その十【関係の進歩】
次の日はさすがに登校日だったため、さすがにこの一夜は我が家で過ごした。
かなりの時間は
「いってきます」
「いってらっしゃい」
朝のルーティンを終えた俺は、母さんに見送られながらドアを開ける。
今日もいつもと同じく一人寂しい登校だ……ということはもちろんなく。
「おはよう、しゅーくん!」
家を出ると、初めて会った時から変わらぬ愛称で今日も呼ばれた。
案の定、瑞希だ。昨日と違って制服を身に
「おはよう、瑞希」
家を出る前からその存在にはもちろん気づいてたけど、その姿を見て頬を緩ます。
家の敷地内にある段差から飛び降り、俺は瑞希に近づく。
「じゃあ、いこうか」
「うん……」
俺が手を差し伸べると、瑞希ははにかみながらもその手を取る。
小さくて、柔らかくて、そして温かいその手を、俺は握りしめた。
「ッ……」
──うぅ……
みるみるうちに、瑞希の顔が赤く染まる。
その顔を見ると、なんだか頬が緩む。可愛い、とは別に、何か愛しさを感じるような。
それが何かを考えながらも、俺は登校するために瑞希のその手を引いた。
□
ざわざわ……ざわざわ……
……とても視線を感じる。
学校に近づくにつれ、好奇の視線が
──うぅ……
……まあ、間違いなくそれは隣ではにかむ幼馴染の手元が原因だろう。
まあ、少なからずその顔もその一つだと言えなくもない、とは思うけど。
……ご存知の通り、
そして同時に、恋愛に興味が無い少女としても有名である。
そんな瑞希が、前も話題となったモブ男と今度は手を繋いで登校しているのだ。
そりゃあ誰だって、気になって
そのモブ男とは、もちろん俺の事だ。
この視線はもう数回受けてはいるけれど、やはりひっそりと暮らしていた俺にはキツい。
……まあ、今回からは俺もそれを受けることを前提として登校するのだろう。
瑞希と恋人になったのだから、当然だ。
□
「ちょちょちょ、ちょっとちょっと!」
あのまま、教室までやって来たのだけど。
扉を開けた途端、二人の女子生徒が周りに比べても更に驚いた様子で近づいてきた。
今声を掛けてきた瑞希の友達である
「立花くんさあ!それは一体どういうことなんだい!?」
神崎が俺と瑞希の手元を指さしてくる。いや、その謎のテンションはなんなんだ?
……と。そういえば神崎と若林には、少し協力を頼んでたんだったか。
「……なんか、すまん」
「思ったよりも行動力があったんだねえ立花くんは。こりゃあ拍子抜けだよ」
「……同感です。二週間程前に瑞希さんの様子を見てから、意気込んではいたのですが」
結局なにか行動する前に目標が達成してしまったからとりあえず頭を下げると、神崎は苦笑し若林はため息を吐く。
どう示しをつけたらいいだろうか、と俺は頭を搔いた。
「──え、えっ?何の話?」
──しゅーくんがなにかしたの……?
すると、瑞希がわけがわからないといった感じできょろきょろと俺たちを見渡す。
「……いや、瑞希には関係の無い話だ。できれば触れないで欲しい」
「あっ、う、うん……」
少しずるいかもしれないけど、頭を撫でながら諭すとはにかみながら頷いてくれる瑞希。
実際は関係ないどころか瑞希の事なのだけど、さすがに瑞希に話すわけにはいかない。
「………」
──気持ちいい……でも恥ずかしい……
「……いや、目の前でイチャイチャすな!」
「校内ですので節度を持ってください……」
手触りがよく気持ちよかったため頭を撫で続けていたら、神崎と若林に咎められた。
正直まだまだ足りないところではあるのだけれど、俺は仕方なく手を下ろす。
「はあ……まっ、カップル成立おめでとっ、おふたりさん!」
「……ええ、おめでとうございます」
苦い表情をされつつも、二人とも俺たちの関係の進歩を祝ってくれた。
「ありがとう」
色々と変な方向へと振り回してしまった二人に、俺はその言葉をはいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます