アフターストーリー

その一【その帰り道】

──キスしちゃったキスしちゃったキスしちゃったキスしちゃった!?!?


「………」


 まだ温もりが残るであろう唇を触りながら、顔を赤くさせている''幼馴染''。

 ……兼、恋人の須藤瑞希すどうみずきがそんなことを心の中で連呼している。


 俺、立花愁たちばなしゅうは自分が瑞希の唇へ奪ったことに、何ら後悔はある訳が無い。

 ……だけど。さすがにそう連呼されると、こちらまで顔が熱くなってくるというか……


──ファーストキス……奪われちゃった……


「瑞希……」

「──ッ!?」


 その言葉をあの後に心の中で呟かれるとたまらなくて、思わず彼女の名前を呼んだ。

 やはり後悔などは全くないけど、俺だってファーストキスは彼女に捧げたんだ。


 困ったように呼ぶと、彼女はぴくっ、と体を跳ねさせて動揺する。


──名前呼ばれるの……ドキッとする……


 ………?


「しゅーくん……」

「──ッ!?」


 先程は別の意味で呼んだと言うのに、帰ってきたその呼び掛けはたまらなく甘い声だ。

 それを聞いて、俺は悶えで頭を抱える。


 瑞希の言ってる意味は最初はわからなかったけど、名前を呼び合うだけでこうなってしまうとは……俺たちもうぶなものだ。


「………」


 そう少し思った時、ふと気づいた。

 頭を抱えた際、ふらふらと揺れる二つの手が視界に入ってきた。


 そして、俺は瑞希をチラリと見る。

 瑞希はただ顔を赤く染めているだけで、俺たちの空いた手を見てはいなかった。


 ………。


「ふぇ!?」


──手!手〜ッ!?


 黙ったまま儚げな手を包み込むように握ると、瑞希があわあわと慌て始めた。

 ただ、嫌ではないのか俺の手を振りほどこうとはしてこない。


 だから俺は、握る力を強める。


「っ……!!」


──しゅーくん……!


 ……瑞希は心の中で俺の名前を呟き、手を握り返してくれた。


 ………。


 復縁してから手を繋ぐのは2回目だけど、付き合って改めて思ったのは……柔らかい。


 もちもちで、それであって俺の手にフィットして……守りたくなるほどに小さい。

 そして何より……幸せになれる感触だ。


 その感触を感じていると、更に更に顔が……いや、体までもが熱くなってくる。

 それによって、手汗が出てきた。……気持ち悪くないか、不安になってきた。


「あのさ、瑞希……」

「う、うん……?」


──なんだろう……私の手汗が気持ち悪くなってきたのかな……?


 ……うん?


 瑞希の心の中を聞いて、俺は目を見開いて瑞希を見る。

 瑞希は、なぜだか恐怖心を抱くように俺を見ていた。


「……もしかして、俺たちって同じことで悩んでいるのか……?」

「へ?」


 その事についてを脳内には何も響いて来なくて動揺する俺は、そう漏らす。


 ……少し思っていたんだけど、瑞希が無意識に感じていることは脳内に響かないらしい。

 喜怒哀楽や安心感などの感情や……無意識に意識しちゃってること、など。


 今回のはその一つなのだろうか?


──同じ悩み……同じ悩み……


 この謎の能力を考察しながら瑞希の返事を待つと……瑞希は「あっ」と何かに気づいた。


 ……なるほど、少し分かってきたな。

 やっぱり無意識な考えや感情までは、俺の脳内へと響いてこないらしい。


 ……で、え?それを忘れるのは早くないか?


「しゅーくんって、私の心が読めるんだったよね……」


 俺から目を逸らして、瑞希がそう言う。


 まさしく、俺が今懸命に考察していたことについてだった。

 重要な事なのに……やはり、瑞希は母親譲りの天然な性格をしている。


 ……そこも好きになったのだし、寧ろこれを受け入れてくれている証拠だけど……


「……ということはつまり……しゅーくんも、手汗で悩んでいたの……?」


 恐る恐ると言った感じで瑞希がそう聞いてきて、俺は苦笑しながらも頷く。

 そして改めて視線を合わせて……俺たちは笑いあった。


 やっぱり、俺たちもなんだかうぶなものだ。

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