黒いオルゴール
冷門 風之助
その1 発端
『法に触れておらず、結婚や離婚問題でなければ、大抵の依頼は引き受けます。
俺は
『結構、それではお話を伺いましょうか』
11月も押し詰まったある日、彼はある事件で情報を交換したことのある、九州に住んでいる弁護士の名刺と紹介状を持って俺の
彼の名前は
地味な紺色のスーツに、薄いえんじ色のネクタイをし、スーパーマンに変身する前のクラーク・ケントみたいな黒縁眼鏡をかけている。
色が白く、如何にも真面目を絵に描いたような男だった。
『この女性の居所について調べて欲しいんです』
彼は背広の内ポケットから札入れを出し、中から一枚の写真を指で挟んで俺に手渡した。
一人の少女が写っている。
どこか公園のような場所だろう。
芝生の上に横座りになり、膝の上に本を置いてカメラのレンズを見ている。
薄茶色のセーラー服にひだの多いスカート、白いソックスに黒の革靴。
肩まで伸ばした髪は、首の後ろでひとまとめにして束ねられている。
ぱっちりした目、色白で細面の、一昔前の東映のお姫様女優のような顔立ちだ。
鼻はそれほど高くもない。
口は小さく、まるで日本人形のそれのようだ。
『名前は
『彼女は私の妹、いや、正確には
そう短く告げ、また息を吐き出した。
『私たちの両親は、まず父親が私が大学一年、妹が小学校六年の時に亡くなりました。』
父は割と名の知れた財閥系船会社の重役をしていた。
仕事で海外を飛び回ることが多く、あまり家にいる事はなかったが、物静かで、優しく人柄のいい性格だったという。
母親は同じ会社で働いていた女性で、父とは恋愛結婚だった。
見た目には夫婦仲も良く、至って普通の家庭で、波風など立ったことは一度もなかった。
『妹さんとは随分歳が離れているようですが、』俺の問いに、石倉氏はまた苦い顔をして、コーヒーを口に運び、それから続けた。
『妹は私が10歳の時に生まれました。その頃は父も会社の重役になりましてね。一応落ち着いたものですから、日本にいました。私は突然母が妊娠し、妹が生まれると知り、少し戸惑いはしましたが、嬉しかったのは確かです』
妹の純子は本当に美少女だった。
もう幼い頃から、周囲の男性、いや、時には女性まで惹きつける妙な魅力を持っていたという。
武は最初、
”本当に美少女なんだから当たり前だろう”
ぐらいにしか思っていなかったのだが、そのうちに妹に妙な違和感を覚えるようになってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます