第26話 Guidance(導き)
山田はベッドに横になりデジカメの画像をチェックし始めた。僕は僕で、バスタイムの時間の準備をし始めた。
バスルームへ僕は向かった。バスルームの洗面台の前の鏡に僕の顔が映った。結構、日焼けをしていた。バスタブにお湯をはり、さぁバスタイムの始まりだ。これで今日一日の終了となる。僕はバスタブの縁に座り、足湯のように今日一日かなり歩いた足のむくみをとることにした。
僕は、今日一日を振り返った。バリアンのヒーリングでは、山田との出会いの意味、ニャンと山田と僕との出会いの意味。ここ数年に出会った人たちとは、本当に不思議な出会いである。どの出会いにも意味があることが分かった。
今までもある程度は、出会いの意味なども分かっていたつもりではあったが、バリアンにここまで具体的にメッセージとして伝えられると、感動の一言しかないように思えた。
今回のバリ島滞在は、まだ四分の一の前半である。この滞在期間には、いったいどんなん神様のいたずらがあるのかが楽しみに感じた。人の出会いは「偶然」なんかじゃなく「必然」だと実感できた一日であった。
僕は、バスタブにたまったお湯の中に体を沈めていく。今日一日で日焼けした肌がヒリヒリとする。バスタブに体を沈めるってことは、一日の穢れを落とすことにもなる。入浴とは、ある意味、儀式のようなものだ。
僕が湯船に体を沈めていると、そのお湯が透明な水から海のブリリアントブルーの水色に変わってくる感じがした。その色の変化に気が付いた時には、僕は体が硬直してきた。僕の意識が遠のく中で、バスタブのお湯の中から、穏やかな表情をした女性の顔が浮かび上がってきた。水中で浮かび上がったと思っていたら、今度は水の塊が水面に盛り上がりなんだか形を作り始めた。その水の塊は、徐々に人の顔となってきた。その形を表せた水の塊が形成した人は、女性を形どっていた。
その女性から、僕へ「今日はありがとう。やはり、あなたはバリ島で必要な存在だと確認した。」とメッセージを送ってきた。
僕は女性へメッセージをインスピレーションで送った。
僕「あなたは、大海原の女神様ですか。僕にはそんなパワーはないと思います。」
女性「私は、今日バリアンが告げた大海原の女神です。あなたには、必ず成し遂げられる力が備わっています。でも、今のままでいいんです。その存在が必要なんです。」
僕「何をすればいいのでしょうか。」
女神「いつも通り、日本とバリ島を年に1回行き来してくれればよい。それ以上は何もする必要はない。」
僕「それだけでいいのでしょうか。」
女神「あなたがバリ島へ来ることで、もともとのバリ島に棲んでいる神々にパワーを与えてくれるんですよ。だから、あなたの存在が必要なんですよ。あなた自身が神々のパワーの源なんです。」
僕「そうですか。本当ですか。そんなパワーが僕にあるとは思えません。けれど、今のメッセージは受け取りました。」
と、そんな会話をしたと思っていたら、僕はバスタブの中で少しの間だけ、寝ていたようで目が覚めた。
今の出来事は夢かうつつだったのか、幻想だったのかわからない。夢うつつの世界にいたような感じだ。僕が気が付いた時には、湯船につかっている僕の姿だけになっていた。バスルームには、別に何の変化もなかった。間もなくすると、僕は湯船からあがりバスルームを出た。
山田「酒井さん、ゆっくりとバスタイムできましたか。」
僕「足のむくれも取れたよ。新しく湯船にお湯をはってあるので、山田君もいつでもバスタイムできるよ。」
山田「はい。わかりました。酒井さん、ありがとうございます。今から、俺のバスタイムとしますね。」
僕「どうぞ、ごゆっくり。」と、僕と山田は会話を交わした。
山田は、僕にバスタイムで起きたことは気が付いていないようだ。山田には、感じ取れる気配と感じ取れない気配があるようだ。
僕は、山田がバスタイム中に今日の画像を見直した。マルチンとの思い出を改めて思い起こしていた。なんだか目の前に今にもマルチンが現れるような気がしてならない。
僕は改めて「出会いは別れの始まり」という言葉を思い出した。この言葉は、以前、年上の人から聞いたフレーズである。その時の僕はまだ大学に入り、間もないころであったため、その意味ははっきりとは理解できていなかった。年を重ねることでその意味も実感できて来た。なんだか切ない言葉である。ただ、それが現実というのも確かである。
マルチンと出会った頃には本当に別れが来るとは思っていなかった。それも死別とは思っていなかった。そもそも僕には「死」というものが、大学時代では身近なものではなかった。
ちなみにバリ島での葬儀は、かなりにぎやかなものである。お祭りといってもいいほどのものだ。バリ島では、葬儀を「カベン」という。その人にとって人生最大のイベントである。
聞くところによると、バリ島の葬儀は数か月の間、準備がかかるということだ。亡骸の入った棺桶をみこしの乗せ、演奏隊とおもに葬儀場まで運ばれるという。葬儀場へ到着すると、火葬用の棺へ遺体が移される。そこで火葬となる。それほどにこのバリ島では「死」ということが、貴い人生最大の儀式となっている。
ただ実際には、その亡くなった方をいつまでも思い続けていることが、僕は大切な感じはする。だから、僕はマルチンのことをこれからも忘れることはない。僕は心の中でそう決意した。それと同時に、山田がバスルームから出てきた。山田のバスタイムが終わったようだ。
山田「酒井さん。湯船に体を沈めると、一日の疲れが取れるのと、一日が終わったって感じがしますよね。」
僕「そうだよね。お湯の中に体を沈めると筋肉もほぐれるし、体に着いた汚れも万遍なく取れますからね。マインドとフィジカルな面の両方で、ようやく一日の終わりを実感できますよね。」
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