その2 小さな悪魔①

 ある時、それはまだ純子が小学校の二年生になって間もない頃の事だった。

 彼女はクラスメイトの誕生日会に呼ばれた。

 呼ばれた先は比較的裕福な家庭で、格別仲が良いという訳ではなかったが、子供達にも大人同様義理や付き合いというものがある。


 呼んだり呼ばれたりというのは良くあることだったが、問題はそこじゃない。

 パーティが終わり、お開きになった時、友達の部屋の宝石箱から、ネックレスとブローチが無くなっていたのだという。

 

 子供の持つものであるから、どちらもさほど高くもないイミテーションだったらしいのだが、どこを探しても見つからない。

 ネックレスの方はすぐに見つかった。

 パーティーに来ていた女の子、クラスでは成績が良く、だが家はそれほど豊かでないが、そこそこ人気がある。

そんな女の子の持ち物から出てきた。

 彼女は”自分はやっていない。そんなものがあるとは知らなった”と抗弁したが、結局両親と共に謝罪に訪れ、ネックレスを返還した。

 子供の世界とは残酷なものだ。

 その一件で少女のクラスでの人気は落ち、誰も付き合うものは居なくなってしまったという。

 彼女はクラスで孤立し、居づらくなったのか、他所の学校に転校して行った。

 ブローチの方は、結局どこからも出てこず、それっきりだったという。

 驚いたのはその後だ。

 数日後、武が純子の部屋の前を通りかかったところ、ドアが数センチばかり開いており、中で妹が一人で遊んでいた。

 恐らく何かプリンセスごっこでもしていたのだろう。

 彼女はいつも一人で遊ぶのが好きだったから、その点はさして驚きもしなかったが、妹の胸に、ダイヤモンドの形をしたブローチがあった。

 武は妹の行動や持ち物を逐一把握していた訳ではないが、それにしても彼女がそんなものを持っていないことだけは知っていたから、

”純子、それどうしたんだ?”と、部屋の中に入り、何気ない口調で聞いてみた。

 すると妹は、別に悪びれた様子もなく、

”貰ったのよ。〇〇ちゃんに”と、あの誕生日会の主である女の子の名を告げたのである。


 その時は、

”ああそうか”で済ませたが、後になってみるとやはり不思議だった。

 あれほど大切にしていたネックレスと共に無くなったブローチだ。

 いくら何でもそれほどの品物を簡単に他人に譲ったりするものだろうか?

 しかし妹は”貰った”と言い張り、彼もそれ以上は問いただすことが出来なかった。

 かといって放置しておくわけにもゆかない。

 だからといって妹に泥棒の汚名を着せることも出来なかった。

 そう考えた武は、妹がピアノ教室に行って留守をしている間に、それを彼女が大切なものをしまっていた、母親から貰ったというオルゴール付きの”宝石箱(彼女はそう呼んでいた)からブローチを取り出し、


”道で偶然に拾ったから届けに来た”と言いつくろって届けてやり、妹の宝石箱には、似たようなものを自分の小遣いで買って戻しておいた。

 純子は何か気づくかもしれない、そう思ったが、結局彼女はそれきりブローチについては何も口にしなかった。

 その程度なら可愛らしいものだが、次第に彼女の行為はエスカレートしていったのである。

 

 必ず純子の周辺の友達の”何か”が無くなるのだ。

 そして品物はこれまた”必ず”クラスメイトか遊び友達、それもお世辞にも彼女とあまり仲の良くない子の鞄や机の中から見つかるという。

 

 純子は学校から帰ってくると、そうした話をいつも武に得意気に語って聞かせる。

 気になった武が彼女の部屋をそっと調べてみると、一緒に無くなった”何か”の一部が見つかるという訳だ。

 流石にここまでくると、武も兄として親に話さざるを得なくなってきた。

 だが両親のみならず、教師や周囲の大人の前では明るくて愛想が良い純子のそんな姿について話しても、まったく信用してくれなかった。



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