業務連絡②
放課後、生徒会室に梨音と向かおうとしたところ担任の宇佐木先生に呼び止められた。
「高坂と若元、お前らは生徒会を希望しているみたいだな」
宇佐木先生にはまだ話はしていなかったはずだが、どこからか話が伝わっているのか。
おそらくは神奈月先輩あたりが既に根回しをしている線が強いとは思うが。
「まだ仮ですけどね」
「私が生徒会の顧問をしている。神奈月から一通りの話は聞いた」
なるほど、そりゃ話がいくわけだ。
根回しだのなんだのはさすがに邪推だったな。
「今度の交流会に高坂と若元も参加するということでいいんだよな?」
「そうですね。生徒会の活動の一環を体験させてくれるということで。何か不都合がありますか?」
「不都合なんかないさ。本来生徒会を希望する者は例年少ないと聞いているからな、生徒会長の推薦ではなく自主的に立候補するのは学校としても望ましいことだと思う。ただ、今年の交流会はわざわざコートを借りるということで費用が少しかかるという話を聞いた。ドタキャンでもされたら困ると思ってな」
本来はお金がかかるようなことはしないのか…………そうすると神奈月先輩はわざわざ俺のために……?
「学校の体育館とかでは使えなかったんですか?」
梨音が聞いた。
「うちの学校にはフットサル用の小さいゴールはないし、向こうの高校では運動場も体育館も土日は部活で使われていて体育館は使用できないみたいだ。選挙後とかであれば予約を取ることも不可能ではないらしいが、あの神奈月がどうしても選挙前に行いたいとわがままを言うもんだからな。要はお前たち二人のため、だったわけだ」
納得いったというように宇佐木先生がうんうんと頷きながら話した。
どうやら神奈月先輩は先生からの信頼も厚く、多少の融通なら押し通すことができる発言力を持っているらしい。
3年も生徒会やっていればそりゃそうなるか。
「先生から見て神奈月先輩はどんな人に見えます?」
「一言で言えば……食えない奴、だな」
「どういう意味ですか?」
「あいつは高校生にしては世渡りが
それはなんとなく分かる気がする。
あの人の場合は結果を予め決めてから話を始めている感じがするな。
だからといって不快な気持ちにならないところが神奈月先輩の凄いところなのだろう。
「とにかくドタキャンさえしなきゃ私としては言うことはない。青春を楽しめよ少年少女」
嫌に達観した発言だな。
とにもかくにも宇佐木先生は責任感が強い人みたいだ。
わざわざ俺達に確認を取ってくるぐらいだからな。
「ユキセン、俺にも何かいい部活ないか紹介してくださいよ」
たまたま近くにいた新之助が言った。
宇佐木先生のことをユキセンなどと呼ぶのはこいつぐらいのもので、中々に良い度胸していると俺は思う。
「佐川か。話には聞いたが、お前は元々野球推薦で入る予定だったところをわざわざ普通入学してきたらしいな。野球部に入ればいいだろう」
「違うんすよユキセン。野球部じゃ俺の魅力を伝えきれないというか……佐川新之助という存在が埋もれてしまうんです」
まるで苦悩を抱えていますといった表情で新之助が言った。
どう見ても自分に酔ってますね。
「そのまま埋まっとけ……というのは教師として放り投げる発言だな。お前の魅力が存分に発揮することができる部活だな? よし、紹介してやるから付いてこい」
「え、マジであんの?」
冗談で言っただけなのに、という顔で新之助は宇佐木先生の後に付いて教室から出て行ってしまった。
新之助が一体なんの部活を紹介されるのか、若干気になるところではあるものの、俺は梨音と一緒に生徒会室へと向かった。
「神奈月先輩と大鳥先輩以外の人と会ったことある?」
向かう途中の廊下で梨音が聞いてきた。
「会計は前に話したろ。3組の前橋きいってやつ。書記の人は分かんねーや」
「前橋さんか……仲良くできたらいいな」
「大丈夫じゃね。静かな奴ではあったけど、サッカーは好きらしいし」
「じゃあ修斗とも話が合うね」
「下手したら俺よりオタクだったぞあれは。海外サッカーまで網羅よ」
「ちょっと緊張するなぁ」
生徒会室に着き、俺は扉をノックした。
「どうぞ〜」
聞き慣れない女性の声がした。
俺は頭にハテナマークを浮かべながらも扉を開けて中に入った。
「高坂です。あいさつもかねて週末の交流会のことについて伺いにきました」
「まぁ! あなたが高坂君? それにそちらの女の子はもしかして若元さん? いらっしゃ〜い、生徒会執行部へようこそ〜」
中にいたのは初めて見る人だった。
清楚、可憐といった言葉がとてもよく似合うゆるふわな感じの人だ。
周りに花が咲き誇ってそうなイメージ。
というか胸デカイな!
「書記をやってます
よくしゃべるなぁこの人!
止めなかったらこのまま延々と話し続けるんじゃなかろうか。
とりあえず愛想笑いしとこうか。
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