第7話 モッツアレラチーズのトマトオムライスとパフェ(4)

(デザートまで食べちゃったから、もうお腹いっぱいだなぁ~。でも結局パパとはちゃんと話せなかった。)


マンションに帰る道の途中そんなことを考えていたら、パパがいきなり口を開いた。


パパ「あのね…、言いにくいんだけど、今日は心美の家に泊めてくれない…?」


心美「え…?パパ、帰らないの!?まぁ事情が事情だし、今日だけなら良いけど…。」


まさかの私のマンションにお泊り…。


どうせ泊めるんだったら、パパじゃなくて彼氏でも泊めたいのだが…。


まぁ、居ないけど…。


(とりあえず、家に入ったら、もう少しパパの話をゆっくり聞かなきゃ…!)


後ろからすごすごとついてくる金魚の糞状態のパパを尻目に、私はそんなことを思いながら、自分の部屋の番号を押した。


――ガチャリ


部屋のオートロックの鍵が開く。


パパ「心美の部屋に泊めてもらう事になって悪いけど、ありがとね…♡」


パパは夕食の途中から、もう照れることもなく、ごくごく自然にオネエ言葉を遣っている…。


心美「1泊だけだからね…!?」


私は念を押すようにパパを睨みながら言ったが、その次のパパの言葉に驚愕した…。


パパ「実はねぇ~…。これからパパが部屋を見つけるまでしばらく泊めて欲しいのよ~ん…♡」


パパの顔を見ると、パパはウルウルとしたまるで子犬のような瞳で私を見つめている…。


心美「えええぇぇぇ~!?!?」


パパ「お・ね・が・い…♡」


いや…。還暦も近いオジサンにそんな猫なで声を出されても正直響かない…。


私はパパの言葉を無視して、次の言葉を発した。


心美「そういや、家を追い出されたって言ってたけど、まさか住むとこないの…!?」


パパ「ん~…。ママも1人になりたいらしいから、とりあえずあの家には戻れないしぃ~…。そういえば、心美が1人暮らし始めてから、パパと娘の時間ってめっきり無くなっちゃったなぁ~。なんて思ったのよ~!だから、しばらく一緒に父娘水いらずで過ごさない?♡心美、彼氏居ないんだし良くない?♡」


心美「はぁ~…。新しい家見つけたらすぐに出て行ってよね!?いくら彼氏が居なくて、友達も少ない私でも、さすがにパパと2人で同居は恥ずかしいし…。」


パパ「分かったわよ~ん♡そのかわり、パパが今まで隠しながら鍛えてきた美容知識の底力で、心美をキレイな大人のレディにしてあげるから♡」


もうほとんど話が通じていない気がしたので、私はパパの言葉をスルーした…。


心美「私、明日も仕事だから、お風呂入って寝るね!パパは明日は…?あ!そういえば、職場では言動とかどうしてるの…?」


パパ「パパは明日お休みよ~!職場では頑張って、オネエな自分は隠してたの。まぁ、もう退職しちゃったから、これからは自由なんだけど、ほんとぴえんよね。」


「ぴえん」なんて言葉は、女子高生や若い子が遣うから可愛いのであって、オジサンが遣っても恐怖以外の何ものでもない…。


パパが可愛いと思って計算して遣ってるんだとしたら、痛すぎる小悪魔オジサンである。


心美「え…?パパ、定年までまだだよね…?退職したっていつ…?だって今日だって出張で来たって…。」


パパ「実は1週間ぐらい前に、会社は早期退職しちゃったのよ~。ちなみにママも知ってるわ。今日スーツで行ったのは、今までお世話になった得意先に最後の挨拶に行ってたからなのよ!」


私は頭の整理が追いつかなくなってきたので、思考するのを辞めた…。


心美「とにかく、パパはこっちの部屋を使って。お風呂は私の後に入ってね?」


私はそう言い残し、パパの返事も待たずに部屋を出た。

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