第十四話【幼馴染とデート(?)②】

 〇



『おはようございます!いや〜楽しみっすね〜この恋愛映画!昨日は眠れませんでしたよ!』

『同感です!紹介ムービー見るだけで興奮しまたよね!』

『はいはい!』


 男の子のお父さんと女の子のお母さんは、今日観に行く映画について、かなりテンションを上げて話していました。

 その様子に、男の子のお母さんと女の子のお父さんは「やれやれ」と言った様子で苦笑していました。


 小学二年生になる前の男の子と女の子はというと……


『しゅーくんとお出かけって、はじめてだよね?』

『うん。家だといっぱい遊んでるけどね』

『はじめて、かあ……楽しみだね』

『そうだね』


 そんな話をしながら、男の子と女の子は手を繋ぎます。そして、お母さんたちを置いてショッピングセンターへ走っていきました。



 ●



 俺、立花愁たちばなしゅう須藤瑞希すどうみずきはショッピングセンターに入った。

 このショッピングセンターは、駅前にあり、家や人体、違法物以外は大体売っている便利な場所だ。


 俺たちが通う学校からも中々近く、一部陽キャラグループのたまり場にもなっているらしい。

 尤も、俺は友達が三人しかいないからよくは分からないのだけども。


「初めて……だよね?私としゅーくんが二人だけでここに来るのって」


 隣に立つ瑞希が、ショッピングセンターを見渡しながら呟いた。


「……そうだな。家族ぐるみでは昔、結構な回数行っていたけどな」


 父さんとしずくさんが結構な映画好きで、母さんとかなめさんだけでなく、俺たちまで巻き込まれる羽目になったのを思い出す。

 その頃はその頃で、楽しかったけどね。


「懐かしいな〜」

「ああ。……それはそうと、今日は何を買いに来たんだ?」


 瑞希が懐かしんでいるのを後目に、俺は本題を切り出す。

 買うものに対して脳内に何も響かなかったので、聞いておきたかったのだ。何も考えてなかった可能性も充分にあるけど。


「え?もちろん服だよ?」


 ……当たり前のことなので考えすらしなかったらしい。ふむ…服、か。

 色々な瑞希の姿を見れて、中々良いのかもしれないな。


 多少買う量が多くなっても、今日の俺は財布だけ持ってほぼ手ぶら状態。荷物持ちとしては、かなり仕事ができるだろう。


「わかった。じゃあ行くか」

「うん。ついてきて!」


──おっかいもの〜♪しゅ〜〜くんっとおっかいもの〜♪


 ルンルン気分で先頭に立つ瑞希に苦笑しながら、俺は着いていった。


 手は、もちろん繋いではいない。



 □



「まずはここ!!」


 最初に来たのは二階の服屋。『まず』という事は、他にもいくつか店を回るのだろう。

 見渡す限りレディースのものばかり扱っている店なので、俺がここに居ていいのか少し分からなくなってくる。


──……これがいいかな……いや、んー……


 そんなことを考えているうちに、瑞希は店に並ぶハンガーを睨んでいた。

 それはもちろん悩むための睨みで、腰を曲げている。具体的には説明できないけど、なんだか可愛い。


 そんな瑞希を眺めながら待っていると、直に瑞希が二着ほど抜いてトコトコと近づいてきた。


「これとこれ、どっちがいいかな?」


──できればしゅーくん好みの服を知りたい!


 理由はよく分からないけど用件は理解。俺は瑞希の手にぶら下がる二着の服を見る。

 その二着は、色が違うブラウスだった。俺から見て右がピンク、左がライトブルーだ。


 ピンクは瑞希の髪色とはあまりマッチしないかもしれないが、それが逆に瑞希の可愛さをかなり際立たせる品だ。

 ライトブルーは瑞希の髪色ともマッチするし、瑞希の清楚さを底上げする品だ。


 正直どちらも似合うとは思うのだけど、俺はここで藤村海優ふじむらみゆうの言葉を思い出した。


『優柔不断な男はNG!「どっちがいい?」と聞かれたら絶対に片方を選ぶこと!』


 ……海優の教え、範囲が無駄に広くて苦笑してしまう。


 で、片方か……今思い出したんだけど、昨日の服装の瑞希も今日の服装の瑞希も、フェミニンさを感じていた。

 それなら、可愛さを際立たせる方のピンクを見てみたいかもしれない。


「どちらも似合うとは思うけど……個人的にはピンクかな」

「ピンクね!ありがとう!」


──しゅーくんはピンクが好きなのか〜……


 どっちも瑞希には似合うと思うんだけどな……まあ、機嫌が良さそうだし黙っておこう。


 瑞希がライトブルーのブラウスを元の位置に戻した時、俺は瑞希に手を差し出す。


「持っとくよ。もっと選ぶのだろう?」

「! ありがとう!」


──やっぱり優しいなあ……


 当然のことでは?……まあいいか。


 それから瑞希は、遠慮もなく俺にどちらがいいかを聞いてきた。


 瑞希が楽しそうだったのでよかったのだけど、究極の選択の連続な上に腕が段々と痛くなってくるのだ。

 運動神経が悪い俺だと、これは結構キツいものがあった。


 しかし俺は瑞希の笑顔のために我慢し、瑞希の服装選びを手伝ったのだった。



 □



──もういいかな?


 しばらく究極の選択を続き、瑞希が先程選択しなかった一着を元の位置に戻すと、脳内にそんな声が響いた。


「試着してもいい?」


 瑞希が俺の元に戻ってきてそう訊いてきた。

 試着……まあ、着てみないと買ったあとに後悔するかもしれないのか。


「いいぞ」

「ありがとう!」


 「こっちだよ」と瑞希は俺を促す。腕にぶら下がった10着の服を持ち直し、俺は足を動かした。


 ……少し歩くのかと思ったけど、たいして歩くこともなくすぐに[試着室]と書かれたボックスに辿り着いた。その前にはいくつか椅子が設置されている。


「服貸して」


 手を差し出されたので3着ほど渡す。さすがにハンガーの数にも限りがあるだろう。


 「ありがとう」と笑って、瑞希はボックスへと入っていった。俺は設置されていた椅子に腰掛け、腿に持っていた服を乗せる。

 その瞬間、腕の開放感がすごくなった。服でこれとは……自分がどれだけ運動していないのかが伺える。


 ……少し、運動した方がいいのかな。


 深呼吸していると、瑞希の鼻歌が聞こえてきた。着替える時はいつもこうしているのだろうか?と一瞬煩悩が混じる。

 頭を振ると、そちらに意識が向いてたからかもう一つの音が聞こえてきた。


<シュルッ……パサッ……>


 ……これがなんの音なのかはさすがに分かる。……瑞希が着替える時の衣擦れの音だ。

 ……大丈夫だ。深呼吸をして、意識をボックス側から逸らす。そうすれば……


<スリッ……シュルッ……>


 思い切り聞こえてきたので俺は頭を抱えた。……単純計算をすると、着て脱いでを繰り返すため最低20回は聞くことになる。

 ……地獄はまだ続いていたらしい。


 そんなことを考えると、カーテンが開いた音がする。


 そちらに視線を向けると、瑞希が頬を僅かに赤く染めて立っていた。

 服装は、トップスが最後に選んだ白のオーバーサイズシャツに変わっている。


 紺色のパネルスカートに入れてはいないオーバーサイズシャツは、カットソーと同じでゆったりとした印象が強い。

 ただ、そのゆったりとした強さはカットソーより上だ。その分、フェミニンさは欠けた気がするけど。


「どう、かな?」

「おう。似合っていると思う」


 もちろんこの感想を抱き、俺は顎に手を当てて頷く。瑞希が美人だからだろうか?今思ったのだけど、なんでも似合うな…

 そういう瑞希はというと、昨日や先程服装を染める時と同じく頬を赤く染めて、静かに「ありがとう……」と言った。


──嬉しい……


 この後、瑞希が選んだ全ての服装を試着して俺が褒めると、瑞希もその度に頬を赤くする感情を浮かべて喜んでくれた。

 その時に、服屋に行く前の予想……瑞希の服装が色々見れてよかったのは、言うまでもないことだった。

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