第20話 Inevitable encounter(必然な出会い)

エディ「酒井さん。山田さん。この風すごいですよね。海に近づくと波にさらわれそうなので、そろそろタナロット寺院が見えるカフェへ移動しませんか。カフェには予約を入れてあるので、席は夕日がきれいに見られる席を用意してあります。」


僕「エディ、ありがとうございます。」


山田「俺、超超楽しみなんですけど。エディありがとうございます。」


エディを先頭に僕と山田は歩き始めた。海の潮も満ちてきているようだった。少しづつ海水が多くなっている。タナロット寺院はもともと海の中にある岩山にできた寺院だから、干潮のときしか側に行けない建物だ。


海岸線を後にして、僕と山田とエディの三人は、簡単な土産物屋が並ぶ舗装された路を一歩一歩、坂道を登って行く。その坂道は舗装されているというよりは、石を敷き詰めて作られているようだった。途中、何軒かのカフェも隣接していた。その一軒のカフェの入口にペットのオオコウモリが添え木に留まっていた。もちろん逆さにつかまっている状態ではあった。


僕「エディ。このオオコウモリはフルーツバットですかね?」


エディ「たぶんそうだと思います。バリ島もここのところ、生活にゆとりが出てきているので、ペットを飼うライフスタイルも浸透していますよ。ちなみに今ではペット専用チャンネルの番組もありますよ。」


山田「そうなんだ。生活水準も他の国と同じ感じですね。そういえば、ジャラン・レギャン通りでも、ゴールデンリトルリバーを散歩している人がいましたしね。日本では、ペットは家族のようなもので、日常生活では欠かせないパートナーになっていますよね。国によって違うんですね。俺、またまた勉強になっちゃいました。」


僕「山田君、よく見ているね。僕が初めてバリ島を訪れたときは、ペットとして犬を飼っている人たちって、本当に一部の上層階の人だったんですよね。その当時は、道端にはがりがりにやせ細った犬が結構いましたよ。その野良犬たちも生きるのが精いっぱいという感じでしたね。」


山田「そうなんですね。俺はそんな犬をみませんでしたよ。時代の流れというやつでしょうね。」


僕と山田とエディが、そんな会話をしながら石畳の坂道を進んでいる。坂道を登りきったところにカフェがあった。おしゃれなパラソルがあるカフェだった。ただ、丘の上に立地しているので風が、かなり吹いていた。カフェのテラス席に用意してあるパラソルが、かなり風になびいていた。僕は時間を確認した。時計は17時を少し回っていた。


そのカフェは店構えもかなり凝った造りになっており、スタイリッシュでありつつ、昔名がならのバリ島の店構えになっていた。もちろん、店の入り口にはチャンディ・グルンの門構えになっていた。


エディがカフェの店員へ予約席まで案内するように言っていた。僕と山田、そしてエディの三人が案内された席は、タナロット寺院が眼下に見える眺めの良い一番いい席のようだった。席は四人掛けのウッディーな素材のテーブルとイスであった。もちろん椅子にはグリーンをベースにしたふかふかのクッションが備え付けてある。僕たちは案内された席へ着いた。


山田「酒井さん。あれがタナロット寺院なんですね。上から見下ろす感じで寺院の雰囲気がわかりやすいですね。岩山の下からだと全く分かりませんでしたけどね。お社の位置もこちらからではわかりやすいですね。全体像も見えますしね。」


エディ「この席が、タナロット寺院とサンセットのコラボレーションが一番きれいに見える席なんですよね。」


僕「エディ、ありがとうございます。間もなくサンセットの時間になりそうですね。」


僕と山田とエディの席へ、ボーイがメニューを持ってきてくれたので、インドネシアのスィーツとドリンクを頼むことにした。


ここでインドネシアの代表的なスィーツを紹介したい。


メジャーなところでは、ピサンゴレン、ダタール、エスブアなどである。ちなみに、ピサンゴレンは、バナナの天ぷらである。固めのバナナを使い油で揚げたバナナの甘みとサクサク感が絶品である。ちなみに揚げたてのサクサクのピサンゴレンは最高である。僕も大好きなスィーツの一つである。


ダタールとは、米粉のインドネシア版クレープである。甘く煮たココナッツと生地の相性が素晴らしいスィーツである。


クエ・ラピスとは、ラピスとはインドネシア語で「層」という意味である。米粉やタピオカ粉で作られたもので、外郎のような造りのものとバームクーヘンのような造りの2パターンがある。


最後にエスブアになるが、インドネシア番かき氷である。インドネシア語でエスは甘いという意味である。またブアはインドネシア語でフルーツ、果実を意味する。シロップがたっぷりかかり、甘く煮た豆などをトッピングとしてあるものだ。フルーツが盛り付けてあるパターンもある。


僕たちはそれぞれ好みのものをドリンク一緒にオーダーした。


僕「もちろん、バリコピとピサンゴレンがあれば、お願いします。」


山田「俺もバリコピにして、スィーツはエスブアっていうのにします。」


エディ「僕はダタールとガバジュースでお願いします。」


ボーイ「かしこまりました。この時間帯からサンセットの時間になるため、タナロット寺院が夕陽に染まります。とてもすばらしくきれいになる時間帯です。タナロット寺院とインド洋のコラボレーション景色をどうぞお楽しみください。」


僕と山田とエディは、ボーイにそう紹介されたタナロット寺院と夕陽のコラボレーションをしばらく眺めていた。三人が三人、共にその自然のすばらしさに圧巻され、しばし無言の時間が続いた。インド洋に沈んでいく夕陽がまた何とも言えず風情があった。地球の雄大さを醸し出していた。


ボーイ「お待たせいたしました。料理とドリンクをお持ちいたしました。」


ボーイがオーダーした品を運んできてくれた。一瞬、ボーイの手と僕の手が触れた。その瞬間、僕はそのボーイから何か伝わってくるものを感じた。それが何なのかは、この後すぐにわかるとはまったく思っていなかった。


僕「ボーイさん、ありがとうございます。」


山田「ありがとうございます。」


エディ「テリマカシ。」


ボーイ「お客様は、どちらからバリ島へお越しになられたんですか。」


僕「昨日、日本からバリ島へ到着したんですよ。」


ボーイ「そうなんですね。バリ島へは初めての観光ですか。」


山田「俺は初めてですね。すごくスローなライフスタイルに、俺は共感してますね。すごく気に入っています。バリ島へ来てよかったとおもいますよ。」


ボーイ「気に入っていただきうれしい限りです。」


エディ「こちらの酒井さん、今回でバリ島へ30回目の渡航なんですよ。」


ボーイ「そうなんですね。それほどまでバリ島を気に入っていただき、インドネシア人の僕もうれしいですよ。だから、インドネシア語が流暢なんですね。」


僕「そんなことないですよ。大学時代にはジャワ島のバンドゥンにあるインドネシアの大学へ短期留学もしていましたけどね。なんだかインドネシアというかバリ島へは縁があるみたいで。」


ボーイ「僕の兄も日本人の友人がいたんですけどね。」


僕「そうなんですか。お兄さんは、まだバリ島へいらっしゃるんですか。」


ボーイ「いいえ、兄は、もうこの世にはいません。数年前に他界しました。」


そのフレーズを聞いて僕と山田とエディは一瞬ためらった。


僕「変なことを聞いちゃってすみません。ボーイさんはバリ島の出身の方なんですか。」


ボーイ「いいえ。僕たち兄弟は、スマトラ島の北部にある小さな村出身なんですよ。出稼ぎでバリ島へ兄と一緒に来ていました。」


僕「そうだったんですね。」


ボーイ「何年か前にあったスマトラ島沖の大地震で兄と家族が津波の被害にあって、亡くなりました。人の命って本当にあっけないものだとおもいました。」


僕「そうだったんですね。お悔やみ申し上げます。」


ボーイ「兄にもバリ島で出会った日本人の友人がいたみたいですね。兄は人見知りなので外国の方と友達になることもほとんどなかったんですが、兄が言うには、その人と出会った瞬間に、他の人とは違う感覚があったといっていました。」


僕は、なんだかそのボーイの兄という人がマルチンのように、その瞬間思えた。


僕「ちなみにボーイさんのお兄さんのお名前は何というんですか。」


ボーイ「マルチンです。バリ島では、マルチンと呼ばれていたようです。」


山田「マジですか。酒井さん、今回、酒井さんが供養をするための友達の方じゃないんですか。マルチンさんって。」


僕「おそらく、そう思うよ。絶対そうだよ。」


ボーイ「実は、兄は津波の被害にあう前日に、僕に言っていました。もう一度、その日本人の友人に会いたいと言っていました。」


山田「その日本人の友達の名前ってわかりますか。」


ボーイ「兄が言っていたのが、JYUZENさんとか言っていました。」


僕と山田は絶句した。


ボーイ「その日本人の友人は、兄と同じ年とか言っていました。たびたびバリ島へ来ていて一緒に行動していたと、会いたいといって最後息を引き取ったと思います。津波に流された兄の遺体が見つかった時には、兄はもう既に息をしていませんでしたから。」


僕「そうだったんですね。実は、マルチンさんの友人の日本人って、僕のことだと思います。」


ボーイは、一瞬、動きが止まり、同時に目に涙を浮かべていた。


僕「実は今回のバリ島へ来た理由の一つに、マルチンに会いに来たんですよ。日本で友人の霊能力者に、マルチンがもうこの世にいないって言われました。そのマルチンが僕に会いたがっているといわれ、今回のバリ島の渡航を決める理由になったんですよ。」


ボーイ「今、僕の目の前にいらっしゃるお客様がJYUZENさんなんですか。本当にお会いしたくて、弟の僕も会えるのをずっとずっと望んでいました。こんな出会い方ってあるんですね。本当にうれしいですよ。それに兄もJYUZENさんが、またバリ島へ来てくれているとは、うれしく思っていると思います。これで兄の望みを叶えて上げられました。ありがとうございます。実は、昨晩なんですが僕の友人が本日の夜に日本人の兄の友達に会わせるといっていたんですよね。それを楽しみに今日は仕事をしてみました。その方が、今、この場にいらっしゃるとは、本当に驚きました。本当に、本当にこんなことってあるんですね。」


僕と山田は、目がウルウルしていた。僕が涙目になるのはわかるが、山田もその僕の気持ちに共感し、感動しうれしく思ってくれているようだった。


ボーイ「今晩、会う予定であった兄の友人の日本人の方なんですね。本当びっくりです。こんな出会いが、現実にあるもんなんですね。本当に驚きました。」


僕は、ふと思った。まだバリ島へ来て2日目なのにバリアンからは、僕の守護霊を教えてもらったり、マルチンの弟に偶然出会ったりと、本当に奇跡の出合いというか、今回のバリ島では、いろんな意味で「出会いの意味」があるんだなって、心の中で思っていた。人の出合いは、「偶然」ではなく「必然」と友達の霊力者の吉野も言っていたが、本当にその通りだと思った。


僕「ボーイさん、今晩、待ち合わせ場所のレストラリホテルのレストランで後程、お会いし、ゆっくりと話をしたいんですが、今晩の予定は大丈夫ですか。」


ボーイ「もちろんです。僕も今晩お会いしたいと思っていたので、時間を作ってありますから大丈夫です。」


僕と山田へそのボーイは、今晩の約束を改めて確認し、仕事へと戻っていった。このカフェは、有名らしく観光客が次から次へと入ってきている。あっという間に、満席になっていた。


僕はタナロット寺院と夕陽のこの絶景を見るのであれば、このカフェにかぎると思った。他の観光客たちも、きっと僕と同じことを考えているんだろうと実感した。インド洋の岸に打ち付ける白波が夕陽の光を浴びなら、水しぶきを上げている景色を見るとその景色がマルチンの涙のように思えた。


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