第21話 Surprise(驚き)
エディ「酒井さん、驚きですね。こんな偶然ってあるもなんですね。本当に。」
僕「本当ですね。偶然というか必然なんでしょうね。出会うべくして出会ったという感じですかね。」
山田「酒井さん、やっぱり、酒井さんはもっていますね。運の強さというか何か目に見えない力を持っていますよ。」
僕「そうだよね。後、先ほど言っていたバリアンの海へ行きなさいって、あの一言がなければ、今日は全くタナロット寺院やウルワツ寺院へは行っていなかったし、今回の目的スポットには、全く考えていなかったんですよね。大海原の女神様からの目には見えない力なんですかね。」
山田「きっとそうですよ。こんな出会いって一生に一度あるかないかですよ。本当にすごいことですね。」
エディ「酒井さんって、何か不思議な力を備えていらっしゃるんですね。きっと。僕のおばもジャワ島で祈祷師みたいなことやっているんですよ。バリ島でいうところのバリアンですね。」
僕「そうなんですね。インドネシアという国は、今でも呪術に対して関心の強い国ですからね。」
エディ「だから、酒井さんと山田君に会った時に、最初に何か不思議な空気感を感じ取ったんですよ。僕も何年もガイド兼ドライバーをやっていると、いろんな観光客の皆さんとお会いするんですが、この夏、初めてなんだかわくわくするというか不思議な感覚があったんですよね。」
山田「エディとも何か縁があるんでしょうかね。本当、出会いって不思議ですね。酒井さんがおっしゃっていらっしゃった袖も触れれば多少の縁という域を超えていますけどね。これもまた何かのご縁なんでしょうね。」
僕「本当、今回のバリ島渡航前から、日本にいる時から、今回は不思議な縁を感じることが多かったんだよね。」
僕は、今まで以上に本当にこのバリ島へ来てよかったと、この渡航を思った。バリ島は神様の棲む島というが僕、酒井拾膳にとっては、自分自身のとって本当のパワースポットである。
僕と山田とエディは、タナロット寺院の景色の一つとなったサンセット鑑賞しながら、インドネシアのスィーツを楽しんだ。やはり、ウォーターメロンジュースは、いつものレストラリホテルのレストランのものが、僕の口には満足を与えるような感じがする。今、口にしているドリンクもおいしいのだが、僕には少々物足りない感じだ。何が足りないかは僕にはわからないけれど。僕が、タナロット寺院越しのサンセットを眺めているときに、タナロット寺院へ何かが降り立った気がした。僕以外の山田やエディにはそれが見えていない様子だった。これが何のメッセージを含んでいるのか、この時の僕には知る由がなかった。
タナロット寺院越しのサンセットは、夕日を背景にタナロット寺院が色付き版画のような印象を受けた。インド洋に沈む太陽が、一日の役割を終え、眠りにつくような雰囲気を醸し出していた。このサンセットを鑑賞できる時間はあっという間に終わる。太陽がインド洋の沖へ沈み始めたと思うと、数分も経たないうちにあたりは、夜のとばりがおり、夕魔暮れの時間から、夜の漆黒の世界へと変わっていった。
僕と山田とエディは、思う存分サンセットを鑑賞し、スィーツも食べ終えた。僕と山田とエディは、今日これからの待ち合わせ場所であるレストラリホテルのレストランへそろそろ向かうことにした。
僕たちがカフェを出た時間を確認した。18時20分であった。
そのカフェで先ほど偶然に出会ったマルチンの弟と改めて、会う約束をしているからだ。僕はマルチンの弟から、僕が最後にマルチンと会ってからマルチンが亡くなるまでの様子を、どこで何をしていたのかがうかがえればいいなと思っていた。
僕と山田とエディはカフェを後にした。
僕たち三人は、チャーターした車を駐車しているところまで、タナロット寺院から緩い坂道を登り始めた。僕と山田とエディは、ゆっくりと10分ほど歩き、先ほどあった土産物屋まで到着した。エディが車を駐車場から取ってくるため、僕と山田はこの場所で待っているようにとエディに告げられた。
僕と山田は、ホテルへ戻るために観光バスに乗り込む観光客たちを眺めつつ、エディが来るのを待った。
僕が夕闇を眺めていると、誰かが声をかけてきた気がした。その声は、ささやくように小さく、何を言っているのかが聞き取れなかった。僕の受けた感覚では、おそらく日本語ではない感じで受け止めた。英語ともインドネシア語ともどちらとも判別がつかないくらいの音量だった。もちろん、山田にはその声は聞こえていない様子だった。
僕はその声に気が付かない様子を装った。そうすると、徐々にその声は僕へと近づき始めた。その声は僕が聞き取れるくらいまで迫ってきた。ただ、その空気感は決して嫌悪感を含んでいるものではなかった。あと一歩で僕がその姿を認識できるところで、その姿と声は消えてしまった。僕には、マルチンが僕に会いに来たような印象を受けた。
5分程度時間が経った。間もなくすると、エディが車を僕たちの待っている場所へ回してくれた。その車へ僕と山田は乗った。
エディ「酒井さん、山田さん、お待たせいたしました。」
僕「結構、道は混んでいる様子ですね。」
エディ「そうですね。サンセットが終わり、観光客の皆さんはいっせいにホテルへ向かいますからでしょうね。」
僕と山田を乗せた車の中には、バリ島でヒットしている曲が流れていた。タイトルはわからないが、ジャラン・レギャン通りでもかなりかかっていた曲ではあった。
山田「タナロット寺院とサンセットのコラボはすごく印象深かったです。本当にバリ島へ来てよかったと実感しましたよ。こんな素晴らしい景色に出会えて、俺、本当に幸せを感じちゃいました。」
僕「山田君がそんなに感動されて、僕もうれしいですよ。一緒にバリ島へ来られて、本当に良かったですよ。」
エディ「タナロット寺院からアグン・コテージのあるジャラン・レギャン通りまでは、この込み具合なら、おそらく1時間ぐらいは考えていたのがいいかもしれませんね。混んでなければ40分ぐらいで到着しますけどね。」
僕たちの乗車した車は、田んぼの中を走っている道をどんどんと進んで行った。車のライトに照らされながら、田んぼの稲穂はインド洋からの海風で、ほのかになびいていた。
僕は車に揺られながら、先ほどの声は一体何だったのかと考えていた。車の窓越しに僕を見つめている何かが映った。僕を笑顔で見ている感じがあった。僕の視界の右端にその姿は確認できた。その姿はまさしくマルチンだった。僕は思わず振り返りその姿を探した。
山田「酒井さん、どうかされましたか。」
僕「今、マルチンが僕のことを見ていたような感じがしたので。」
山田「先ほどのカフェでマルチンさんの話が出たので、うれしくて酒井さんの前に姿を見せたのかもしれませんね。」
山田のその言葉に、僕は思わず目がウルっとしてきた。
エディ「この後は、アグン・コテージまで戻りますか。それともレストラリホテルのレストランへ直接行かれますか。」
僕「そうですね。この道の込み具合であればレストラリホテルのレストランへ直接向かっていただくのがいいですね。山田君、それでもいいですか。」
山田「もちろんですよ。」
僕「ありがとうです。」
エディ「わかりました。待ち合わせのレストランへ直接、向かいますね。この時間はジャラン・レギャン通りも込んでいますからね。直接向かうのがいいですよ。待ち合わせの時間は何時ですか。」
僕「20時なんですよね。」
エディ「わかりました。それまでには十分間に合うと思います。」
僕「ありがとう。安全運転でよろしくお願いしますね。」
エディ「了解です。もちろんです。安全運転で向かいますね。」
僕と山田とエディを運んでいる車の脇を、地元の人が乗ったバイクが、どんどんと走り過ぎていく。そのバイクには3人乗りは当たり前、4人、5人乗りとすごい景色だった。日本国内ではありえないが、東南アジアではよく見る景色ではある。
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