第十六話【幼馴染とデート(?)④】
俺、
瑞希は、昔の懐かしさと仲のいい友の二人の影響で、いくつも候補が上がったけど最後は映画に辿り着いたらしい。
俺も懐かしさがあるし、特に構わなかったので承諾したのだ。
「観るとしても、何を観るんだ?」
暗い館内のチケット販売機前に来て、瑞希にそう訊いた。脳内に候補はまだ響いていなかったからだ。
瑞希は「んー……」と唇に人差し指を当てながら、もう片方の手で販売機のディスプレイを操作しだした。
脳内に響くいくつものタイトルの略をBGMに答えを待っていると、やがて操作する瑞希の手が止まり、脳内に一つ候補が上がる。
「これがいいな」
タイトルは分かっているけど、自然に振る舞うようにディスプレイを覗き込む。
ジャンルで言うと恋愛アニメ……30年程前に大ヒットした[入れ替わってる!?]な映画の監督の娘さんが監督をしているものだ。
あらすじとしては……
あらゆる人の心を読める主人公だけど、ある孤独な女性だけ心を読むことが出来ないことに気づく。その女性がヒロイン……か。
それで、心を読むことが出来ないヒロインを主人公が興味を持ち話しかけるも、ヒロインは人と関わるのが苦手で避けられ中々上手くいかない……
しかし、ある事がきっかけで徐々に話せるようになる。話していく内にヒロインに対して興味が深まっていく主人公と、心が開いていくヒロイン。
そんな二人が色々な出来事にあいながら、恋に落ちていく物語……か。
……心が読めるってどこかで聞いたことがある気がするけど、あらすじだけでも凝られててとても面白そうだ。
「いいんじゃないか?」
「わかった!」
──恋愛映画か〜楽しみだな〜
そういえば、昔父さんと瑞希の母親
……本当に恋愛に興味が無いのだろうか……?些か疑問である。
──……あれ?
「席が空いてない……」
「ん?」
瑞希が困惑気味にそう言ったので、覗き込むと本当だった。人気なため、予約しないとまともにとれないのだろうか。
……いや、空いてるには空いてるな。あ〜、けど……
「あっでもここ空いてる!」
「……え?」
何も感じていなさそうな声が聞こえ、思わず瑞希を見てしまう。
「……ぷれみあむしーと?」
──何それ……
そう、空いている席は[プレミアムシート]しかなかった。
……もちろん、別名は[カップルシート]だ。瑞希はそれを知らないらしい……
……まあ、俺も知ったのは今日非常にお世話になっている
「しゅーくん、プレミアムシートってなーに?」
「えっ」
ピュアな顔の上目遣いで訊かれて、俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「えーっと、だな……」
□
「──って感じだけど……」
「う、うん……!?」
──かかかかかカップル!?
心の中は悶えながらも、俺は仕方なくプレミアムシートの事について説明した。もちろん、別名も一緒に。
先程の昼飯後もそうだけど、彼氏彼女やカップルだと瑞希は顔を赤くしてしまうらしい。
まあ、もちろん俺もである。
「……どうする?」
「ふぇ!?」
俺が恐る恐る訊くと、瑞希は驚いた顔で返事する。
──ど、どうするって……
「しゅーくんはいいの?」
「ま、まあ……瑞希が行きたいなら……」
別に、瑞希とそういう関係に見られて嫌な訳では無い。先程の昼飯前も顔を熱くしてしまったのだからもちろんだ。
「うぅ〜……」
──嬉しいけど……うぅ〜……
そう考えながら答えると、瑞希は急に悶えだした。嬉しいけど……なんだ?
「………」
──そ、それって……カップルとして……?
「瑞希?」
「ひゃい!?」
「……どうするんだ?」
さすがにそれ以上考えられると俺にも被害がいくため、落ち着いた様子でそう訊いて話を戻す。
「ええええーっと……買ってもいい?」
取り乱しはしたものの、落ち着いて瑞希は上目遣いにそう訊いてくる。
話題を戻したとしても、その顔を見てさすがに顔が熱くなった。
「こほん……まあ、いいぞ」
「うん……ありがとう……」
──………
瑞希は恐る恐るディスプレイをタップし、チケットを購入した。
その時、何故か脳内には何も響かなかった。
□
「………」
「………」
ポップコーンとジュースを購入して、俺たちは劇場に場所を移した。
プレミアムシートは二人が十分に座れる広さだった。肘置きによる仕切りはないけど……
先程からずっと黙っていたけど、ここでも黙々と座る。
──き、きまずいっ……
「た、楽しみだな……」
「うっ、うん……」
前と同じような事が脳内に響いたので、俺は沈黙を破った。
「………」
「………」
──き、きまずいっ……
……諦めよう。状況が前と違ってパニックではないから、特に何も面白くない……
静けさが続き、少しすると劇場内が暗くなった。もう少しで始まるらしい。
それによってこの気まずさから解放される可能性が高いため、俺はほっとしたのだった。
□
「ぐすっ……ひぐっ……」
──二人とも……すれ違わないで……
……先に誤解を解かせてもらうと、まだ映画は終わっていない。寧ろまだ中盤である。
主人公がヒロインを助け出し、話すようにはなった。
しかし、心が読めないというイレギュラーに慣れることが出来ず、ヒロインの地雷の踏んでしまいすれ違いの状態になっている所だ。
……それで、話していた二人の雰囲気が結構良かったためか、すれ違いすることによって寂しさで瑞希が泣いてしまっていた。
……いや、どういう事なのだろうか……?
「うぐっ……ひっぐっ……」
──寂しいよ……うぅ……
「……え?」
太ももの横に置いてた俺の片手……瑞希の方の手が何かに覆われた感触に包まれ、思わずそちらを見る。
見てみると、瑞希の手が俺の手に乗っていた。
「瑞希……?」
「ひぐっ……ぐすっ……」
どうしたのか呼んでみたのだけど、泣いてるばかりで聞こえてないようだった。
……まあ、多分いつか離すだろう……俺はそう軽く思ってスクリーンに視線を戻した。
□
「うぅ……ぐすっ……」
「………」
──よかったよぉ……幸せになって……
あの後、主人公とヒロインは無事に仲直りした。
それから、ビッグイベントが色々ありながらも親交を深め、最終的には主人公が告白。
ヒロインは承諾し、抱き合って終わったのだった。
とても面白かったのだけど……瑞希は先程よりも涙の量を多くしていた。何故か、劇場から出た今も手は握られたままだった。
ふう……。両肩に2袋ずつと片腕だけで2袋ってかなりきついな……耐えられるかな…
「ぐすっ……」
「……瑞希」
「うぐっ……何?」
泣きながらも返事をしてくれたので、俺は本題を切り出した。
「……この後、どうするんだ?」
「……んーと……帰る……」
──感想言いたいし……このまま手を繋いで帰りたいし……
……脳内に響いてこなかったけど、いつの間にか手を握っていたことは自覚済みだったらしい。
少し気恥ずかしかったけど、瑞希の心境を把握したため俺は頷いたのだった。
□
ショッピングモールから出て、俺たちは家路を辿っていた。
「ふぅ……いやぁ、面白かったね!」
──泣いてたところ見られちゃった……恥ずかしい……
「あはは」と誤魔化すように笑う瑞希。別に、感動して泣くのは悪くないと思うんだけど。
「序盤とかの出会いも運命的だったよね〜」
「そうだな……あれはよかった」
泣き止んだ瑞希が無理やり話題を感想に持ち込んできたので、苦笑しながらそれに乗る。
ちなみに、行く時と違い手は握っていた。
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