その二【微笑ましい幼馴染】

「……おや?」

「はい?……あっ」


 もう俺たちの家が見えてきた頃。

 駅がある方面の曲がり角の方から、とても聞き覚えのある二人の男性の声がした。


 瑞希みずき側の曲がり角だったので、俺は前に出て。瑞希は顔を曲げてその二人を視認する。

 その二人とは、俺の父さんと瑞希の父親であるかなめさんだった。


 二人は仕事から一緒に帰ってきたようで、立ち位置としては横並び。

 表情としては、要さんがきょとんとした顔で首を傾げ、父さんが目を見開いていた。


「おかえり、父さん」

「あ、ああただいま……どうしたんだ?もう日が暮れてるって言うのに」


 なんだか馬鹿正直に言いたくないため、「ま、まあ……」と言葉を濁しておく。


 父さんは俺のその行動に、胡乱な目で見つめてきた。

 そりゃあそうだと思う。俺は基本的に、日が暮れたら家から一歩も出ないのだから。


「ただいま、瑞希。……遂になのかい?」


 しかし、要さんが口を開いてくれたおかげで助かった。

 瑞希は「お、おかえり」と返す。


「……遂にって、何が?」


 要さんの微笑みながらの質問に、瑞希がどういう意味かわからずに首を傾げている。

 ……ただ。要さんの視線が、思いきり俺たちの手に移っているのが俺にはわかった。


「……要さん。その遂に、です」


 だから俺は、正直に答えることにした。

 俺の返答に要さんは「へえ?」となんだかニヒルに笑い、顎に手を添える。


「あの、要さん。その遂に、とはなんすか?」


 少し崩したような敬語を使い、恐る恐ると言った感じで父さんが聞く。

 すると要さんは、「あれ。」と俺と瑞希の繋がれている手に指さした。


 その先を意味がわかっていなかった父さんと瑞希が視線を辿ると……

 父さんはまたもや「あっ」と間抜けな声を発し、瑞希の方は顔を赤くしてしまった。


──お父さん〜……!!


 そんな声が脳内に響き、同時に瑞希は赤い顔のまま実の父親を睨む。

 その姿は、なんとも可愛くて微笑ましい。


「………ッ!」


 そして父さんはと言うと、急に走り出してしまった。

 その足が行先は立花家……つまり俺たちの家だ。どうしたのだろうか?


光夏みつか〜!お赤飯〜!」

「「………」」


 母さんを呼ぶ父さんの行動に、俺と要さんは呆れたような視線を向けた。


「おじさん!?」


──おおおお赤飯って……!?


 ただ瑞希には効果はあったようで、あわあわと慌てだす。

 先程から色々な反応に慌て出す瑞希だけど、そういう性格が微笑ましくなってきた。


「どういう訳かは察したけど、お赤飯なんてあるわけないでしょ!?」


 察せるのもどうかと思うよ母さん……

 ……まあ、うちは祝い事にお赤飯を炊く習慣が無いため、母さんの反応は当然だ。


 その時。


<ガチャッ>


「お赤飯なら瑞希が気持ちを芽生えさせた時点で買ってありますよ〜」

「準備がいいし地獄耳だなあ……」


 須藤家から突然のしずくさんの登場に、その夫の要さんは苦笑している。

 そして買った理由も中々なものだ。当然、瑞希はまたもや慌てている。


「じゃあ、申し訳ないんですけどこっちも夕飯の準備出来ましたしそちらで食べません?」

「もちろんです。というか、愁くんと瑞希が一緒にいなければ始まりませんよ」


 勝手に話が進んでいく……


 呆れた表情を崩さず、俺はまだ慌てている瑞希に対して口を開いた。


「じゃあご一緒するか?赤飯つきの夕飯」

「え!?……あ、うん。食べよ!」


──しゅーくんと久しぶりの晩御飯だ〜!お赤飯つきなのはちょっと恥ずかしいけど……


「……同感だ。俺もそれは嬉しいけれど、赤飯つきはあまり素直には喜べないな……」

「だよね……」


 俺と瑞希は二人で肩を落とした。


──しゅーくんと息が合うのも嬉しいな♪


「……同感だ」


 俺の事で嬉しさを覚えてくれる瑞希が微笑ましくて、俺は小さくそう呟く。

 そして、俺と瑞希はもう話が決めたらしい両親の元へ歩き出した。

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