その四【お泊まりの提案】

 あれから昔話や、告白はどちらからしたのかで盛り上がりつつ夕食を食べ終えた。

 告白の事は瑞希みずきが恥ずかしがっていたけど、誇りに思う俺は堂々と言ってのけた。


 今は、瑞希の母親であるしずくさんと少し広いシンクで皿洗いをしている時。


「今日、うちに泊まりますか?」

「……んー」


 雫さんにそう唐突と言われたけど、俺は皿洗いを続けながら悩むように唸る。

 少し驚きはしつつも、付き合い始めたのだから別におかしい話ではないと思った。


 ……ぶっちゃけ、答えは決まっている。


 俺としては、瑞希の意見を聞いてから決めるところなのだけれど……


──しゅーくん、どうするんだろう……


 ……その瑞希がテーブルに座ったまま、何食わぬ顔でこれを聞いているのだ。


 この反応、恐らく瑞希は賛成の方だろう。だけど……少し、悪戯をしようと思う。


「……瑞希によりますかね?」

「! わ、私!?」


──え!え!?


 急に話を振られ、慌て出す瑞希。可愛いと自然に思ったのは、仕方がないだろう。

 それも、用件が用件なために慌て具合も結構なもので、余計に可愛いと思える。


 ……いや、ドSでは無いからな?多分。


「瑞希、どうしますか?」


 そのに雫さんが追い打ちを掛けて、瑞希は「えっと、えっと……!」とテンパリだす。


──私は勿論いいんだけど!いいんだけどね!?は、恥ずかしいよ……


 なんとも微笑ましい事だろうか。自然と口角が上がってしまう。


──というかしゅーくん私の心読めるんだよね!?それなら承諾するんじゃないの!?


 ……言っておくけど、ハッキリと賛成の旨は脳内に響いてきてなかったんだけどな。

 まあ、これ以上は瑞希が可哀想だ。


「瑞希がいいなら、俺は泊まりたいんだけど……瑞希はいいか?」


 本人は頷きさえすればいい。そういうルートを作り、俺は助け舟を出してあげる。

 ……助け舟、か。今ではもう懐かしい響きに感じてくるような。


 さて、俺がそう言うと瑞希はこくこくと勢いよく首を縦に振る。


「わかりました……寝るのはどこにします?」

「瑞希の部屋で」

「わ、私の部屋!?」


──それも即答!?


 ぶっちゃけで言うと、泊まるのなら瑞希の部屋しか個人的に受け付けたくなかった。

 瑞希の意見を聞かずに答えたのは申し訳ないけど、これは譲れないものだ。


 ……だけど、瑞希が本気で嫌がるのなら俺は引かざる負えない。

 俺は「ダメか?」と眉を下げて瑞希に訊くと、瑞希はまたコクコクと頷く。


──そ、そんな子犬みたいな目で訊かれたら断れないよ……!可愛かった……!


 ……子犬?……可愛い?


 少し眉を潜めてしまったけど、とりあえず承諾の旨を頂けて胸を撫で下ろす。

 あ、''旨''と''胸''はダジャレじゃないぞ。


「わかりました」


 雫さんがそう頷いたけれど、なぜだかその声は少し上擦っている気がした。


「……では、瑞希のベッドで二人か、布団を敷いて別々か……どちらがいいですか?」

「「………」」


 からかうような口調で提案されて、俺と瑞希は同時にフリーズをする。


 数秒してから俺たちは両方復活し、俺は顔を熱くさせ、瑞希はまたもや慌て出す。


「え!え!?」


──一緒のベッド……ベッド!?えぇ!?


 ……俺としては、別にどちらでもいいのだけれど。さすがに、羞恥を抱いてしまう。

 皿を洗うのも忘れ、俺はぎこちない動きで瑞希に視線を向ける。


「……どうする?」

「……えっと、しゅーくんは……?」


──どうするんだろう!?どうするんだろう!?どうするんだろう!?


 瑞希の慌てっぷりが凄かった。


 そして、瑞希に権利を託された俺は……静かに、「ベッド……」と呟いた。


「……大丈夫か?」


 俺が弱々しくそう言うと、瑞希はこくりと小さく頷いた。


「ふふっ、わかりましたっ。瑞希は寝相が悪いのでセミダブルですし、大丈夫ですね」


 ……そういえば瑞希は、昔にお泊まり会をした時寝相悪かったな。

 そんな事を考えながら、俺は「そうですか……」と弱々しく頷いた。

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