第十七話【久しぶりの幼馴染の家】
〇
男の子と女の子は女の子の家に入るなり、読んだ本の感想を語り合い始めました。
まず感想を語り合いたかった二人は、女の子の部屋ではなくリビングに。そのため、女の子のお母さんもいます。
女の子のお母さんは、感想を楽しそうに語り合う二人を見て微笑んでいました。
『二人は本当に仲がいいんですね〜』
『うん』
『もちろん』
息ぴったりに言う二人に、女の子のお母さんはさらに深い笑みを浮かべます。
『愁くん、これからも女の子をよろしくお願いしますね。この子、晩御飯の時にずっと愁くんの話しかしないくらい、愁の事が好きみたいですし』
『お母さん!その話はしゅーくんにはしないでって前に言ったじゃん!』
『はい?そうでしたっけ?』
キョトンとした顔で首を傾げる女の子のお母さんに、女の子は赤い顔で怒ります。
男の子はそんな女の子に、笑顔でこう言いました。
『俺も、瑞希のことが好きだよ』
●
俺、
何故かと言うと……
〇
──えっと……感想言うのって私の家でいいのかな……
……え?
『感想会?をやるのって私の家でいい?』
無意識にそう決め込んでいたらしく、理解する前にそう訊かれてフリーズしてしまった。
『………』
『……しゅーくん?』
『ん?ああ、ごめん……大丈夫なのか?』
『え?もちろん』
──私が誘ってるんだし……
……JKの家に男を入れるのって大丈夫なのかって意味なのだけど……わかってなさそうだ。
『……
一応、念の為に瑞希の母親でいつも瑞希の家にいる雫さんがいるか訊いてみる。
父親である
──今日は予定ないって言ってたっけ?
『多分いると思うよ』
『そうか……わかった。行くよ』
''多分''なのが不安だけど俺はほっと胸を撫で下ろし、頷いたのだった。
●
「入って!」
扉を開けて促す瑞希に頷いて、俺は控えめに「お邪魔します」と言って、瑞希の家に入った。
すると、リビングの方から足音が聞こえてきた。
「おかえりなさい瑞希〜。デートはどうでしたか〜?」
そんな爆弾発言を言いながら、黒に近いネイビーブルーの髪をポニーテールにしたエプロン姿の女性が出てきた。
「おおおおお母さん!?」
──デートって言わないで!?
そう、この人が雫さんだ。
雫さんは瑞希の異様な反応に「はい?」と首を傾げた後、俺に視線を向けて……目を輝かせた。
「愁くんじゃあないですか!お久しぶりですね!」
「お久しぶりです、雫さん。お邪魔します」
何故か歳下の俺にも敬語だけど、父さんに似て元気な女性だ。……要さんは雫さんで父さんの扱いになれたのだろうか。
……ふむ。それにしても、こう久しぶりに雫さんを見ると瑞希の外見ってしっかり両親を受け継いでいるよな……
年の差はあれど整った顔つきは雫さんに似て、瞳の色は要さんのヘーゼルカラー。
髪色も要さんの黒と雫さんのネイビーブルーが混ざっている。
そして、両親から完全に受け継いだ優しげな雰囲気のあるタレ目。
……今思ったけど、要さんのように眼鏡を掛けてみて、そのタレ目との相性がどうなるのかが少し気になる。眼鏡瑞希……か。
それで、瑞希独自?の特徴としては、まだ成長段階なのか背が両親と違い平均的なところと、同じく成長段階だと思われる体つき。
……と。変なことを考えてしまっていた。
瑞希の成長をこんな近くで見るのはかなり久しぶりなので、許して欲しい。
「立ち話もなんですし、リビングへどうぞ〜」
「ありがとうございます」
そう言って、軽い足取りでリビングに戻る雫さん。
俺は持っていた買い物袋を下ろし、軽くなった腕で靴を揃えてから、瑞希の家を見渡す。
……瑞希の家、か。本当に久しぶりだ。前回入ったのは……やはり四年前。
その間雫さんと会っていないので、結構話題には出るけど実は四年ぶりに会っている。
……それはさておき。家の内装としては、広い範囲を見ている訳では無いけれど、変わった所は特に見つからなかった。
……まあ、精々四年なのだけど。体感ではかなり長く感じてしまっていた。
「ご、ごめんね。お母さんが……」
──でででデート……じ、事実だけど……しゅーくんにそんなつもりは……
同じく靴を揃えた瑞希が、顔を赤くして謝ってきた。
心を読んでいたためこちらも''そんなつもり''だったのだけれど、「大丈夫だ」と言ってそれ以外は何も言わないでおいた。
俺たちはリビングに入り、まずキッチンで慌ただしく動く雫さんを視認する。
「とりあえずソファに座っていただいてもいいですよ。デート帰りでしょうし、ゆっくりくつろいでいってください」
作業を止め、またもや爆弾発言を笑顔で言って促す雫さん。
脳内が騒がしくなり、瑞希を見る。案の定、瑞希は顔を赤くして慌てていた。
「で、デートじゃないよ!?」
──やめてやめてやめてやめて……
「え?ですけど、昨日自分で──」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
──やめて!''昨日自分で言ってた''なんて言わないで!
隣からの突然の叫び声に、思わず耳を抑える。しかし脳内は鮮明に瑞希の声が響き、思わず雫さんをジト目で見る。天然鬼……
「ど、どうしたんですか?急に叫んで……」
「うるさい!お母さんはもう黙ってて!」
──ほんっとに!ほんっとにお母さんは天然なんだから!
瑞希に涙目で怒られて、理由もわからずといった様子でしょんぼりする雫さん。
……とりあえず、その天然を瑞希が遺伝していることは言わないでおいておこう。
もし、心が読めることを明かして言ったとしたら、なんとなく怒られる気がる。
……なんだか、この親子の日常を見てると、とても平和で微笑ましくなってくるな。
たしか昔も、雫さんの天然さに瑞希が怒ってたっけ。本当に懐かしい。
……まあ、さすがに瑞希が可哀想なので本題に戻してあげよう。
「瑞希、感想を言い合うんじゃなかったのか?」
「え?あっ!うん!」
一瞬キョトンとした顔になったけど、すぐに顔を輝かせてソファに急ぐ瑞希。
瑞希はソファに座り、隣を叩いて「しゅーくん早く!」と急かしてきた。
「慌てるなよ。俺はまだ帰らないから」
苦笑しながら、俺はソファへと向かった。
□
「それでね!私主人公がヒロインに一生懸命向き合うシーン!あれも本当にグッときた!」
「ああ、俺もだ。イレギュラーなりにちゃんと考えてるところが良かったよな」
「そうそう!」
熱心に良かったシーンをまくし立てる瑞希に、俺も感想を述べながら聞く。
テンションが高い瑞希を微笑ましく思っていると、急にその様子を見ていた雫さんが口を開いた。
「この間までずっと話してなかったのに、急に仲良くなりましたよね〜」
「はい。そうかもですね」
「うん。楽しいし、良かったと思ってるよ」
──やっぱりしゅーくんは大好きだから!
少しだけ心臓がはねるけど、幼馴染としてなのは分かっている。
「瑞希は最近、晩御飯の時に愁くんの話しかしませんもんね〜」
「え?」
「お母さん!?」
──なんでそれ言っちゃうの!?
本当だったのか……
たしかに、最近は毎夜俺の名前が脳内に響くけど……そんな事になっているとは思わなかった。
「ふふ、どれだけ愁くんの事が好きなんですかね?」
「ちょちょちょちょっと!?お母さん!?」
──やめて!?本当だけどやめて!?
……これを見て、昔を思い出した。
昔も、似たような流れになったのを微かに覚えている。
あの時は嬉しかったけど……今はとても悲しくて、胸が痛い気分だった。
あの時に言った『好き』を思い出す。
……あの頃の俺の[好き]は友達として……''幼馴染として''好きだった。
…。しかし、今は違った。
今の俺は、
自覚してからもずっと苦しかったけど……今の方が、もっと苦しい。
だって瑞希の好きは、さっきから言っている通り''幼馴染''として、俺を好きでいてくれているからだ。
逆に、男としては全く見てくれていない。
それは……本当に虚しいし、苦しい。
……だけど、俺は諦めたくはない。
方法はまだこれしか思いついていないけど、徐々に分からせてあげたい。俺が瑞希に向ける[好き]と…瑞希が知らない、恋愛についてを。
……あまり柄ではないんだけど、これからは瑞希に対して積極的にアプローチをしていきたいと思う。
覚悟してくれよ……瑞希。作戦開始だ。
「嬉しいですね。もしそれが本当の話なら」
早速、俺は爆弾発言を投下したのだった。
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