その3 小さな悪魔②

 純子は成長すればするほど、ただあどけなく可愛いだけでなく、怪しげな美しさまで備えるようになっていった。

 そして、同時に”影の性癖”も、ますます巧妙かつ陰湿さが増幅したという。

 しかしながら成績も良く、両親のみならず教師、周りの大人、同級生たちの中でさえ、彼女を疑う者は一人もいなかった。


 彼女が中学に上がった頃には、兄である武はもう大学を卒業し、社会人になっていた。

 父親は既に亡くなっていたものの、少なからず遺産を残しておいてくれたので、暮らしに困ることはなかった。

 母親は母親で幾つかのブティックを経営していて、忙しくて滅多に家にいなかったが、

それでも表面的にはどこにでもいる、ごくありふれた家庭に思えた。

 純子は母親がそう望んだためもあって、中学から大学までエスカレーター式の、都内でも割と有名なミッション系の女子学園に入学した。

 そこでも妹は問題トラブルを起こした。

 いや、正確には”何か問題トラブルがある度に、いつも純子の姿があった、そう言った方が良いかもしれない。

 体育の授業で殻になった教室の、クラスメイトのバッグの中から財布が盗まれていた。

 幸い財布はすぐに発見されたが、同じクラスの別の少女の持ち物から見つかったのである。

 彼女は必死に抗弁したが聞き入れて貰えず、結果的には退学を余儀なくされた。

 その時の唯一の目撃者は純子だったという。

 本来ならば、彼女は”友人を売った”となり、クラス中から反感を買うところなのかもしれないが、何故かそうはならなかった。

 成績も優秀、スポーツや芸術にも才能を発揮し、クラス委員まで勤める彼女のことを、誰も疑うものはいなかった。

 別の有る時には、学園内のクラブハウスで小火ぼや騒ぎが起き、どさくさに紛れて、チアリーダー部で保管してあったコスチュームが何枚か盗まれた。

 それだけじゃない。

 チアリーディング部の部員の一人が置き忘れていたスイス製の女性向け高級腕時計が紛失していのだ。

 結局犯人は学内に侵入したホームレスの仕業ということが判明したが、現場を目撃したのは又しても彼女だったという。

 

 そのホームレスは下着泥棒などの前科があったため、すぐに逮捕されたわけだが、取り調べの際に、おかしなことを口にしたという。

”コスチュームを盗んだのは俺だが、火をつけたのは俺じゃないし、腕時計なんか知らない。ある女に手引きをされて、彼女が放火している隙に忍び込んだんだ。”

 その女性はヨーコという名前で、証言をもとに作成したモンタージュが純子にそっくりだったのだ。

 しかし、当の純子は頑として否定。結局決め手になる証拠が何一つなかったため、不起訴ということになり、ホームレス一人の犯行になった。

 

 当時武は、家を出て一人暮らしをしていたが、このニュースを聞いてひどく気になり、実家を訪ね、母親と暮らしていた妹の部屋を、彼女の留守中に調べてみた。

 

 まさか、とは思ったが、嫌な予感は当たった。

 彼女の”宝石箱”から、腕時計が発見されたのである。


 彼は散々迷った。

 本当ならば勿論警察に届けるのが筋なんだろうが、やはり妹を犯罪者にしたくなかった。

 腕時計だけをこっそり持ち出し、新宿駅のコインロッカーに隠し、警察に匿名の電話を入れ、キーだけを匿名の郵便で送った。


 勿論新聞ダネにはなったが、それっきりだった。


 その後妹は優秀な成績で大学を卒業し、丸の内にあった、某一流商社に入社し、暫くは真面目に働いていたが、数年前に、

『思うところあって退職したい』それだけ告げて辞表を提出、僅かばかりの退職金を受け取り、行方をくらました。











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