Side-Underground

第5話 奇声を上げる神様


 地上世界に夜が来る。

 それは、地下世界に朝が来ることを意味した。


 ミウは石造りの床にひざまずいて、その時を待った。

 やがて、朝日に誘われるようにして、うっすらと玉座の上に形を取り始めたものがある。


「死の国へ、ようこそいらっしゃいました、ナギ様。御使みつかいのミウです。お久しゅうございます」


 ミウは顕現したナギに対して深々とこうべを垂れた。


「おや、死んだはずのミウがいる。ということは……ボクは死の国へ来てしまったのかい?」

「左様です」

「ホゲァーッ」


 ナギは奇声を発して、足をバタバタさせた。


「やだやだー! やだぁー! ボクこんなつもりじゃなかったのにぃー!」

我儘わがままをおっしゃらないで下さい。こうなったのも、ナギ様の自業自得とお聞きしました」

「違うもん、違うもんーっ! 元はと言えば、あの暴走していた車が悪いんだもん!」

「何の話ですか」

「ウギョワアアアアアアアアアン」


 外見からすると二十代半ばほどに見える男が、恥も外聞もなく泣き叫んでいるのは、どう考えてもみっともない。ミウは冷めた気持ちでそれを眺めていた。我があるじながら、何と幼稚なことか。

 ひとしきり暴れてから、ナギはスタッと立ち上がった。


「どうにかして、地上に戻る方法を考えなくっちゃ!」


 一目散に玉座の間から外へと駆け出すナギ。後を追いかけたミウが見たものは、地面に穴を掘って頭を突っ込んでいるナギの姿だった。


「何をなさっているのですか」

「モゴモゴモゴ」

「お顔を上げて下さいませ」

「モゴッ」


 端正な顔立ちが土まみれである。


「……土を掘れば、地上世界に出られると思って」

「無理です。落ち着いてください」

「うん」

「……ひとまず、お身体を清めましょうか」

「うん」


 ナギは頷いて立ち上がった。


 これからこのお方の面倒を一人で見るのか……。やれやれ。溜息を禁じえないミウだった。



          ──「第1章 出発」おわり

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