第31話 Rainy day(雨宿り)
駐車場の周りには、所狭しと土産物店が軒を連ねている。観光客相手の店である。旅行閑散期の今日は平日ということもあり、観光客はほとんどいない。地元の人もまばらに歩いているといった様子だ。元気な子供たちが走り回って遊んでいる様子が見受けられる。なんだかほっとする光景だ。
天気はアグン山の山の天気で、今にも雨が降ってきそうな雰囲気である。なんだか湿度も高くなってきているような印象がする。僕たちが駐車場へ着いたほんの数分前までは、すごくいい天気だった。今は、僕たちのいるアグン山の上空は厚い雲に覆われている。数キロ先の空は、南国の青空が続いている。山の天気は本当に変わりやすいものだ。また、ここは山の中腹のため、繁華街のジャラン・レギャン通りよりも気温は低い、少々肌寒いくらいだ。何か一枚、羽織りたいぐらいである。
山田「酒井さん、今にも雨が降りそうですよね。これぞ、ザ・山の天気って感じですね。それにクタより、かなり気温も低い感じですね。ちょっと肌寒い感じですよね。」
僕「この肌寒さは、気温だけじゃなかったりしてね。」
山田「いやですよ、酒井さん、怖いこと言わないでくださいよ。」
僕「冗談ですよ。冗談。山田君。」
ヘルマワン「実際、ブサキ寺院の標高は、クタよりもかなり高いですからね。ちょっと肌寒いですよね。」
エディ「何か羽織るものを借りましょうか。」
山田「そこまでは、大丈夫ですよ。」
エディ「わかりました。さ、出発しましょうか。雨が降らないうちにですね。」
僕「そうですね。ブサキ寺院の神秘さには、サンサンと照り付ける南国の太陽よりは、今のような少々曇りかけた雨が降りそうな天気の方がなんだか、雰囲気がでますよね。」
山田「酒井さんの言う通りです。なんだか雰囲気のある天気になってきましたね。でもブサキ寺院の上は晴れていますよね。寺院の周りだけ雨雲ですね。不思議な天気です。」
と、山田の言葉に僕はブサキ寺院の上の空を見上げた。空の色は、ブリリアントブルーとダークグレーのコントラストになっていた。スコールがまさに来そうな印象のコントラストだ。
そう思っていると間もなくすると、ぱらっと雨が降ってきたともうと一瞬にして、豪雨となった。この時、時間は11時35分だった。日本でいうところのゲリラ豪雨のようだった。まさに熱帯雨林のスコールという感じだ。僕たちはスコールの水しぶきを避けるために、目も前にあったローカルフードの店へ、僕と山田、エディ、ヘルマワンは雨宿りを兼ねて立ち寄った。
丁度、お腹もすいてきた時間であった。目も前にあった店に入ることにした。その店のたたずまいは、バリ島のローカルフードの店という印象だ。ワルンにちょっとだけ手を加えた感じであった。店のドアはなくシャッターを挙げられた感じの入口だ。壁もライトグレーのコンクリートのうちっぱなしのものである。日本でいうと、車庫のシャッタを上げて、車庫内にテーブルと椅子を置いているといった感じだ。
店内のライトはついているのだが、あまり効果を出していない、ちょっと薄暗く店の奥に調理場があるタイプだ。店の壁にはバリニーズの絵が、一定の距離を保ちながら飾られている。店の中心には、今から僕たちが参拝するブサキ寺院のマップと英語で書かれた説明文のタペストリーが飾られている。
その壁沿いには、青いプラスチィックのキャンプ用のテーブルに、グレーのブリキでできた簡単な椅子が並べてある。薄暗い店の奥から中年女性の店員が出てきた。
彼女は「SELAMT DATANG」と僕たちに声をかけながらやってきた。日本語でいうところの「いらっしゃいませ」といったフレーズだ。
僕たちは店の出口に一番近いテーブルに着いた。僕は、ローカルな店に入る時は、いつもウェットティッシュを用意する。というのが、日本に比べてまだまだ衛生面で不安を覚えるからだ。テーブルをきれいに拭いて僕たちは座った。
店員が水とメニューを持ってきた。水はそれぞれの前に置いてくれたが、その水を飲むことは危険である。おかれた水は、コップごとに若干色が違う。この水とは別で、やはりドリンクはオーダーしなければならない。というのも出された水はミネラルウオーターではなく殺菌などされていないこと多いからだ。日本の店で出される水とは、衛生面ではかなり違う。
僕たち四人は、店員が持ってきたメニューをそれぞれ見ている。
僕「山田君、エディ、ヘルマワン、こちらでランチにしましょうか。その間にスコールも過ぎていくと思いますしね。どうですか。」
山田「丁度、俺もお腹空いてきちゃったのでランチにしたいですね。」
エディ「酒井さん、そうしましょう。」
ヘルマワン「そうですね。時間も丁度いい感じですね。ランチしている間にスコールも過ぎ去っちゃいそうですしね。」と4人の意見は一致した。
早速、店員が持ってきてくれたメニューに僕たちは改めて目を通した。その間もまだスコールは、激しく降っている。水しぶきと土ぼこりが入り混じった南国特有のスコールの香りがあたりに漂っている。この雰囲気も日本でたまった僕のストレスを解放してくれる。店の前の路では坂道ということもあり、すごい勢いで雨水がながれている。
エディ「皆さん、各自食べたい料理をお選びください。」
僕「じゃ、僕はマンゴージュースとナシゴレンにします。」
山田「俺は、コークとミーゴレン。」
ヘルマワン「僕はオレンジジュースとナシチャンプルで。」
エディ「僕は、ミーアヤムとコークでお願いします。」
僕たちの四人のオーダーを店員が受けて、店の奥になる少し薄暗い厨房へ向かった。厨房の奥には裏庭があるようで、子供たちの遊ぶ声が聞こえてきた。
僕「この天気がいかにも熱帯雨林って感じでいいですね。途中の寄り道もなんだかいいものですね。」
エディ「この時期、スコールが降っても、あっという間に終わっちゃいますから、もう間もなくで雨はあがりますよ。」
とエディが言っている間に、スコールが上がり、あっという間に南国のブリリアントブルーの晴天へと変わった。今、先ほどまで、激しいスコールが降っていた曇天の場所とは思えない晴天だ。今は南国の太陽に照らされている路地から、水蒸気が上空へ向かって出ている。
僕が雨上がりの空を見上げていた。間もなくすると、店員が料理とドリンクを僕たちの席へ運んできてくれた。
僕「さぁ、ランチにしましょうか。」
山田「はい、いただきます。」
エディ「日本語では食事をする前にいただきますっていうんですか。」
僕「そうですね。」
エディ「いただきます。」
ヘルマワン「いただきます。」
僕たち四人はそれぞれのオーダーした料理を口にして楽しんだ。
山田「俺のこのミーゴレン、超うまいです。感動です。」
僕「それはよかったです。」
ヘルマワン「スコールになり、丁度よかったですね。ランチタイムができましたね。」
僕「そうだよね。ある意味ラッキーだよね。段取りがいいって感じですよね。」
エディ「ブサキ寺院では、今日は祭事があるみたいですね。ブサキ寺院へ向かっている人たちが正装していらっしゃいますね。」
僕は今まさに目の前にいる人たちはこの世に存在する人なんだと思った。エディやほかの二人も見えているようだったからだ。
山田「祭事の時に僕たちのような観光客は参拝できるんですかね。」
エディ「問題ないです。祭事が行われるところは、寺院の中でも塀で囲われているのであまり目につくことはないですよ。氏寺で祭事があったとしても、普通にブサキ寺院を参拝できますから。」
こんな会話をしつつ、ランチをとっているとアグン山の天気が曇りから、さらにブリリアントブルーの青空へと、あっという間に色変わりをしてきた。スコールが止んだときはまだ雨雲が空にあった。僕は山の天気は本当に変わりやすいもんだと、一人、思っていた。
僕「みんなの食事が終わったようなので、そろそろ店を出て、ブサキ寺院へ向かいましょうか。」
山田「そうですね。腹ごしらえも終わったことだし。」
エディ「僕もいつでもOKですよ。」
ヘルマワン「僕も大丈夫です。」
この時、時間は12時を少し回っていた。
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