第19話 Tanah Lot(タナロット)
エディ「次はタナロット寺院へ行きますが、それでいいですか。酒井さん、他にどこか行かれたい場所はありますか。」
僕「特にないのでタナロット寺院へよろしくお願いします。タナロットへ今からだとサンセットの時間と重なりそうですね。すごくきれいですよね。」
山田「タナロット寺院でサンセットをみられるんですね。感動ものですよ。」
エディ「タナロット寺院を眺められる対岸の丘にカフェがります。今からそのカフェに予約入れますね。そのカフェからの夕日は素晴らしいですから、感動ものです。是非、酒井さんと山田さんへその夕陽を見ていただきたいです。感動しますから。」
山田「そうなんですね。俺、超超楽しみです。カフェからのサンセットって、なんだかおしゃれですね。リゾートって感じ満載ですね。」
エディ「それじゃ、酒井さん、山田さん、タナロット寺院へ向かい出発しましょうか。」
僕「そうですね。よろしくお願いします。今からだとサンセットには丁度いい時間ですよね。タナロット寺院を見学し、その後、サンセットを鑑賞ですね。」
そういった会話をしていた時、時間は14時15分であった。ウルワツからタナロットまでは、いったん、クロンボガン地区を通過することになる。時間帯によってはかなり込み合う地域だ。
僕と山田、エディを乗せた車は、スムーズに道なりに進んで行く。車は両サイドにある田んぼを通り過ぎていく。田んぼには、水牛で田んぼを耕している農夫の姿や、田んぼの中を泳いで草を食べているカモの姿が、あちらこちらで見られる。親ガモの後ろに子ガモがよちよちと歩きながら田んぼと田んぼの間を移動している景色もなんだか心が和む。
僕は、車窓から見られるそんなのんびりとしたバリ島の景色を何気なく見ていた。この景色が日本人の僕に何か「ほっ」とする感情を抱かせた。
僕と山田とエディを乗せた車は、ウルワツエリアのローカルな道を出ると、まずは、ングラライ・バイパス通りへ入った。このバイパスをしばらく走る。しばらく走るとサンセット通りへ入った。サンセット通りを一直線へ走っていく。間もなくするとラヤ・クロボガン通りへ入る。この通りは、僕たちの滞在しているアグン・コテージには、近い通りとなる。次に入る通りがいよいよタナロット寺院への通りとなる。その通りは、バイパス・タナロット通りである。
この通りまで来るとタナロット寺院へは、すぐそばまで到着したことになる。バイパス・タナロット通りの両サイドには、田園風景がバリ島のゆったりとした時間の流れを感じさせてくれる。両サイドの田んぼでは、やはり水牛で田んぼを耕している光景や、カモたちの群れの移動などがみられる。稲穂の実りも実感できる。その稲穂がインド洋からの風でなびいている。この景色が本来のバリ島の昔ながらの景色なのであろう。
エディ「タナロット寺院へは、もう間もなく到着すると思います。割と道が空いていてよかったですよ。この時間帯の道ってサンセットツアーの観光客の車でごった返しているんですけどね。今日は珍しいぐらいですよ。」
僕「そうなんですね。確か、僕が何年か前にタナロット寺院へ訪れたときは、結構、混んでいた記憶があります。」
僕がそんなことを言い終わった瞬間、僕に何かが降りて来た感じがした。
山田「酒井さん、大丈夫ですか。」
山田は、とっさに僕の変化へ気が付いた。
僕「大丈夫ですよ。タナロット寺院に近づくにつれ、何かが僕の体を支配しようとしてきているんですよ。でも、僕の何かに拒まれて入り切れていない感じみたいですよ。」
エディを見ると、彼は全くそんな気配を感じ取れていないようだった。
山田「そろそろタナロット寺院ですか。」
エディ「もう到着ですよ。この田んぼの間の路を通り抜けると、タナロット寺院の駐車場へ到着します。そこからは徒歩5分程度でタナロット寺院へ向かいます。タナロット寺院へは直接お参りできないですけどね。というのも、氏子だけが決められた日にお参りが許されているんですよ。観光客は、その寺院を下から見学するってことです。バリ島は宗教を大切にする島なので、そう言った規律って結構厳しいんですよね。」
山田「下から?」
エディ「そうなんです。下からです。というのもタナロット寺院は、陸から少し離れた海の中の岩山の上に建立されている小さなお社なんですよ。」
山田「そういうことなんですね。だから、下からなんですね。」
僕「そうですよ。海の潮が引いていたら、その岩山の下までは歩いて行くことができますよ。」
エディ「タナロット寺院が建立している岩山には海の中のそびえ立つ岩山なんですけど、干潮の時だけ側まで行けるんですよ。その岩山から聖水(淡水)が湧き出て、海水ではないんですよね。真水なんですよね。不思議ですよね。後は、黒と白色の二匹の大蛇が祭られている洞窟があります。その蛇は洞穴で生きていて、その洞窟の中にいますよ。おそらくウミヘビだとは思いますけどね。僕もまだ見たことないんですよね。ちょっと蛇は苦手なんで。今日のこの時間帯であれば海の潮は引いていると思いますよ。タナロット寺院が建立されている岩山のすぐ側まで、きっと行けますよ。それに僧侶にその真水で、お祓いをしていただけます。」
山田「そうなんですね。本当、バリ島って本当に不思議な島ですね。神様があちらこちらにいらっしゃるんですよね。まさに神々の棲む島ですね。」
僕「そうなんだよね。ホント、神様の棲む島なんですよ。」
僕たちは、バリ島の不思議さについて話していた。そうこうしているとタナロット寺院の観光客用の駐車場へ到着した。
エディ「酒井さん、山田さん、駐車場に到着したので、お二人はこちらでいったん降りていただいてもいいですか。僕は、車を駐車してきますから、待っていてください。」
僕「わかりました。」
山田「了解です。」
僕と山田は、駐車場入り口にある土産物店の前で車から降りた。そうすると僕の体の中が急に熱を帯びて、熱くなるのを感じた。風邪とかの悪寒ではなく何かわからないが、何かの力が体から湧き出るような感覚を覚えた。
山田「酒井さん、顔が赤くなっていますけど大丈夫ですか、熱とかがあるんじゃないですか。本当に大丈夫ですか。無理しないでくださいね。」
僕「山田君、お気遣いありがとう。山田君は本当にいい子だよね。駐車場の入口に降りた瞬間から、体の中から何かのパワーが湧き出る感覚があるんだよね。それと同時に、体が火照ってきているんだ。」
山田「何でしょうね。不思議ですね。先ほどのバリアンが言っていた大海原の女神の仕業ですかね。」
僕「具合が悪いとかそんな感覚ではなく、何かが体内から湧き出るって感覚なんですよね。」
僕は、不思議な感覚に陥っていた。なんだかバリアンが説明してくれたように、大海原の女神が、僕の守護霊としての存在をひしひしと感じていた。何か具体的なことがあったかというとそうではないが、何となくそんな気がした。
エディが車を駐車し、僕と山田に合流した。駐車場からタナロット寺院までは、真直ぐな一本道の下り坂の道のりだった。路の両サイドには、土産物店が軒を連なっていた。やはり、サンセットのサイトポイントだけあって、世界各国からのかなりの観光客たちでごったがえしていた。
土産物店の店主たちは、観光客たちに声掛けをし、店内へ誘っていた。僕たちはそんな光景を横目で見ながら、タナロット寺院へ向かっていった。
エディ「酒井さん、山田さん、もうすぐタナロット寺院の入口に到着します。そこで入館料、いわゆるお布施を行います。この金額は受付のドアの窓ガラスに案内があります。その金額を受付の者へ渡してください。ちなみに短いスカートの女性や、男性でも短パンなどでは、タナロット寺院への見学はできないため、サロンをレンタルし、腰に巻いて訪れます。島内の寺院は、バリ島の人にとって非常に神聖な場所なので、服装では制限があります。ここは神様が棲む島、バリ島なのでそのあたりは、割と厳しいんですよね。」
山田「そうなんですね。観光地でもバリ島の文化を体感できるんですね。やはりここは神様の棲む島なんですね。」
僕「神社仏閣を敬拝する気持ちって、日本人にも根付いているはずなんだけどね。今の日本では、そういった形式は軽減されつつあるよね。なんだか寂しい感じです。ところが、バリ島では、まだそういったスタイルが残っているんですよね。だから、僕はバリ島にこんなにも惹かれるんだと思いますよ。」
山田「神仏へ敬意をはらうことって、本当に大切なんですよね。現在の日本人には、かなり欠けていますね。だから子供が親を殺したり、隣近所の関係も疎遠となり、他人との距離が広がっているんでしょうね。感謝、慈悲や敬いという気持ちが薄れているんでしょうね、きっと。」
僕「山田君、若いのにいいこというね。こういった神仏を敬うって気持ちは、結局は他人への思いやりや、気づかいに繋がっているんでしょうね。バリ島では、そんな気持ちを持つ人々がまだまだ多いんですよね。そんな雰囲気が、僕は好きですね。その気持ちや行動って、やはり親からの躾だと思うだよね。」
エディ「バリ島は、まだまだ古い風習や信仰が根着いていますからね。」
僕たち三人が、そんな会話をしながら5分少々歩いていると、タナロット寺院の入口へ到着した。エディはインドネシア人のガイドであるため入場料は必要なかった。観光客である僕と山田が入場料を支払った。
タナロット寺院の入り口であるチャンディ・クルンを通る。いざ、タナロット寺院への参拝となる。ちなみにチャンディ・クルンといはバリ島の寺院や住まいの入口の門に必ずある魔よけの門のことである。日本でいうところの鳥居のようなものだ。その門を通過するとなんだか神聖な気持ちになってくる。この門では、悪霊がこの門をくぐろうとすると門の扉が閉じるといわれている。
山田「酒井さん、この門って何て言いましたっけ。なんだか神聖な気持ちになるんですよね。」
僕「この門は日本でいうところの神社の鳥居のようなもので、魔よけの門といわれます。名称は、チャンディ・クルンです。」
山田「そうなんですね。そういえば、聞いたことあります。どの寺院へ訪れてもあるんですか。」
僕「必ずあるね。」
エディ「タナロット寺院への参拝は、ほとんどがこの海岸から見られるインド洋のサンセット目的ですね。こちらからインド洋の海岸まで降りられますので、行ってみましょう。波はかなり荒い感じですけどね。インド洋って感じは体感できますよ。」
僕と山田はエディに誘われ、インド洋の海岸線へと降り立った。インド洋から感じ取れる海からのパワーが半端なく伝わってくる。インド洋から打ち上げられる波しぶきが本当に迫力のあるものである。この迫力って何だろうと思った。ただ単に外洋だからということだけではない。
海の沖合から僕に向かってエナジーというか、海のパワーがすごい勢いで向かってくる。このパワーを今の僕で受け止められることはできるのだろうかと感じてしまった。思わず足がすくんでしまった。先ほど、バリアンにいわれた僕の守護霊の大海原の女神の加護により、このパワーを僕自身の力として変換できるような感覚はあった。
エディ「簡単にタナロット寺院について説明しますね。16世紀にジャワの高僧がこの地を訪れて、この美しい景観こそが、神様が降臨する場所に相応しいとして、村人に海の守護神を祭る寺院を立てるように勧めたというのが、このタナロット寺院のゆかりだそうです。」
山田「そうなんですね。その物語もなんだか神秘的に感じちゃいますね。日本もそうですが、寺院が建立される場所って何らかのストーリーが必ずありますよね。」
僕「それにその土地には必ずパワーがありますよね。場合によってはマイナスのエナジーが満ちていることもありますけどね。良い気が満ちている土地を風水では明堂というんですけどね。逆に良くないエナジーの土地は凶地として忌み嫌われるものですよ。本当、バリ島にはこういった話がまだまだ多く存在するんだよね。これぞ、神様の棲む島なんだよね。」
エディ「ちなみにこのタナロット寺院は、バリ島六大寺院の一つではないんですけど、先ほど訪れたウルワツ寺院はそうなんですよ。バリ島の6大寺院とは、バリヒンドゥー教の大黒柱のような寺院のことなんですよ。ブサキ寺院、ランプヤ寺院、ゴアラワ寺院、バツカル寺院、プセリンジャガ寺院、ウルワツ寺院なんですよ。」
山田「そうなんですね。すごいですね。この立地条件と雰囲気から、バリ島の6大寺院に入ってもいいような感じがしますけどね。」
僕「先ほどからインド洋からすごいパワーを感じているんだけど、山田君たちは何かを感じませんか。」
山田「俺は特に感じませんけど。確かにインド洋の波の迫力は圧巻ですけど。」
エディ「僕も特に感じないですね。いつも見慣れているというのもあるかもしれませんけどね。」
このストロングな感覚は、僕だけなんだと改めて確認した。僕が受け取ったインド洋からの感覚とは、足を踏ん張っていないと海からのパワーにおされ倒れてしましそうな感じだった。僕は、インド洋に向き合い天を仰ぐように、両手を天に向けた。そうするとどうだろう、僕の指先へ何か白い煙のようなものが指を便って、僕の体内へ入り込んでくる感覚があった。一瞬ではあったが、何か煙のようなものが見えた気がした。
山田「酒井さん、今、俺、海から何か白いモヤみたいな煙みたいなのもが、酒井さんの指先へと吸い込まれていくのが見えたんですけど。」
僕「そうなんだよね。指先へ海からのエナジーの化身が入ってくる感覚があったし、もやが指先から体内へ行ってくる感覚があったんだよね。」
エディ「酒井さん、どうかされましたか。」
僕「大丈夫ですよ。特に何もないですよ。」
エディは、僕に起こった出来事は見えていない様子だった。やはり、僕と山田にしか見えてなかった。先ほど訪れたウルワツ寺院では全くそんな感覚はなかった。このタナロット寺院という場所が、何かのキーワードかもしれないと僕は悟った。
ウルワツ寺院では、海岸線まで降りることができなかったため、その差かもしれないかもしれない。確かに、バリアンが伝えていた大海原の女神からの何かのメッセージがあるのかもしれない。
僕にとってこの感覚が、実はサンセットを観光した後に会うことになっているマルチンの弟との出合いで、僕に対してのマルチンからのメッセージにかかわることとは、この時の僕は全く想像すらしていなかった。
僕はインド洋に向かって立っていると、僕に向かってすごく強い風が更に吹き始めた。男性が足を踏ん張っていないと飛ばされそうなほどの強さだった。僕の左隣に立っていた山田がこう言ってきた。
山田「酒井さん。この海からの風ってすごくないですか。かなり強くて足をしっかりと踏ん張っていないと転びそうですよ。この風、女性だったらころんじゃいますよね。この強さは。」
僕「そうだよね。さすがインド洋って感じですよね。地球のパワーを感じちゃいます。」
エディが僕と山田へ近寄ってきた。
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