第28話 Invitation(いざない)

僕と山田が朝食を終えた。食後の紅茶とコーヒーを飲んでいるところへ、エディが迎えに来てくれた。ヘルマワンも一緒であった。


エディ「酒井さん、山田さん、おはようございます。朝食は終えられましたか。」


僕「丁度、今とり終わったところで、エディを待っていましたよ。」


山田「おはようございます。今日もよろしくお願いしますね。」


ヘルマワン「酒井さん、山田さん、おはようございます。今日は突然、同行させていただきありがとうございます。皆さんとご一緒できるのが楽しみです。」


僕「ヘルマワン、おはようございます。今日はこちらこそよろしくお願いしますね。」


山田「おはようございます。今日はよろしくです。」


エディ「こちらが本日同行の方ですね。昨日のタナロット寺院のカフェの店員さんですよね。今日は、よろしくお願いします。」


ヘルマワン「こちらこそ、よろしくお願いします。」


4人はそれぞれ挨拶を交わした。


エディとヘルマワンは僕と山田が座っている席へ同席した。そこで今日のルートを改めて確認をした。本日の目的地は、アグン山にあるブサキ寺院とスラヤ山にある天空の寺院と呼ばれているランプヤン寺院である。間に合えばクタビーチでの夕日の鑑賞が山田とできれば言うことないんだけどもと僕は思った。


エディ「今日の行き先はわかりました。事前に昨日お伝えいただいていたので、ルートは確認済です。アグン山まではジャラン・レギャン通りからは2時間から3時間を見ていたのがいいと思います。アグン山から一山超えて、スラヤ山へ向かいます。そこまではそんなに時間はかからないと覆います。1時間程度あれば到着すると思います。」


僕「ブサキ寺院では、時間をゆっくりと取りたいんですけど可能ですか。パワースポットでは、できるだけゆっくりと時間を取り、時間をかけて散策しエナジーチャージをするのがいいんですよね。」


エディ「そうですか。せっかく、ブサキ寺院まで行かれるのであれば、やはり、ゆっくりと時間をとったのがいいですよ。時間的には1時間30分から2時間ぐらいあればいかがでしょうか。」


僕「そうですね。それだけの時間があれば十分ですよ。エディ。山田君の希望はありますか。」


山田「俺は、酒井さんのスケジュールで問題ないですよ。ブサキ寺院では、ゆっくりと回ってみたいですね。バリヒンドゥー教のメッカですから、そのメッカの空気感を感じ取りたいです。」


僕「そうだよね。ブサキ寺院とランプヤン寺院では、その土地土地の空気感、エナジーを感じ取りたいよね。僕と山田君にどんな感じで、そのエナジーはどう作用するのか、体感できれば楽しいよね。相乗効果で何か起きたりしてね。楽しみです。」


ヘルマワン「僕もブサキ寺院へ訪れるのは久しぶりです。楽しみです。兄とも何度か訪れたので楽しみです。」


僕「そうですか。それはよかったです。マルチンを思い出し、供養にもなりますね。」


山田「そうですよ。マルチンさんを思い出すってことが、僕たちができる彼への供養なんでしょうね。」


ヘルマワン「酒井さん、山田さん、ありがとうございます。兄も喜びますよ。兄は幸せ者ですよ。こんな素敵な外国人の友達がいるなんて。」


エディ「じゃ、皆さん、車へお乗りくださいね。今から出発したいと思います。」


僕たち4人の周りには、乾季のバリ島の湿度の少ないそよ風がかすめ過ぎていく。なんだか幸せな感じを僕は受けた。


僕たちを乗せた昨日と同じジープ型4WDが、アグン・コテージの門を出て左へ曲がる。ジャラン・レギャン通りに入り、朝の混雑した道のりを進んで行く。間もなくするとベモコーナーへ到着する。そのコーナーを昨日同様に左へ曲がり、道なりに進んで行く。ここまで来ると、道の混雑さはなくなりつつある。昨日も見えた右手にケンタッキーフライドチキンのショップが見えてきた。


山田「酒井さん、このケンタッキー、俺、ぜったいいきたいんですけど。ソトアヤムを食べてみたいんですよね。」


僕「了解です。明日か明後日ぐらいに行ってみましょうかね。こちらはデパートの一角にケンタッキーが入っているので、日本でいうとフードコーナーみたいな感じですね。」


ヘルマワン「この店のソトアヤムは、本当においしいですよ。僕も大好きですよ。」


山田「地元の人も太鼓判をおしているなら、安心ですね。食べたーいです。」


山田は、子どのようにはしゃいでいた。そんなあどけないところは、なんだかうらやましく感じる。年齢を重ねるとだんだんと物事に感動する機会も少なくなってくるからだ。山田の若さに僕は完敗した。


僕たちを乗せた車は、サンサンと降り注ぐバリ島の太陽の下をどんどんとスピードを上げ進んで行く。BGMは、やはりレゲエが流れている。南国の景色には、レゲエは本当に似合う曲だ。


僕たちの車は、信号の少ないバリ島の道をひたすら、アグン山へ向かって走っていく。


繁華街を過ぎるころには、少々雲行きが怪しくなってきた。南国特有のスコールでもやって来そうな感じだ。スコールは、一瞬、ざっと雨が降り、あっという間に雨は止む。そんな感じだから、僕は心配していない。


スコールが来るときは、いつもなんとなく体で、僕は感じ取れる。というのは雲が厚くなると感じだけじゃなく、空気の湿度が上がってくる感じがするからだ。


と思っていたら、あっという間にスコールがやってきた。すごい雨の量だ。日本でいうところのゲリラ豪雨とでもいう感じだ。雨が降っている地域と降ってない地域との天気の差は、いつも面白いほどはっきりと分かれている。どこで雨雲の切れ目があるのか、その切れ目の場所へ行ってみたいと思う。スコールのスポットは、ある一定の地域のみである。


この雨もバリ島の三耕作では必要な雨となるだろう。バリ島の自然の恵みにはどうしても必要な降雨量となるんだろう。世の中は、本当にうまくできていると思う。僕はそんなことを考えながら車窓越しに外の景色を眺めていると、おそらく兄弟だろうと思われる男の子二人が、大きなバナナの木の葉っぱを傘代わりにし、道端を歩いていた。その景色が、何とも言えず、懐かしいというか心穏やかになる景色だった。僕に人間本来持っているであろう穏やかな気持ちを思い起こさせてくれた。


お兄ちゃんが弟を雨からかばうようにバナナの葉っぱを弟のほうに向けている。こんな思いやる気持ちは本来人間にはあったんだろう。今の日本ではその気持ちを持ち合わせている人は少なくなってきているけれど。



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