その三【乾杯】
「恋人成立!おめでとう!!」
<パチパチパチパチ……>
「いや静か!?」
父さんは一人で何をしているんだ……
呆れた顔を父さんに向けながら、俺は他の親三人の拍手を受け取っていた。
あれから一時間と少し。
両家父母がローテーブルに、俺と
「……あのさ。私もそっちに行った方がよくない?居心地悪すぎるんだけど……」
……当然の反応だと思う。なぜ自分だけ主役の隣で座るのだ、と俺だと思ってそうだ。
そんな冬の反応に、父さんは笑い声を返す。
「いいじゃないか千冬。妹、または義妹として上手くやれるよう今から特訓だ」
「今じゃなくても良くない?」
そうギロッ、と睨む冬。父さんがふざけすぎている為、とても擁護できそうにない。
それに……そのつもりではあるけれど、義妹は些か気が早すぎるのではないだろうか。
──冬ちゃんってこういう子だっけ……?
「……そういえば冬。瑞希や要さんたちの前では、猫を被るのを辞めたのか」
「え?猫?」
脳内の瑞希の疑問を解消するよう、俺がそう訊くと冬は睨んだ目のままこちらを向く。
なぜ俺まで睨まれているのかは、全く分からない。
「……まあ、将来的に家族になるんだから、今のうちにね」
父娘揃って些か気が早すぎるのではないだろうか。確かにそのつもりだけどさ。
「へ〜。ギャップすごいね」
──意外〜
「……俺と父さんの前だけだけどな」
「お兄ちゃんの言う通りだよ〜?……だから猫被ってるって言い方やめてくんない?」
瑞希には笑い、俺にはギロッ、と睨む。
それが俺の言ってる事の気がするんだけど……まあ、「はいはい」と頷いておく。
「雑談はさておき、早速食べようじゃないか。
……じゃあ、愁くんと瑞希の恋人成立を祝して、乾杯」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
要さんのその宣言で、それぞれ前のカップ手にを取って近くの人のそれにぶつける。
その後に父さんが少し寂しそうな顔をしていたけど、気にしない方が良さそうだ。
「ついこの間まで愁が瑞希ちゃんの事を全然話さないから、付き合うとは思わなかったわ〜」
「えっ……」
──しゅーくん……?
母さんのその言葉で、瑞希が絶望するような顔になった。俺は呆れた顔で口を開く。
「……瑞希が
……俺だって、本当は話したかったさ」
前までのことを思い出して、最後は少しだけ涙ぐみながらも俺はなんとかそう答える。
すると瑞希、箸を持ったまま俯いた。
──………。
「でも、今では付き合うことが出来たんだ。
今はもうそれをあまり気にしてはいないよ」
「……そっか。ありがとう」
──しゅーくん……
俺が瑞希に微笑みかけて言うと、瑞希が顔を上げて微笑みを返してくれる。
その微笑みは……とても視線を外したく無くなってしまうようなものだった。
濡れて煌めくヘーゼルカラーの瞳も口角の上あがった唇も、美しいと感じてしまう。
……だから数秒間、俺はその微笑みを、瑞希を。じっと見つめてしまっていた。
「……私本当にそっち行った方が良くない?」
「そうだな……千冬の好きにしてくれ」
瑞希と違って冬が淀んだ瞳でそう言うと、父さんも諦めたように頷く。
その会話ではっ、と見つめあっていたことに気づき、俺たちは慌てて顔を離した。
「………」
「………」
──思わずしゅーくんに魅入っちゃってた……恥ずかしい……っ!
「……同感だ」
「……そっか」
俺たちは二人して俯いて、そう呟いた。
恥ずかしくはあったけど……やはり瑞希の微笑みは美しかった。そう、強く思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます