第27話 First fruit(初めての果実)

僕はベッドに横になりながら、山田とそんな会話をした。僕はベッドから起き上がった。


僕「山田君、何かお風呂上がりの冷たい物でも飲みますか。実家にいる時はいつも、お風呂上りには、冷たいドリンクかフルーツを食べていたんですよね。」


山田「そうなんですね。酒井さんのご実家ってなんだか裕福ですよね。」


僕「そんなことはないですよ。普通のサラリーマンの家庭で育っていますよ。」


山田「俺には、そうとは思えませんよ。おそらく、酒井さんが思っていらっしゃる普通と世間の普通とでは、なんだか差があるように感じますけどね。いいとこのおっぼちゃんって感じがしますね。」


僕「まぁ、そんなことは置いといて、ジュースは何が欲しいですか。オレンジジュースとグレープジュースしかないけど。後、マンゴージュースもありますよ。昨日コンビニでジュースを買っといたんで、よければどうぞ。」


山田「じゃ、俺はマンゴージュースをいただきます。」


僕「そうですか。了解。僕はオレンジジュースにするね。それと昨日にマタハリデパートでは、ランブータンを一束、買っているのでそれも食べましょう。ランブータンは、この時期ではすごくおいしいですからね。その時期のものを食べて、体内へ取り込むと食べ物からパワーを取り入れることができますからね。体内エナジーの回復ですよ。インドネシアって季節季節のフルーツもたくさんあるから、自然の恵みのありがたさって実感できますよ。」


山田「ランブータンですか。俺、初めて食べますよ。楽しみです。ライチみたいな味覚なんですよね。俺、ライチ好きだから。」


僕「ランブータンは、山田君も気に入ると思いますよ。ライチに似た触感と味が楽しめますからね。」


僕はそう言って山田へ半分ランブータンの束を渡した。手渡したランブータンからは、ほんのり甘い香りがした。僕はこの香りも好きだ。食べ物も時間の流れも僕にとっては、インドネシア バリ島は本当にフィットしていると感じた。山田が、僕から受け取ったランブータンを一つ枝からもぎ取った。そのランブータンの果実を手に持った山田は一瞬固まった。


山田「酒井さん。このランブータンってどうやって食べるんですか。」


僕はそのとき「はっ」とした。そうだ。僕には当たり前だけど、初めてこのランブータンの束を渡されても、山田も困ってしまうよなって。僕は山田へランブータンの食べ方をレクチャーした。


僕「山田君。ランブータンの食べ方なんだけどね。手でランブータンの毛むくじゃらな果実を半分に割れるから、その割れた果実の中から白い果実が取り出し、食べるだけなんだよね。果実に中には種があるけどね。その種は食べないんですよ。」


山田「そうだったんですね。ランブータンってかんだか不思議な食べ物ですね。この毛むくじゃらな感じが日本にはない果物って感じですね。俺、だんだんとバリ島へはまっていきそうですよ。」


山田は僕が伝えた通り、ランブータンの果実を手で半分に割った。毛むくじゃらなランブータンの果実は手で簡単に半分に割れた。熟れている証拠だ。


山田が毛むくじゃらのランブータンの皮から白いほんのり透明感のある果実を手で取りだした。山田が皮をむいたランブータンの果実は、部屋のライトに照らされ、みずみずしさを醸し出していた。そのまま山田は口へ果実を放り込んだ。


山田「酒井さん。生れて初めてランブータンって果実を食べたんですが、すごく好きな味です。マジ、超うまいですね。ライチとほとんど同じ感覚ですね。」


僕は山田の満足げな表情を見て、とてもうれしく思った。


僕「ライチと似ているでしょ。でも種が大きいからね。果実はあまりないけど、おいしいでしょ。」


山田「ホント、超うまいですよ。でも、この毛むくじゃらの果実を初めて食べた人は勇気がありますよね。初めて見て、この果実を知らなかったら、俺は、絶対食べないですよ。きっと。なんだか毒をもっていそうな感じですからね。」


僕「僕もそうですよ。ランブータンを初めて食べるという勇気はないですね。あの外見はちょっと勇気がありますからね。」


二人はランブータンを味わいながら、今日の偶然の出来事の不可思議さを語り合った。


山田「酒井さん、バリ島にはランブータン以外には、どんなフルーツがありますか。おすすめは?」


僕「そうですね。南の島なのでフルーツは豊富ですね。そのなかでも、フルーツの女王と言われているマンゴスチンなんかもおすすめですね。」


山田「マンゴスチンですか。なんか聞いたことあります。でも、どんな感じのフルーツなんですか。日本じゃ、普通のスーパーではなかなかお目にかかりませんよね。高級なスーパーマーケットならあるでしょうけどね。」


僕「そうだよね。果実の女王と呼ばれているだけありまして存在感はかなりありますね。マンゴスチンは厚い皮に覆われて、乳白色の果肉はとろけるほど柔らかい感じですね。味というと、上品な甘さとほのかな酸味さわやかな後味が口に残り、人気のあるフルーツですね。」


山田「そうなんですか。他にはありますか。」


僕「後は、マンゴー、ドリアン、パパイヤ、ドランゴンフルーツなんかが有名ですね。」


山田「その土地土地によって、なるフルーツも変わってきますね。」


僕「本当、山田君の言う通りなんだよね。そういった食べ物もその土地のカルチャーなんだよね。」


と、僕は少々山田へバリ島のおすすめフルーツなどバリ島ならではの食材を説明した。


山田も目をキラキラさせながら、僕の話に耳を傾けていた。ちなみにインドネシア語ではフルーツを「ブア」という。そんな会話をしながら、気が付くと僕と山田はそれぞれのベッドの上で眠りについていた。


僕は、鶏の声で目が覚めた。「あっ」という間に朝になっていた。鶏の鳴き声で目覚めるのはハノイ以来のような気がした。山田はまだ寝ている。若いって証拠だなって思った。若い時は、眠さが勝ってしまうからだろう。


時間は朝の6時30分だ。僕は、部屋のカーテンを開け、朝日をリビングルームへと入れた。ベッドルームはそのままでカーテンを閉めたままにしてある。


山田がまだ眠っているからだ。僕はカーテンを開けると同時にコテージのドアも開け、バリ島の朝のさわやかな風を部屋に取り入れた。僕はポットへミネラルウォーターをいれ、朝のティタイムの準備をしていた。そうこうしていると、間もなくすると山田が眠い目をこすりながら、ベッドルームから起きてリビングへやってきた。


僕「おはよう。山田君、起こしちゃった?」


山田「おはようございます。もうそろそろ起きないといけない時間なので、自然に目が冷めちゃました。熟睡できたので目覚めは、さわやかですよ。先ほど鶏の鳴き声も聞こえてきて、ハノイの朝を思い出しましたよ。」


僕がハノイの朝に聞いていた鶏の鳴き声を山田も聞いていたのかと初めて確信した。


僕「電気ポットでお湯を沸かしているから、必要だったら、コーヒーでも飲んでいてくださいね。僕は今から、朝のマンディとしますから。」


山田「了解です。外からの空気はさわやかですよね。気持ちいいですね。しばらく、俺はボーッとしときます。」


僕「了解。朝の目覚めのバスタイムとしますから。」


僕は山田にそう告げると、バスルームへと向かった。いつもの朝のようにバスタブにお湯をいれ、ゆっくりと寝汗をかいた体を湯船の中へ沈めた。


今日は、マルチンの弟のヘルマワンとエディ、僕と山田の4人でバリ島のメッカであるブサキ寺院と、天空の寺院であるランプヤン寺院へと向かう。ブサキ寺院はアグン山に中腹に、その後は、山超えてランプラン山にあるランプヤン寺院へと向かう。ランプヤン寺院へは登山をすることもできるが、僕たちのルートでは今回は、車である程度までは寺院へ向かうこととなる。僕は初めて訪れる天空の寺院のランプヤン寺院が楽しみだ。どんな景色が眼の前にあるのか楽しみだ


ただ、今日の探訪は山間部へ向かうため、天気が安定しないかもしれない。いわゆる山の天気っていうやつだ。僕はこんなことを考えながらバスタブに浸かり、寝汗を洗い流していた。僕がバスルームから出るころには、山田は、寝起きの顔からいつもの山田の顔になっていた。目が覚めたんだろう。


僕「山田君も朝のマンディにしますか。」


山田「そうですね。俺も寝汗をかいていますから、シャワーで汗を流しちゃいます。」


僕「了解。」


山田「じゃ、俺、今からシャワータイムにしますね。」


僕「このバリ島ではシャワーの方が、マンディっぽいよね。」と、会話を交わしながら、山田はバスルームへと向かった。


時間は7時45分だった。僕は早速、本日のスケジュールの再度確認をした。現地までのルートは、エディに任せようと思う。現地のことは現地の人に任せるのが合理的だ。エディとヘルマワンとの待ち合わせ時間は9時だ。朝食の時間は1時間弱あるだろう。僕が、出かける準備をしていると山田がバスルームから出てきた。


山田「酒井さん、お待たせしました。シャワーを浴びるとすっきりしますね。」


僕「山田君、冷たい水でも飲む?」


山田「はい、いただきます。」と、山田は、冷蔵庫から出したばかりの冷え切った水を僕から受けり、勢いよく飲み始めた。


山田「超、冷たいです。ホットシャワーで火照った体が、水分を求めている感じが実感できますね。体の中に水が充満していく感じがしますね。この感覚が好きなんですよね。」


山田はそういうとバスタオルで体についた水滴をふき取っていた。僕はステイしている部屋の窓越しに見える目の前にあるプールの水面から反射し、輝いている太陽に光を浴びながら、窓から入ってくる朝のそよ風を感じていた。


山田「酒井さん、準備できました。今から朝食ですか。」


僕「そうですね。今からでも大丈夫ですか。」


山田「俺は準備OKですよ。」


僕「じゃ、今からレストランへ行き朝食としますか。そのままエディと合流し、ヘルマワンを拾ってブサキ寺院へ直行でも大丈夫ですか。」


山田「OKです。」


時間は、7時50分であった。僕と山田は、そのままレストランへ向かった。朝食をとった。メニューは昨日と同じ内容であった。今日の卵は、オムレツにした。


僕「山田君、今日、訪れるブサキ寺院はとても素敵な景色ですよ。インスタ映えしちゃうから、デジカメやスマホは忘れないように。」


山田「了解です。虫よけスプレーもOKですよ。酒井さん。」


山田も東南アジアのジャーニーに慣れてきたようだ。というより、僕と一緒の旅行に慣れてきたという方が、しっくりとくるかもしれない。ふと、時計を見ると8時30分を過ぎたところであった。


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