂はサッカーで有名だったみたいだし、話をしてもすごくまともだ。僕としては是非入って欲しいくらいだね」
「ありがとうございます。歓迎してくれてるみたいで良かったです」
去年いたという生徒会役員がどんな人達なのか気になるところではあるが、今年は大鳥先輩の胃に穴を開けるようなことにはならないだろう。
なにせ、この中で一番常識人な俺がいるんだからな。
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