第8.1~8.4話 帰路

一つ分かることがあるなら、リーチェの運転はひどいです。そりゃあ転生前はただの女子高生なんだから運転なんてしたことがあるはずありませんが……


「リーチェくん、結構速いけど大丈夫かい?」


「三回目の運転だけどたぶん大丈夫かな」


「なかなか良い乗り物だぜ、結構速いし私も欲しいぜ」


「たしかに便利な乗り物ですね」


この世界の住民、順応能力高くないですか、この時代は馬車が基本でしょう。


「リーチェ、もうちょっと揺れないようには……」


「残念だけど道が舗装されてないから無理かな」


そういえば、少し気になっていることがあるのでした。


「エドワーズさん、エルフがこの辺りにいるのは珍しいですけど、なんの用で来たんですか」


「ポーラでいいぜ、堅苦しい感じは嫌いなんでな」


「レイナちゃんの言う通り、ポーラちゃんはどうしてここに来たのか気になるかな」


いきなり「ポーラちゃん」呼びって……リーチェ以外とそういうタイプなんですよね。私はそういう話しかけ方無理なんですよね。どうも緊張しちゃって。


「私はただ旅をしたかったってだけだぜ」


「なるほどねえ、僕もだいたいそんな感じで旅を始めたから分かるよ」


じゃあ、あなたはいつどこで太陽魔法なんて無茶苦茶覚えたんですか、普通に暮らしていて、手に入れるものじゃないでしょう。


「それにしても、レイナ君そんなに虫の毒はつらいかい」


「九割九分乗り物酔いのせいです」


「そりゃあ、大変だね、君の場合竜騎士なんだから特に」


本当に大変ですよ。具体的に言うなら小説家志望で一番にが手な教科が国語のような……これ私自身の話ですね。


「この車、随分静かだね、誰に作ってもらったんだい」


「しばらくは秘密かな、そもそも魔力で動いているから、他の乗り物よりかは静かなんじゃないかな」


いや、魔力って何ですか?リーチェが勝手に作った言葉でしょうか、それともこの地域だと割と普通な言葉なのでしょうか、意味合いは分かりますが、具体的に言葉にされたのは初めてですね。


「まあ事故さえ起きなければ、このまま帰れそうだね」


リリさん、それフラグですよ。いやまあ、そんなことはどうでもいいんですよ。


「リーチェ、さすがに窓開けさせて」


「別にいいんじゃないかな」


突然変な音が鳴ると、車が急フラフラと蛇行運転を始めます。


「何が起きたんだぜ」


「何か踏んじゃったかな」


リーチェがブレーキをかけます。その次の瞬間、窓にひびが入ります。


「なんか攻撃されてるっぽいね」


「結構長距離からかな」


「降りた方が良いっぽいぜ」


「これ以上車体を傷つけたくないし、レイナちゃん引っ張って降ろしてくれないかな」


そう言われて私は車内から引きずり出されます。

気分が本当に悪いです。立ってるのがやっとですね。

車はリーチェの空間の中に入れて私達は木々の影に隠れます。


「盗賊みたいだね、やたらと目立つものに乗ってたのは確かだし」


「どこから攻撃してきてるんだぜ」


「相手もこの森の中にいるんじゃないかな」


森というよりは林という印象を受ける場所ですけどね。


「僕が前に出ようか?」


「相手が見えないけど大丈夫なのかな」


「だいじょーぶ、だいじょーぶ僕は死なないから」


それがどういう意味を持っているのかは知りませんが、少女は歩みを進めます。

そして、攻撃が当たったであろうという位置から粒子のようなものに変わって消えていきます。粒子は昔テレビで見た光るプランクトンだとか海ほたるだとかそんなものを思い出させるような光り方をしていました。

その後数秒でまた光の粒子が集まってきました。粒子が段々と人の形になり、もとのリリさんになります。


「大丈夫かいみんな」


「それより、リリちゃんは大丈夫なのかな」


「結構な手練れだったけど、僕は死ねないから負けはしないよ、それと相手は完全に蒸発させたから返り血ついてないよ」


そっちの方がやばくないですかね


「それにしても、ここからどうやって帰るんだぜ」


「歩きしかないかな、幸いこの辺りはそれほど危険な生物いないから」


「レイナ君歩けるかい?」


「まあ、なんとか」


こうして、今度は歩きで帰ることになりました。

まあ何事もなく帰れました。中央の時計塔を見ると二時を少し過ぎたくらいです。やけに長く感じる時間が続きましたね。

そういえばさっきのあれは、だれを狙って攻撃したのでしょうか。

私にも若干心当たりがありますが、リーチェも結構ありそうなんですよね。

今考えてもどうしようもないですね、考えるのは止めにしましょう。


「リリちゃん、何か探してるのかな?」


確かにリリさんはさっきからきょろきょろとしているような……


「探してる人がいるんだよね」


「少し休憩しないかな、案外探しものは近くにあることが多い気がするかな」


私は言われる前にもう噴水の前のベンチに座ってますけどね。

予定の五時まではここでのんびりしていてもいいですね。

五分ほど経つと、リリさんが話しかけてきます。


「早速見つけれたよ、会いたかった人が」


「誰ですか?」


「こっちに走ってくる人だね」


確かに遠くにそんな人がいますが、正直リリさんの視力の方に驚きました。


「おーい、オリバーくんこっちだよー」


息を切らしながら、オリバーと呼ばれた人は来ました。リリさんは自由人っぽいので関わり続けてるこの人は苦労人でしょうね。


「ようやく見つけたぞ」


「やあやあ、おつかれ」


「どこに行っていた?」


「ちょっと街の外まで」


「警備の奴らは何をしてるんだ」


「落ち着きなよ、僕が本気を出したら視界にとらえられる人間の方が少ないってものなんだから」


そのまま、流れるようにリリさんは手錠をかけられます。


「リリさん何やったんですか」


「いやーちょっとね」


「あなたはリリ・ハイドの関係者ですか」


「今日初めて会ったばかりですけど」


「それじゃあ、大丈夫ですね、何かされませんでしたかこの犯罪者に」


「犯罪者ってリリさん何かしたんですか」


「こいつは複数の殺人、数えきれないほどの脱獄、他いくつかの罪がありますね」


「おいおい、僕とレイナ君とで対応が違いすぎないかい」


「黙れ、さっさと行くぞ」


そう言って、リリさんは引っ張られていきました。というか二人はどこに……


「レイナちゃん、リリちゃんはどこに行ったの」


何かを食べながら言ってきます。


「知り合いが来て、用事ができたって」


「ああ、そう」


リーチェは本当に他人に最低限の興味しかないんですよね。


「ごめんレイナちゃん用事を思い出したからちょっと行ってくるね、どこで待ち合わせをしようかな」


「五時ちょうどに時計塔下で」


「じゃあ、それでいいかな」


リーチェはそう言って、立ち去ります。


「レイナはもう大丈夫なのかぜ」


「まあ、良くはなってきましたよ」


「そうか、それは良かったぜ」


「これからポーラさんはどうするつもりですか」


「特には決めてないぜ、一緒に旅をする仲間がいるってわけでもないからな、そうだ、レイナ一緒に旅をしないか?」


「いいですね、私もそういう仲間はいなかったもので」


お互い結構強いはずですし、女の子どうしなので、結構楽しい旅ができそうです。


「レイナは今までどんなところに行ってきたんだぜ?」


「そうですね……


その後ものんびりと会話を続けて、おおよそ四時過ぎ、私自身こんなに話すことがあるとは思いませんでした。

アイリスさんとリーチェの約束もありますし、そろそろ移動しますかね。


「ポーラさん、そろそろ時計塔のところまで行きますか」


「もうそんな時間かぜ」


そう言いながら、ポーラさんは立ちあがります。

こうして、二人との約束の場所に向かいます。

時計塔の下まで行くと五時にはなっていませんでしたが、二人とももういました。いや、二人で話してますね。


「レイナちゃん体調は大丈夫かな」


「レイナさん、どうでしたかこの街は」


「上々って感じ、というか二人はいつの間に仲良く」


「ついさっき会って話してたら、仲良くなれたかな」


リーチェのコミュ力以外と高くないですか。私と違って前世でも友達多かったんですかね。


「レイナちゃんはこれからどうするつもりなのかな」


「ポーラさんと旅に出ようかと……」


「その旅、私がついて行ってもいいかな」


「別に私は構わないけど」


「私も問題ないぜ」


「すみませんが私も旅にご一緒してもいいでしょうか」


少し意外でしたね、アイリスさんがそんなことを言うとは、いや、今日会ったばかりの私が何を言っているのでしょうか。


「シスターの仕事は大丈夫なんですか」


「先程手続きは済ませてきました、大丈夫です」


こうして、四人で旅に行くことが決まりました。


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