第十三話【幼馴染とデート(?)①】

「冬、少しお願いがあるんだ」


 その後の夜。俺、立花愁たちばなしゅうは夕食後、妹の千冬ちふゆにそう切り出した。

 千冬は部活で流した汗をシャワーで流したばかりだ。タンクトップとショートパンツを着て、肩にタオルをかけている。


「……何?お願いって。珍しいね」


 冬が、俺と父さん限定の冷めた態度になってそう返す。

 恐らく、思春期なのだから少しウザがられているのだろう。嫌われてはいないと思うし、特段気にせずに口を開く。


「明日、瑞希にデート?を誘われてな……」

「……それ、本当の話?お兄ちゃんの気持ち悪い妄想じゃない?」


 真面目な顔で冬はそう言うけど、これまで俺は冬に変態的な言動を見せたことがないはずだ。

 俺も真面目な顔になって冬と目を合わせると、冬は気まずそうに「ごめん……」と謝ってきた。


「で、『デートには服装に気を遣う!』ってうるさい友達を思い出してな」

「……お兄ちゃんって友達いたんだ」

「さすがに作らないと不味いだろう……」


 尤も、その友達というのは園拓也そのたくや藤村海優ふじむらみゆうだけなのだけど。

 ……よくよく考えると、海優に至っては別のクラスだし、実質拓也一人かもしれない。


「……ふーん。それで?」

「ああ。知っていると思うけど、俺はオシャレには疎いだろう?」

「疎いね」


 自分で言っておいてなんだけど、さすがにそうなんの躊躇もなく言われると傷つく。

 変に指摘して嫌われるのも嫌なので、黙ってはおくけど……


「……今俺が持っている服の中で、冬に取り繕って欲しいんだ」


 俺のお願いに、冬が顎に手を添えて考える。直ぐに顔を上げて、冷めた雰囲気のままこう言った。


「''瑞ちゃんのため''にも、わかったよ。……お兄ちゃん持ってる服は無駄に悪くないしね」


 無駄にとはなんだ。……まあ、母さんが服に興味が無い俺に選んだのだから、意地張って言えるわけもないのだけど。


 そう思いながら、瑞希思いの冬に微笑んで「ありがとう」とお礼を言った。



 □



 次の日。つまり、デート?の日だ。


 『男性が遅れるのはNG!』と海優にうるさく言われていたため、集合時間30分前に早くに家を出るつもりだった。のだけど……


 まさかの集合時間1時間前に、家を出ようとしてるような声が脳内に響いた。

 かなり急いで用意を済ませ、集合時間50分前に家を出て、今は駅前の噴水に来ている。


 大体の瑞希の位置は分かるためそちらに向かうと、見つけた。瑞希はキョロキョロと周りを見渡して、俺を待っていた。

 普通の男なら、もっと遅くに来るはずだろうに……心が読めてよかったと、少し思った。


 近づこうとすると、瑞希に近づくイケメン2人組に気がついた。

 ……雰囲気と顔立ち的に大学生だろうか?視線は完全に瑞希に向いている。


 やはり学校でも大人気な瑞希のことだ。ナンパされる可能性は充分にあったのに…遅くなってしまったことに後悔した。

 運動神経が絶望的な俺では、男より先に瑞希を近づくが出来ず。男のうちの一人が、瑞希に話しかけた。


──え、何?この人たち誰?怖いよ……


 瑞希が困惑した顔で手と首を横に振っていた。しかし、男は諦めが悪いようで、アプローチを続けている。

 俺がやっと追いついて、男の前に出る。


「こいつ、俺の連れなので。お引き取り頂けないでしょうか」


──あっ!しゅーくん……!


 出来るだけ温和な口調で断ったけど、男たちは訝しげるような目で俺を見て…鼻で笑った。


「お前がこの子の?が調子乗んなよ」


 身長にも体格も恵まれないふつめん?で悪かったな。ところで、ふつめんってなんだ?


──……今、しゅーくんのこと侮辱したの?


 俺がジト目で男を見ていると、脳内にかなり低い声でそう響き、あまりの低さに俺の体が跳ねた。

 恐る恐る後ろを向くと…瑞希がかなり恐ろしい顔をして男たちを睨んでいた。


「ねえお嬢ちゃん。こんな''フッツメン''の''ダサ男''より俺たちの方が絶対楽しいって!なあ?」

「おう。いい店知ってるぜ?全部奢るよ」


──誰がフツメンなの?誰がダサ男なの!?


 ……マジか。男たち、瑞希のこの顔が分からないのか。

 俺は男たちに両手を合わせると、男たちは訝しげな目で俺を見た。いや、瑞希を見ろよ、瑞希を。


「………」

「お嬢ちゃん、もしかして悩んでる?悩む必要ないって!な?」

「ああ。この''なんの取り柄もないモブ''を気遣う必要は無い」


 ははは、随分と酷い言われようだな。

 俺は後ろをあまり気にしないようにしながら、心の中で笑った。


──なんの取り柄もない……!?モブ……!?


「……それ以上侮辱しないで」

「「ん?」」

「しゅーくんの事を何も知らない癖に、それ以上私が大好きなしゅーくんを侮辱しないで!」


 ……相当恥ずかしいことを叫んでいるけれど、これって瑞希からしたら幼馴染としての大好きだから、俺としては反応に困る。

 異性としての好きだったら、男の部屋で2人きりっていう状況だったのに、反応が無さすぎる……


「……おい、これは落とせそうになくねえか?」

「そうだな……悪いな嬢ちゃん。俺たちが悪かったよ」

「ふんっ!」


 さすがに相当キレていると分かったのか、男たちはそそくさと退散していった。

 気づけば周りにかなり注目されていたが、気にする様子を見せずに瑞希に向き直る。


「……ごめん。もっと早く来た方が良かったな」

「え?あっ、んーん!むしろ私が早すぎたって言うか……」


──楽しみすぎて、すごい早く家を出ちゃったなんて言えない……


 最初から理由はわかっている。ちなみに、今日はサプライズがあるのも知っている。

 ……それが分かってしまうのは、逆に不便かもしれないな。


 それはさておき、今思い出したけど『デートはまず女の子の服装を褒める!』って海優がうるさかったな……

 ……全部まるまる思い出せるほど叩き込んでるって、海優は何者なのだろうか……


 という訳なので、瑞希の服装を見る。


 今日の瑞希は、ベージュのクルーネックカットソー。それを緩く紺色のパネルスカートに入れた服装で、可愛らしい水色のショルダーバッグを肩から斜めにかけている。

 髪は1つに括られており、ゆらゆらと揺れている様子が細い首から覗いている。

 

 ゆったりとした雰囲気、落ち着く色合い…清楚ではあるが、なんとなくフェミニンさを感じる。靴はローファーを履いて、年相応のあどけなさも残されていた。

 感想としてはもちろん……


「似合ってるな。その服装」

「え?」


 唐突に服装を褒められたからか、キョトンとした顔になる瑞希。直に頬が赤く染っていき、あわあわと取り乱し始めた。


「あり、ありがとう!」


──う、うれしいっ……


 ……かなり喜んでいる様子だ。さすが恋愛脳の海優、すごいな。


「しゅーくんの服装も!に、似合ってるよ!」


──かっこいいっ……!


 言葉と同時に脳内が響き少し驚く。直に意味を理解し、改めて自分の服装を確認する。


 冬に頼んで取り繕ってもらった俺の服装は、クリーム色のラフケージTシャツに紺色のカーディガン。そして黒のスキニーだ。

 『靴も変えて』と無茶を言われた時はどうしようと思ったけど、母さんが黒のキャンパスシューズを買っててびっくりしたものだ…


 似合ってるかどうかは自分では分からなかったのだけど、瑞希が気に入ってくれて胸を撫で下ろす。


「ありがとう」


 褒めてくれた瑞希に微笑んで、そう礼をする。ほとんど冬と母さんのおかげだけどね……

 苦笑も混じらせていると、脳内に何も響いてこなくなったことに気がついた。


 瑞希を見る。瑞希は俺を見て、ぼーっとしていた。


「瑞希?」

「あっ、うん!どういたしまして!」


 ──笑顔……かっこよかった……


 以前もこんなことがあった気がする。そんなに笑顔がいいのなら、頻繁にやった方がいいかもしれない。


「いこうか」

「うんっ」


 そんなことを考えながら、俺はショッピングセンターに瑞希と足を運んだ。

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