1-2 惚れ薬とブチ猫
*
ホノカが魔法道具店から立ち去った後。
「で、実際あの子のことどうなの、先輩?」
店主が話を振った相手は本棚の影から立ち上がり、身震いするように肩を抱いた。
「純粋に怖えっス。俺、惚れ薬飲まされかけたわけだし」
「大変だな、モテ男」
店主の揶揄うでもない口調に、青年がうんざりとした表情を作る。
ホノカが憧れていると話したバスケ部の先輩その人だ。
「……ホノカのこと教えてくれたのは有り難いんスけど、この店こんなんで商売成り立つんですか」
「仮にも魔法ってつくからね。不思議な力が働いて知らぬ間に儲かるよ。
……ところで金払ってくんない?
「は?」
「いや、うちそれで儲かってるんだから。薬を売らないことで金が入ってくるんだよ、毎回」
意味を理解すると、すぐさま青年の顔が呆れ顔にシフトする。
「不思議な力が働いてるっつったのは?」
「それ、嘘」
「前言撤回早っ。種も仕掛けもありまくりだな……」
青年は「俺、財布持ってないんで」とキッパリ支払い拒否宣言をして、店を出て行った。
店主は「えー」と不満気に呟いたが、さほど気にしていないようだ。
「やれやれ」と首を振る。
「ま、この町もそろそろかな。おいで」
店の奥からシャランと澄んだ鈴音が響き、ブチ柄模様の毛皮の子猫が店主の足元に駆け寄ってくる。
子猫を肩に乗せ、ソファの後ろの大きな窓を開け放つと、ふわりとそこから飛び立った。
店主は店の真上まで音もなく飛行し、夜空に旅行鞄を放り投げる。
ピタリと空中に止まった鞄に、魔法道具が次々と空を飛び、収納されていく。
魔法書、薬のビン、マント、地図、魔法動植物……。
バタンと音を立て鞄が閉じた時には、眼下の魔法道具店は何の変哲もない寂れた古本屋に代わっていた。
「現代の魔法使いは魔法を使わせないことが仕事なんだよ。本当に必要な時に本当に必要な奴にしか、魔法道具は売れねぇんだ。安易に薬に頼るなっての」
けだるげに髪をかき上げた店主に「ニャー」と子猫が返事をした。
猫の鳴き声が聞こえたかのように、ふと通行人が空を見上げた。屋根に猫が上ったのかときょろきょろ辺りを見回すが姿はない。
後には満月に一瞬被さった人影が、夜の涼やかな風と共に通り過ぎて行っただけだった。
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