第五話【一緒にお昼ご飯】
周りから好奇の目で見られている俺、
……周りが言いたいことは分かる。
隣には、熱風が飛んでくるほどのバカップル、
そして何より、ニコニコと笑っている人気者、
良くも悪くも有名な三人に、バカップル以外友達のいなかったボッチ……「なんでお前が?」と言いたそうにするのも分かる。
だって仕方ないじゃないか。瑞希が『お昼一緒にどうですか?』と直々に誘ってきたのだから。
「愁って弁当なのか。一緒に食ったこと無かったから初めて知ったぞ」
そう言って、拓也がパンを齧りながら物珍しそうな目で俺の弁当を覗き込んできた。
拓也は俺と仲良くなる前から海優と付き合っているため、学校で話はするが昼食や学外などの交流は全くなかったりしている。
「まあな」
「でも、愁の事だから母親に作ってもらったんじゃないの〜?」
俺と同じく弁当の海優が
「しゅーくんの手作りじゃないの?」
「……え、愁が料理できるの全く想像できないんだけど」
海優はどこを見てそんな結論に至っているんだ。失礼にも程がないだろうか?
まあ確かに、いつも気だるげな態度で学校はすごしているけど……
「しゅーくん料理できるよ?すっごく上手」
「ほんとに?意外すぎる」
「昨日だってご馳走になったよ?」
……瑞希の言葉で嫌な予感がして顔を上げると、案の定拓也と海優が面倒くさそうな笑顔を浮かべている。
「「愁、
「本当に息ぴったりだな君たち」
「まあまあ。で、ご馳走になったってどういう事だ?須藤さん」
さっきから思ってたんだけど、このバカップル瑞希と仲良くなるの早すぎじゃないだろうか。二人揃って無遠慮に話しかけている。
まあ、瑞希も中学生からは人当たりの良い女子になっているし別に大丈夫か。
「昨日家の鍵忘れちゃって、それでしゅーくんの家で和食を頂いたの」
「その後は?どこまで進んだ?」
「……何もあるわけないだろう。普通に飯作って帰したさ」
「このヘタレめ」
いや、勝手に恋バナの標的にされるこっちが困るんだけど。
そもそも何故カップリングにされているか分からないし、復縁する前から変なことをやっていたら大問題じゃないのか?
──何の話なんだろう……
……脳内には響く声の限りだと、恋愛に興味が無いからか瑞希はなんの事かわかってない様子なのが救いだった。
わかっていたら色々気まずすぎるからな。
「まあともかく、意外だよな。愁が料理できるとは」
「別に。家族全員忙しかったから、俺が家事全般を担っているうちに上達しただけだ」
「……オカン?」
そのツッコミは意味がわからない。一番暇な俺が家事をやっているだけなのに。
──……しゅーくん、いいお嫁さんになれそうだね
……たしかに、瑞希は手が不器用で昔の調理実習の時も、よく怪我をしていた。
ということは家事も苦手で、家事が出来る嫁に憧れるのだろう。
しかし、それを男である俺に向けられるのは些か謎ではあったりするのだが。
「ちょっと食べさせてよ〜」
海優がそう言うと口を開けた。特に量が足りない訳でもないので、楊枝で卵焼きを刺してその口の中に入れる。
「……美味すぎない?」
「そうか?」
「味付けがなんとも絶妙……」
まあ、美味しいのなら自信がつくものだ。
──いいなあ……私も食べたいなあ……
「……瑞希も食うか?」
「……え?私はいいよ!」
心を読んで別の楊枝で卵焼きを刺し、おにぎりを頬張っている瑞希に差し出すが、瑞希は両手を振って遠慮していた。
──食べたいけど……さすがにちょっと悪いからなあ……
「遠慮せずに」
「いやい──むぐっ!?」
本心では食べたがっているので、口が開いているうちに無理矢理卵焼きを入れる。
そもそも、海優が食べているのだから遠慮する必要はなかった。
瑞希は若干涙目になりながら、口に入れられた卵焼きを咀嚼する。
「<ごくんっ>……おいしい!?なにこれ!?」
──これまで食べてきた中で一番美味しい!
流石に過大評価が過ぎるが、まあ気に入っていただけたのなら何よりだ。
ほっぺが蕩けそうな表情をしている瑞希に、思わず頬が緩む。
「俺にもくれよ愁」
「君は彼女のでも貰っとけ」
「ケチだな〜。ま、そうするわ」
素直に頷くんだ……。まあいいか、俺は再び箸をつつく。
拓也は宣言通り海優におかずを貰ったようで、幸せそうな表情をしている……そんなに美味いのか。
「それにしてもさ」
「ん?」
「須藤さんと愁が幼馴染なの、本当に意外よね」
唐突な話題転換ではあるけど、まあ美海優の言う通りだろう。
人気者とボッチが幼馴染というのが意外、驚きだというのはここに居る生徒だけでも証明されている。
「そうかな?」
「そうよ。だってあの須藤さんとこの愁よ?釣り合わなすぎじゃない?」
「酷い言われようだな」
苦笑しつつも同意する俺。……しかし、瑞希はそうではないようで。
「しゅーくんのこと、そんな悪く言わないでよ」
「……え?」
「しゅーくんとは疎遠になっちゃってたけど、いい所い〜っぱいあるよ!」
ふんすっ、と何故か乏しい胸を張っている瑞希に海優と俺は圧倒されていた。
拓也は何故かニヤニヤしていたけど。
「……昔の愁ってどんな感じだったの?」
「うん!しゅーくんは人見知りだった私をいつも守ってくれたり、人助けを頻繁にしていたり───」
それから瑞希は止まらなかった。昔の俺の印象をずっと言い続けたのだ……それも、全て良い方向のことを。
俺は顔が熱くなっているのを自覚しながら、黙々と昼飯を口に入れ続けた。
「──誕生日とクリスマスは毎年プレゼントしてくれたり──」
「わかったわかった!多いね!?」
「私が知っている限りだと、しゅーくんいい所しか思いつかないなあ……」
やめてくれ。すごく恥ずかしい。
拓也はずっと俺の事をニヤニヤと眺め続けていたし、聞こえているのか周りの生徒から更に好奇の目で見られていたりと、居心地がすごく悪い。
「はぁ〜……愛されているねえ愁……」
「ははっ。よかったな、愁」
「うるさい……」
これまで以上にこのバカップルの恋バナに晒される予感がして、俺は頭を抱えた。
……脳内にも響いてきたからわかるけど、これ全部本心だし天然でやっているのだからなんとも言えない。
俺が食べ終わったタイミングでやっと予鈴が鳴り、俺はこの昼休みが色んな意味でとても長い時間に感じていたのだった。
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