エピローグ
【幸せな日々 果たされる約束】
俺と彼女はあの後、周りから色々な評価を受けながらも、順調に交際をしていった。
何回も繰り返される楽しいデート。幸せが膨らむ日常に、溢れてくる懐かしい昔話。
そんなことをしている日々は、あっという間に二年という高校生期間を終わらした。
高校卒業……つまり、二年が経ったその時にも俺と彼女の仲は影を見せない。
寧ろ、その光を強めるばかりであった。
そんな俺と彼女は、同じ大学に進学したことを機に両親公認で同棲を始めた。
一緒に暮らし始めると、いつもとまた違った日常に違和感や意外な部分を認識する。
それにより、少しばかり喧嘩してしまう事もあったのだけど……それも長続きはせず。
最終的にはお互いにそれを受け入れ、その反動で逆に仲は育む。
そう、大学もまた、順調で幸せな生活を俺たちは過ごしていくのだった。
……今では、彼女のとても優しい性格のおかげだったのかもしれないとも思っている。
大学で新たに知り合った人たちからも、俺と彼女の仲は羨望の眼差しで見られた。
少し気恥しかったりはあったものの、幸せそうに見えているのならばその通りだ。
みんなにそう見られているのは、俺にとっては誇らしいことだった。そんな四年間。
俺と彼女は決して離れることはせず、仲は日に日に育んでいくばかりで……
疎遠になっていた四年という月日も、あっという間に埋めてしまって……
……しかし俺たちは、それから更に一緒にいようとしていた。
そんな充実した四年間を過ごし、大学もあっという間に卒業してしまった。
それから、俺たちは彼女の父親の会社で一緒に働き始めることになった。
最初はまた慣れぬ生活で、二人とも苦労していたけれど……
同じ会社で働いてるためか、協力しあって恋人仲も順調に育んでいく。
俺が次期社長候補で彼女が社長の娘なのもあってか、会社内でも歓迎された。
言い方で誤解されやすそうだけど、上辺だけの関係性ではなかったよ。
やはり幸せだ。やはり楽しい。やはり馴染み深く……飽きないと、俺は感じていた。
それは彼女も同じようで。そんな充実した日々は崩れることも無く、流れていく。
そうしている間にまた、結構な日にちが経過していたのだった。
□
とある祝日。
今日は俺、
今年のそんなめでたい日に、俺たちは高級レストランへと訪れていた。
今の俺たちの年齢は、社会人4年目の25歳。
そう、あれからもう9年……そろそろ収入が安定してきた頃だ。
レストランには、提案者の俺が前もって予約しておいた。
「立花です」と受付に申し出れば、店員に席を案内される。
俺と瑞希はその店員に黙ってついていく。
……星空が綺麗な夜の室内で、薄暗く落ち着いた雰囲気。
そんな雰囲気に溶け込むような、とても清潔感のある装飾。
……実を言うと、俺が高級レストランでディナーをするのは人生初だ。
──すごい……こんな立派なところ、初めて来た……
一応は社長令嬢である瑞希なのだけれど、それは俺と同じだったらしい。
未だに響く脳内でそう認識でき、俺はよく分からない安心感を感じていた。
そんな瑞希だけど、とても高級そうなノースリーブのドレスに身を包んでいた。
レストラン内の微かな光がその鮮紅を煌めかせ、ネイビーブルーが混じる彼女の黒髪とのコントラストが美しく。
高校二年の中盤から何故か急成長して、とてもフェミニンになった体つきも相まって。
……俺の恋人は今日もまた、いつも以上に可愛くなっている……そう、思わされる。
……それが事実なのか、俺の心理なのかはどうでもいい。ただ、瑞希が可愛い。
案内された席に座り、そんな瑞希を顎に手を添えてまじまじと見つめる。
気持ち悪いとは思われるかもしれないけど、これが恋人である俺の特権だ。
瑞希の顔を見て段々と頬を緩ませていると、瑞希は顔をほんのりと赤らめる。
──しゅーくんでも、やっぱりじっーっと見られるのは恥ずかしい……!
未だに変わらぬあだ名。俯いているが、よく見えるそのはにかんだ表情。
……それを聞くと、見ると。想像通り、決意が固まっていくのを心の中で感じる。
だけどそろそろしつこいと思うため、俺は居住まいを正して瑞希にニコリと微笑む。
その状態で瑞希と目が合うと、彼女ははにかみながらも微笑み返してくれる。
やはり可愛い。やはり美しい。
静かなるこの時間でも共にいると感じ、安心感と幸福感に包まれる感覚がある。
……そんな俺たちのテーブルに、ディナーが次々へと運び込まれてる。
すっかり瑞希の父親に似て、酒に弱くなった俺はノンアルコールの。瑞希は、赤ワインのグラスを持った。
「「乾杯」」
「……いつもありがとう、瑞希」
「こちらこそ、しゅーくん」
初めての割には手馴れたような流れ。……俺も瑞希も、雰囲気に合わせているだけだ。
だけどそれはもちろんお互いに分かっており、やはり微笑み……幸せを感じる。
──今年はこれまでで1番のお祝いになりそうで、すごい思い出になりそうだな〜
そう考えながら、瑞希はワインを飲んだ。
ノンアルコールを飲んだ俺は、最近一緒に読んだ本で知ったフォークとナイフの持ち方で、丁寧に出された肉を切る。
そして、一口サイズに切られた肉をゆっくりと口に運んでいく。
口の中に広がるのは、とても柔らかい食感と、ジューシーな風味。
プラスしてそれに合った味付けで……どこまでも、計算し尽くされている。
咀嚼することをついでに、俺はまた瑞希の方に目を向ける。
瑞希は幸せそうに料理を咀嚼しており、ナイフを置いて頬に手を添えている。
──おしひい……
……その姿もまた、とても愛おしい。
更に決意が固まり……いや、最早暴発しそうになっている俺は、肉を飲み込んで「瑞希」と呼んだ。
「<ごくん>……どうしたの?」
「少し大事な話があるんだが、いいか?」
俺が微笑んでそう言うと、逆に瑞希は強ばった顔になった。
──なんだろう……でも、場所が場所だし……もしかして……
そんなことを考えながら、ほんのりと頬を赤く染める瑞希。
……合っているけれど、その前に。
「20年前の約束、瑞希は覚えているか?」
「20年前?」
──20年前って言うと、私としゅーくんがまだ5歳の頃……って事?
「その頃の約束だよ」
彼女の心の声に返答すると、彼女はフォークをおいて「うーん……」と唸り出す。
『やくそくね!』と。無邪気にそう言った瑞希の姿を、朧でもしっかりと思い出す。
この約束は、丁度9年前……俺が瑞希に告白した日にも、思い出したものだ。
「約束……約束……?」
「……思い出せない?」
悪戯っぽく俺が笑うと、瑞希は「ごめん……」と申し訳なさそうに謝った。
まあ、仕方が無いと思う。あんな約束は、本当ならもう無効となっているはずだから。
……だけど。
「大丈夫だ」と俺は苦笑しながら、隠してあった小箱を取り出しテーブルの上に置く。
「え……?」
──これって……
「まだ俺たちが年長になる前の頃。大人になったら結婚しよう、っていう約束」
「………」
俺がそう言うと、瑞希は少し熟考した後に「あぁ!」と急に叫ぶ。
その声で周りが注目してきたけど、瑞希はそれを気にせずに両手を合わせる。
「そんな小さい頃の約束、覚えててくれたんだ……」
目を見開いてそう言う瑞希。顔が赤くなっていないあたり、少し現状の理解の仕方がズレている気がしなくもない。
「ああ。瑞希からすれば、もう無効になっている約束かもしれないけど……俺からすれば、それは違うことなんだ」
そう言って、俺はテーブルに出した小箱を瑞希に向けて開く。
中に入っているのは、ダイヤモンドがあしらわれている……婚約指輪。
そのダイヤは、周りの光を取り込んで美しく煌めいている。
それを俺は瑞希に差し出し、顔を引き締めて力強く口を開いた。
「……瑞希。とても長い間、一緒に過ごしてくれてありがとう。
俺と恋人になってくれて、ありがとう。
……だけど俺は、今以上に進みたい。
そんな瑞希と、これからも一緒にいたい。
そして……20年前に軽い気持ちで結んでしまった重い約束を、果たしたい。
好きだ、瑞希。俺と結婚してくれないか」
遂に、その言葉を口にした。
自分の気持ちの全てを、さらけ出した。
……勿論、後悔は微塵もしていなかった。
9年前にも言ったと思うけど、俺は厚かましい奴だ。瑞希との未来を、更に作りたい。
俺はじっ、と瑞希を見つめる。
瑞希は、今にも泣きそうになっている。
顔は真っ赤で……目尻に涙を溜めている。
何故か脳内に、瑞希の声は響かない。
だけど今は、それでいいと思っている。
瑞希の涙の答えをこれで知ってしまうのは、俺としてはとても嫌だったからだ。
……瑞希は、両手で顔を覆った。
すると、その手の隙間から涙が溢れ出してくる。
次の瞬間、瑞希の方から聞こえたのは……
「はい……」
……涙が混じっているけれど、俺の耳にはしっかりと届いてきていた。
「大事に……してください……」
そういうと瑞希は、顔を抑えていた手を片方……左手を外した。
俺は嬉しい思いでいっぱいになり、小箱から指輪をとって瑞希の横へと回り込む。
そして、差し出された瑞希の左手の薬指に……婚約指輪をはめた。
すると瑞希は、右手で頬に流れ出している涙を拭った。
それから、左手の甲を顔に向けて眺める。
その顔は涙で濡れながらも、目は細くなりり、口角は上がって……今まで見てきた中で、一番幸せそうな笑顔だった。
それは自分によるものだと認識すると、俺の目も細くなり、口角が上がる。
「……ありがとう、しゅーくん……」
「……こちらこそ、瑞希」
──……私、幸せ者だなあ……
「……俺も幸せ者だよ」
「そっか……よかった……」
そう言って瑞希が見せた笑顔は……とても美しいものだった。
その頬に手を添えて、俺は瑞希を見る。
瑞希も俺を見てきて……それから俺たちは、唇を合わせた。
唇で唇を挟む……バードキスだ。
俺は瑞希から離れると、周りから<ぱちぱち>と穏やかな拍手をされた。
少し恥ずかしくなり顔を熱くするも……お互いに目を合わせて、俺たちは微笑む。
「じゃあ、これからの俺たちに……」
「うん、乾杯っ……」
そう言ってグラスの<コツン>と音がしたのを始まりに、俺たちは婚約初のディナーを楽しんだ。
──俺は、何故か疎遠になった幼馴染の心が読める 〜Fin〜──
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