港町編4 収納と取り出し

レイナは眠っている。今日一日でいろいろと力を使わせ過ぎたか……

こうなってくると悩ましいな、レイナを置いていくか、連れていくか、二人で待機するか

置いていくのは先程まであった火事が心配だな、それに普段から寝ている間はドラゴンに見張りをさせていると言っている、何か心配なことがあるのだろうか?

ここは、リスクを抑えるのが正解だろう、安牌を取って二人で宿屋に待機するか。

レイナを背負い二階まで行く、部屋はいくつかあるが他に人はいないようだ、それと少し古い建物らしい床がきしむ音がする、壁に掛けてある名前を見て扉を開ける。鍵はかかっていなかった、不用心ではあるが、そもそも旅をする関係上荷物は少ないし、その荷物も一部は私に預けられている。盗まれるようなものはないだろう。

窓を開けて周りを見てみる、少し遠くの方が騒がしいという印象だ、私は例の家にずっと居たせいであまり分からないが、大規模な火事でもあったのか?

海の臭いと焼け焦げた臭いがする、どちらも一般的には好きになれない臭いだろう。私は生まれが海に近かったから海の臭いは気にならないが……

まあ、アイリスとポーラが変なことに巻き込まれていなければそれだけでいいか。、

それにしても、今日一日面倒なことが重なったせいで疲れたな。私はベッドの上に座る、横になるとそのまま寝てしまいそうだから、横にはならないようにする。

それにしても転生した体っていうのは便利なものだ、先程の足のケガもある程度は治っている。転生してから痛覚も減っている。これが無かったらもう少し安全策を考えただろうな。

それと、情報屋に問い詰めないといけないことが出てきたな、あんな化け物が出てくるとは。

これからの予定など思いふけっていると、何かが割れる音がする。ガラスのよう物もしくは皿を割ってしまったような、そんな音がする。

部屋の真ん中あたりに透明な何かがある。私はそれが何か確認するために近づこうとするが、違和感がする。

何故部屋の真ん中の辺りに飛んでくるのだろうか、ここは二階なのだから下から投げ込んでこうなるとは考えにくい。

だとすれば別の場所から故意に投げ込まれたということになる。なんのために?

見た限り中には液体すら入っていない。とすれば気体か?気体とすれば毒のようなものになるはず、私は仰いでみると何か変な臭いがする。やはり危険そうだ。

私はそう思うと、紐を取り出しレイナを体に括り付けて部屋を出ようとするが、きしむような音がしたので手が止まる。

「ポーラちゃん?アイリスちゃん?それとも他に誰かいるのかな」

反応は無し、仕方ない後で謝るか、岩と取り出しそれを落として床を貫く、下の階の床に届く前に再度収納する、これで修理費がいくらか安くなればいいんだが……

私は下の階の窓を開けそこから飛び出す。

瓶を投げ込んだ奴がいるなら間違えなく真正面だ。その直後ダン!と何かが弾けるような音がする。

髪や肩の辺りを何かが掠める、上の方を見ると何かを持っている人間がいる。先程の音からして銃だろうか?私が知っている中であんなものを作れるのは一人だけだが……後で考えた方が良いか。

私は射線が通らないように狭い道を通る、人混みに紛れるのも手ではあるのだが、あまり一般人を巻き込みたくはない。

私が銃を使えればもう少しは策が練れたんだが……今はとにかく逃げ続けるしかないか?

と思っていると私の頭上に影が重なる、上から刀のようなものを持って顔を仮面のようなもので隠した人間が落ちてくる、私は空中に木の板を取り出し、体を倒すレイナに負荷がかからないように肘から先を地面につけバランスをとる。そこから左足を木の板の中央に当ててバランスを取り、上に人間が乗ったところで膝を曲げ衝撃を和らげつつ、右足で板の縁を蹴り上に居る人間を弾き飛ばす。相手が持っていた剣は喉元まで来ていた、板を蹴るのが数秒遅れていれば死んでいただろう。

私は急いで起き上がり飛ばされた人の反対側に走り出す。壁になるものを取り出して時間稼ぎつつ飛び出し、少し大きな路地に出ると、似たような仮面を着けた人間が複数人いる。

私は咄嗟に立方体の岩の塊を二方向に出し攻撃の方向を限定する。さらに前方向から来る人間に対し十数個の槍を空中に取り出す、自由落下する槍の外から剣を投げ込んでくる。私は軽く体を逸らして躱す。しかし私の左腕にはナイフのようなものが刺さっている。先程蹴り飛ばした人間がもう三メートル近い岩を上ってきたのか、私は腕に刺さった刃物を収納する。その時に後ろのレイナを無視して後ろから私の首を絞めてくる。私は咄嗟に顎を下げる、体格差がある相手から首を絞めらる状況ならばこれが最も効果的に時間が稼げるらしい。

私はナイフを右手に取り出し、相手の腕の肘辺りに刺す、しかし何か綿とも違う何かが入っており上手く腕までは刺さらない、そして相手の体を切るにはレイナが邪魔で難しい、さらに剣を投げたもう一人も近づいて来ている。だがその瞬間、首を絞めている力が弱くなっていることが分かる。

私は体勢を低くして拘束を抜け出し、目の前の相手に向かって走り出す。相手は少しの油断があった分だけ反応が遅れる、相手の持つ刀は私に向けられるが距離も時間もない状態から放たれた突きは通常のそれよりも遅くはある。私は能力を発動させる、私の能力は私が体のどこかで触れたものを収納そして取り出すことができる、私は肩先に刃が当たったところで刀を収納する。こうして生まれた相手の隙にナイフを収納そして拳銃を取り出す、拳銃を腹部に一発そして左足で顎を蹴り上げる。

だが私の目線の先、建物の屋根の上には銃を構えた人間がいる。私に分かることがあるならば、この体勢からでは避けられない上、壁の取り出しも銃弾の収納も絶対に追いつかない、銃声が響き渡る、だがその弾丸は私には当たらなかった。その直後に突風が起こり視界を妨げられる。


「これ以上は止めといたほ方がいいぜ」


その建物の上に二人の人間がいる。その片方は金髪で長耳、間違えなくポーラだ。

そして振り返るとアイリスもいる、私の首を絞めていた奴は両肩と膝裏から出血している。アイリスが近づいて来ると分かるが、何かクロスボウだとか弩だとかそんな風に言われるものを持っている。


「このままだとこの人死んでしまいますかね?」


こいつは思っていた以上に頭がおかしいらしい。

私は岩と槍を収納し、残っている人間に呼びかける。


「人数の差も減ったし、この人を引き取って帰ってもらえないかな、お互いにこれ以上は……」


「分かった、これ以上の被害は出したくない」


相手も理解して頂けたようでありがたい限りだ、その後はあっという間に事が済んだ。奴らは撤退、私は一応助かった。

それにしても本当に長い一日だった。アイリスやポーラに聞きたいことはいくつかあるがそれは後日聞けばいいか。

そうして宿に帰る、レイナを宿に置いたら私も病院に行くとするか、ここで私が気づいたことがあった。

あの床どうしよう?まあ、多分どうにかなるだろ、多分

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