第30話  A view of the lower world(下界の景色)

車は、舗装された坂道へと昇り始めた。間もなくすると僕たちを乗せた車は駐車場へ到着した。僕の腕時計を確認すると時間は、11時00分であった。ジャラン・レギャン通りからやはり2時間近くはブサキ寺院まではかかったということだ。ずいぶん遠くへ来たものだと僕は思った。


エディ「酒井さん、山田さん、ヘルマワンさん、ブサキ寺院の駐車場案内番の前へ到着しました。ここからはブサキ寺院までは歩いて行くことになります。この駐車場からは、歩いても15分かからないくらいです。もう少し上に駐車場があります。」


僕「ようやく到着しましたね。」


山田「先ほどの熱帯雨林のジャングルの中の坂道は、ジェットコースーターに乗っていようでしたね。」


エディ「その道が、ブサキ寺院への近道だったので通っちゃいました。」


僕「あの道はなかなか趣がありましたね。バリ島って感じの道でしたよ。僕は好きでしたけどね。バリ島の自然も見られましたしね。」


ヘルマワン「そうですね。酒井さんのおっしゃる通りバリ島って感じのジャングルでしたね。」


僕「あの坂道を通過しているときに、僕は別の世界の人からインスピレーションを受けましたよ。エディの話していた物語の人たちの列だったと思います。」


エディ「酒井さん、怖いこと言わないで下さいよ。先ほどの話は都市伝説のようなものですから。嘘か本当かはわかりませんけどね。」


僕「いえいえ、冗談じゃなくて本当のことなんですよね。僕へインスピレーヨンを送ってきた方から、お願いもされました。火のないところには煙がたちませんからね。やはりその話に近いことは実際にあったんでしょうね。」


山田「どんなお願いですか。俺、興味ありますよ。」


僕「その列には若い男性の方がいらっしゃって、山田君と同じぐらいの年だったと思います。彼がメッセージを伝えるには、まだうかばれていないため、ブサキ寺院で供養をしてほしいといわれちゃいましたよ。」


エディ「どんな供養ですか。」


ヘルマワン「僕も聞きたいです。酒井さん。」


山田「俺もです。」


僕「その男性は、抗争に巻き込まれ暗殺されたといわれていました。その男性の代わりにお母様も犠牲になったようです。」


僕たちを乗せた車はようやく駐車場へ到着した。


エディ「ここに車を止めますね。皆さんは、降りてください。」


僕は車から降りた瞬間、なんだかお香の香りが、僕の身体にまとってくるのを臭覚で感じた。


先ほどの話を僕がしていたからなのかどうかわからないが、僕と山田、エディ、ヘルマワンの4人が車から降りると、どこからともなくオレンジ色の蝶の群れが僕たち、四人の周りを舞っていった。と山田エディ、ヘルマワン、全員ともびっくりした表情となった。ただ、決しておどろおどろしい印象は全くなかった。ただ、なんだか健やかな雰囲気のみが僕たちの周りに漂っていた。僕は話を続けた。


僕「僕に人の列が見てきたんだよね。はじめは靄がかかったような感じだったが、徐々に人の列に形どって来たんだよね。」


山田「そうなんですね。」


エディ「怖くなったですか。」


僕「全く怖いって印象は受けなかったんだよね。」


エディ「そうなんですね。」


ヘルマワン「それで、続きはどうなりましたか。」


僕「その列にいた青年から、メッセージがきたんだよね。ブサキ寺院へ参拝するのであれば、その青年の名前を5回唱えてくれといわれたんだよね。そうすると僕たちは、天上界へ向かうことができるといわれちゃいましたよ。」


山田「そうですか。酒井さんは、今回のバリ島への渡航は、マルチンさんの供養だけではなく、大海原の女神によっても招かれたみたいですよね。なんだかそんな感じを俺は受けますね。酒井さんってまるで沖縄のユタや津軽のイタコのような感じですよね。すごい霊力ですね。」


エディ「僕もそう思いますね。バリ島のバリアンみたいですよ。だから大海原の女神も酒井さんを気に入ったんでしょうね。」


ヘルマワン「僕も兄の供養だけで酒井さんが今回、バリ島へお越しになった理由だとは思えないですね。何かに呼ばれていたって感じですね。」


僕を含め残り三人も意見が一致した。今回のバリ島渡航は、やはり何かに呼ばれていると感じてしまう。僕たちがこれから訪れるブサキ寺院では、いったい何が待っているのか、また何もないのかは今、この時では僕にはわからない。人は未来など決してわからない。というかわからないのがいいのかもしれない。僕はエディやヘルマワンも魂の世界ではなにかつながりがあるのだろうと感じた。


エディ「酒井さん、山田さん、ヘルマワン、ブサキ寺院の駐車場へ到着しました。ここからは歩いてブサキ寺院へ向かいましょう。」


僕「了解です、エディ。」


山田「ここからどれくらいかかるんですか。」


エディ「そうですね。10分もかからないと思います。このブサキ寺院はバリ島で最高峰の寺院のため、正装での参拝が必要なため、バティックの布を腰に巻いて参拝します。寺院の入口あたりで布を借りましょう。」


山田「了解です。なんだかバリ島の文化に触れているって感じでうれしいです。こういった経験って本当に大切ですよね。人の考え方にも影響してくるんでしょうね。」


ヘルマワン「あぁ、久しぶりにこのブサキ寺院の空気感を味わえました。なんだか落ち着きます。この空気感が好きなんですよね。澄み切った空気、高原の少し肌寒い気温、ここから眺める下界の景色。これら皆が僕の心を癒してくれます。」


僕「この空気感って、繁華街とは全く異なりますよね。異界に踏み込んだって感じですね。怖い意味とかじゃなくていい意味でですよ。」


エディ「そうですよ。ここは何といってもバリヒンドゥー教のメッカですからね。それは空気感が違うのも当たり前です。」


山田「この空気感、なんだか神聖というか、空気がいい意味で張り詰めているって感じがしますね。俺、ちょっと緊張しちゃいます。緊張というよりは癒されているって言ったのがあっているかもですね。」


僕と山田、エディ、ヘルマワンは気が付くと手をつないでいた。下界へ向かって万歳をした。どうしてかは、意味は分からないがなんだかそうしたい気持ちになったのだった。


僕は先ほどの坂道で亡き男性から受け取ったメッセージを実行しなければと改めて心に誓った。


今も昔も人の業というものは、本当にエゴイズムそのものである。僕と山田とエディとヘルマワンはブサキ寺院へと向かって歩き始める。


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