第6~8話 虫の洞窟
私は現在薄暗い所にいます具体的に言うと洞窟です。
ついでに言うなら前とは種類が違う巨大な虫に囲まれています。
私とリーチェとリリさんで三人仲良くです。
まあ、なんでこんなことになっているかと言いますと、だいたい三十分前に遡ります。
三人で街をのんびりと歩いています。
「レイナちゃんこれからどうするつもりなの?」
「いや、特にこれと言ってすることは……」
「それじゃあ、調査しない?虫について」
「リーチェ、それってどういうことなの?」
「最近出てくるようになった虫の巣があるかもしれない洞窟の調査かな」
「なんでそれを知ってるんだい?リーチェ君」
「ただ知り合いがいるだけだよ、とても優秀な人が。レイナちゃん、ドラゴンで運んでもらえないかな」
「別に私はいいけど」
ドラゴンさん最近無茶ばかりさせてるからね、さっきも私だけ寝てたし
「ドラゴンさん、ってことで乗せてもらっていい?」
「我は今ねむいのだが」
「後で寝ていいから、さっさと飛んでよ、できるだけ揺らさずにね」
ということで、だいたい二分で着きました。
いや、私にとっての二分は結構長いんですけど、
洞窟を外から見てみると、入り口になっている穴の大きさはかなり大きいです。横幅で十メートルはあり、ドラゴンでも入れるでしょう。
「それじゃあ、レイナちゃん先頭で入ってみようかな」
「なんで私が……」
「火竜の炎で灯りを出せるんじゃないかな」
「リーチェもランタン持ってるんじゃないの?」
「レイナちゃん思ってたより勘が良いかな」
そう言って、リーチェは無から、ランタンを取り出す。
「リーチェ君の能力はどういう仕組みなんだい?」
「私の能力は四次元ポケットみたいな、無限に物が収納できる能力って説明すればいいかな」
そんな話をしながら洞窟の奥底へ向かっていきます。
洞窟は奥に向かっても、広いままです。
洞窟は曲がってはいますが、分かれ道があるわけでもなく、一本道が続いています。
「どれくらい歩いたかな」
「リーチェ、まだ十分くらいしか歩いてないから」
「景色が変わらないからどれくらい進んだのかわかりずらいね」
後ろを見ると、入り口から入る日の光はほとんど見えません。
かといって異臭がするとか言うわけでもありません。少し湿気が多いくらいでしょうか。
ここで急に先頭を歩いているリーチェが止まりました。
「ようやくお出ましってところかな」
軽く湾曲した道の先には、虫がいました。
虫はムカデのような姿をしており、体長は二メートルほどだろうか、足は赤く、殻は黒い。足は何十本もある、少なくとも一つ一つ数えられる数ではないでしょう。
「ここで戦うってことでいいかな」
「僕は構わないよ」
「私も大丈夫」
「レイナちゃん、あらかじめ言っておくけど、火力出しすぎると、蒸し焼きになるからね」
私はとりあえず頷いておきます。まあ、最悪の場合他人はどうでもいいので、自分だけでもドラゴンの力を使って逃げ出しますけど。
「ドラゴンさん、翼出して」
あれ?ドラゴンさんから反応がありません。
「ドラゴンさん?ドラゴンさん」
どうやら寝ているようです。さっき飛んだところで限界だったのでしょうか。寝る前に一声かけて欲しかったです。
まあ、私だけでも最低限は竜の炎を扱えるので特別困ることはないと思いますが……
「リーチェ、私にナイフ貸して」
ナイフを軽く投げて渡してくれます。元の世界でやったら危ないことこの上ないですね。
ナイフに炎をまとわせて、白銀から真紅に変わった刃を見て飛び出す。
一瞬の内に一番近い虫を両断して、さらに駆け出す、近づいてくる虫は全て切り裂いていく、焼け焦げたような臭いが狭い洞窟の中に充満していく。そんなことは関係ない、しかし次の虫に狙いを定めた時に足が止まる、どうも地に足がついていないような、そんな痺れが右足を襲う、瞬時に毒をくらったのだと理解するが、何が原因なのだろうか、いや、その答えも直後に出た、私の右足は水たまりのようなものを踏んでいる、虫の血だ、ムカデのような姿から毒を持っている可能性は考えていたが、まさか血に含まれているとは、洞窟という飛んで逃げるわけにもいかないこの環境においてはつらいものだ。
「ムカデの血には毒がある!触れないで!」
後ろの二人もすぐさま理解したらしい、足元を確認している。
だが、私は他の可能性を考えていた、炎によって血が蒸発する可能性だ、洞窟の中で毒が充満したらひとたまりもない、撤退した方がいいだろう、少なくとも今は準備が整っていなかった。
「二人共、ここは一回撤退するよ」
「オッケーだよ、レイナくん」
ひとまず後退を始めます。
なぜ私はこれほど不幸なのだろうかと悩む、想定外なことに入り口から別の虫が入ってくる。
「これはやばいんじゃないかな」
リーチェの言う通りこれは非常にまずいです。
そんなこんなで、現在、前からカマキリ、後ろからムカデ、随分つらい状況になったものです。
右足が痺れる、上手く逃げ切れるものでしょうか。
後方のムカデがとびかかってくる……がその体はすでに無い、肉が焼ける音とはまた違うような音が響く、そして、その体のなくなったムカデの近くには白銀の髪が、リリ・ハイドがいます。
前方のカマキリが鎌振り上げるが、直後目の前のそれは、切り裂かれ動かなくなる、その近くには、金髪で剣を持った長耳の少女が立っている。私の記憶の限り、私は今までその少女に出会ったことはないでしょう。
「大丈夫かい、レイナ君たち」
「もう安心だぜ、私が来たからな」
二人の少女が私達を助けてくれました。
そして、正面に活路があるとするなら、狙いはたった一つです。
翼を使って、無理やりにでも洞窟から脱出する、これに賭けるしかありません。
「リーチェ、リリさんつかまって!」
そうして、二人の手を掴む、一つ疑問があるとするならリリさんはどうやって、移動しているのかということですが、今は関係ありません。とにかく私はマントを翼に変える、ドラゴンさんの翼に比べれば随分不格好ですが、こんなものでも十分飛ぶことはできます
今出せる最高速度で飛び立ちます。
カマキリが鎌を振り上げてきていますが、避けるなんてことはできないので、とにかく加速させていくだけです。
結果としては……
「なんとか全員生存できたかな」
息をきらして、リーチェが言います。
「まだ、そういうわけにはいかないようで」
虫達は体の向きを変えまだこちらを標的にしているようです。金髪の少女も魔法で攻撃しながら後退してきています。
「いや、大丈夫だよ、ここから先は僕一人でできる」
そう言ったリリさんはもうすでに私の横ではなく、虫の群れの中にいます。少なくとも私には、その姿を捉えることができませんでした。
「アルバトーレ」
リリさんが詠唱すると、右手で触った虫が溶けて……いや、溶けるという表現はこの場合間違えでしょう、おそらくですが蒸発しています。
攻撃を紙一重で躱しつつ相手を掴む、いや掴む直前で蒸発しています。
虫の群れの中心まで行っても全方向が見えているように完璧な回避を行います。
あっという間にそこにいた虫は文字通り無くなりました。
「ちょっとリリちゃんなんでそれをはじめから使わなかったのかな」
「僕の能力は太陽が重要でね、十分な日の光がないと使えないんだ」
「おいおい、驚いたぜ、そこの銀髪、あんなに強いなんて」
さっき、助けてくれた金髪の少女です。やはり私が最初に感じたように耳が長いです、おそらくエルフという種族でしょう。
「いやいや、君の助けが無かったら危ないところだったよ、名前はなんというんだい」
「ポーラ・エドワーズだよろしくな」
このエルフ随分と男っぽい喋り方ですね。
そんなことを思いながら私達も軽く自己紹介を済ませます。
「それじゃあ、帰ろうかな」
「リーチェ、帰るのはいいんだけど、どうやって帰るの」
「ドラゴンはどうしたのかな」
「今、寝てるみたい」
「それじゃあ、歩いて帰るかい」
「あんまり使うつもりじゃ無かったけど、これを使うしかないかな」
そう言ってリーチェは無から車を取り出します。
「どこからこんなものを買ってきたの」
「まあまあ、気にしないでいいんじゃないかな、それとポーラさんも乗るかな?」
「そうさせてもらおうか、私も街に向かうつもりだからな」
「安全運転で頼むよリーチェ君」
こうして私達はなんとか窮地を脱したのでした。
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