第四話【人気者の幼馴染】
とても視線を感じる。
暖かい空気の中登校する俺、
学校に近づくにつれ、大量な好奇の視線が後を絶たないのだ。
恐らく、いや間違いなく。この視線は隣でニコニコと笑っている幼馴染が原因だろう。
そして
そんな瑞希が、急に謎のモブ男と一緒に登校しているのだ。そりゃあ誰だって気になるのも頷ける話だと思う。
……そのモブ男とは、もちろん俺の事だ。
ひっそりと暮らしていた俺に、この視線は結構キツい。
全く、人気者の幼馴染を持つと大変だな。
…………だけど。
──しゅーくんと登校♪一緒に登校♪嬉しいな♪
何故か俺と一緒に登校する事を喜んでいる瑞希を見て、誰が拒絶できるだろうか。
できるわけがない。だから俺は、この視線を我慢して瑞希の隣で歩いている。
……まさか、教室に入るまで一緒とは思わなかったんだけどね。
□
さすがに自分の席で授業の用意をする為、席が少し離れている瑞希と別れた。
瑞希と一緒に登校したので、教室はとても騒がしい。それに、視線が痛い。
少し眉を寄せながら席に着くと、前の席に座っていた生徒が振り向いた。
「おはよう愁。
「全て置いといてまずそれか……」
どれだけ瑞希のことが気になるのだろうか。……まあ、気持ちはわかるけど。
目の前の男は
「そりゃそうだろ〜?だってあの恋愛無関心な須藤さんだぜ?それが男と……なあ?」
「はあ……他の女の話をしていると、愛しの彼女が拗ねてしまうぞ?」
「素直じゃね〜な〜」
うるさいな、あまり話したくないんだ。
絶対に面倒くさくなるし、それに……瑞希に迷惑かもしれないから。
──……幼馴染って事、言っていいのかな?
そう思いながら拓也を睨んでいると、脳内にそんな声が響いた。
その声の主の方がを向くと、瑞希と目が合った。………何やらニヤニヤしている女子生徒に、質問をされているらしい。
その女子生徒の質問に、どう返答するか悩んで俺のことを伺っているようだ。
俺としては、瑞希の方が迷惑にならないか心配になっていたので、言ってくれるのは別に構わなかった。
なので、俺は指でOKサインを作る。視線を瑞希に質問している女子に向けながら。
すると、瑞希は合図をしっかり理解したようで目が輝いていた。……そんなに嬉しいものなのだろうか?
──言っていいんだ!やった!
何やら本当に嬉しいらしい。理由は分からないけど。
瑞希は笑顔のまま、女子生徒に答えた。恐らく「幼馴染」と言ったのだろう。
それを聞いた女子は驚いた顔で、前かがみになり瑞希との話を繰り広げていた。
「おい愁。須藤さんの方を見てないで、どういう関係なのか言ってくれよ」
そういえば拓也が居るのを忘れていた。……あと、瑞希の方を見てないで……って言い方、少し引っかかるな。
……まあ、別にどうでもいい事か。
「……幼馴染だよ」
「マジか!?意外な組み合わせだな。小学生からか?」
「いや、幼稚園からだな」
「すげえ前だな!?腐れ縁レベルじゃねえか」
……?まあ確かに、時期的にはかなり早かったかもしれない。
だけど、中学の頃から疎遠なため、腐れ縁と言われても首を傾げてしまう。
「でも、そんな話聞いたこと無かったぞ?」
「そりゃあ、中学の頃から疎遠だったからな」
中学から仲良くなった拓也が知っていたら逆に驚いている。
そう思いながら答えると、「ドンマイ」と何故か肩に手を置かれた。
「先程復縁したからもう落ち込んではいない」
「おぉ〜!それはめでたい話だな。どうやってなんだ?」
それを訊かれると少し考えてしまう。
実際は瑞希が急に復縁したいと思っていたので、助け船としてその空気を作り会話した。そして今日の朝に復縁……って感じだ。
しかし、それを説明するのはかなり難しい。瑞希の心が読めることは親にも言ったことは無いし、説明すると誤解されそうだし。
……なら、馬鹿正直に説明する必要も無いだろう。
「偶然話をする空気になって、それから登下校をして復縁しただけだ。運が良かったよ」
''偶然''以外はあながち間違いではない。幸い瑞希は復縁した理由までは訊かれてないようだし、これで誤魔化せそうだ。
「なるほどな。ふ〜む……ありだな」
「何がだ?」
「なんでもない。ま、後は頑張れよ」
恐らく降り注ぐ鋭い視線に対して応援してくれたのだろう。男子から注がれるその視線は、俺は耐えることが出来るのだろうか。
──なんだか、本当にしゅーくんと復縁出来たんだ〜って実感するよ〜……
瑞希はというと、女子生徒達に根掘り葉掘り訊かれている様子だ。
余韻に浸ってくれているのは嬉しいしどこか気恥しいが、余計なことまでは言わないで欲しいと強く願った。
□
''立花と須藤が[幼馴染]''だという噂は、昼休みの時点で既に学校中に広がっていた。
瑞希の影響力に心底驚きつつ、俺はリュックから弁当を取り出した。
俺の昼飯は基本的にぼっち飯だ。拓也は彼女とイチャイチャしながら食べるし、
あの二人しか俺には友達が居ないため、この時は本格的に一人になる。
しかし、今日は違った。
──しゅーくんをお昼に誘うぞ!
瑞希は何やら気合十分な様子で、他のクラスメイトからの誘いを全て断っている。
陽キャラ男子達がこちらを恐い目で見てくるが、勘弁して欲しいものだ。
そんなことを思いながら、弁当箱を机に置いて鎮座する。直に瑞希がやって来て、赤い顔をしながらこう言ってくる。
「しゅーくん、一緒にお昼をどうですか?」
瑞希直々のお誘いに、クラス中がザワついた。''幼馴染''だという噂……事実は、もう学校中に知れ渡っているはずなのにな。
断る理由は無いので頷くと、瑞希は顔を輝かせた。その笑顔を見た男子は一部が失神し、一部が怨念の声を上げる。
「羨ましい」と聞こえてくるが、生憎と俺はそんな雑音に気を使うほど繊細ではない。
しかし、ここで食べても居心地が悪そうなので、俺は立ち上がって口を開いた。
「どこで食べようか?」
「あっ、うん。えーっとね〜……」
俺がここで食べたくないのを察してか、瑞希が唇に人差し指を当て考えだした。
その仕草でさえ後ろの男子たちが撃沈していくけど、気をつけた方がいいんじゃないか?
「屋上とか、どう?」
上目遣いになって瑞希はそう訊いてきた。
なんとか平静を保ててはいるが、顔が熱くなるのがわかる。そして、同時に後ろがうるさいからやめて頂きたい。
「いいな。じゃあ行こうか」
「うんっ」
俺たちの学校では屋上が解放されている為、昼食などに使える。
告白などにも使われるが、如何せん誰かがいる可能性があるため校舎裏よりは少ない。
教室を出て、瑞希と並んで廊下を歩くけど、やはり好奇の視線が凄いことになっている。
……やっぱり、人気者の幼馴染を持っていると大変だな。
「〜〜♪〜〜♪」
──しゅーくんとお昼〜♪しゅーくんとお昼〜♪
しかし、鼻歌を歌いながら登校時と同じようなことを考えている瑞希を見ると、嫌な気分にはならなかった。
□
屋上に出ると、春の心地よい風が頬に触れる。昼寝とかに丁度良さそうだ。
しかし、やはり好奇の視線は浴びるもので……屋上で昼食を取っている他の生徒がザワつき始めた。
「……瑞希、本当に有名人なんだな」
「え?そうかな?」
自覚していなかったのか……''異性の幼馴染''がいるってだけでこれなのにな。
まあ、気にしても仕方がないか。俺は屋上を見渡して、最適な場所を探す。
「よおよおそこの少年少女〜。こっち空いてるぜ〜?」
どうやら探さなくていいらしいけど、発音がウザイしスルーを決め込もうか……?
……でも、一通り見渡しても彼の所しか空いてなさそうなんだけど。
諦めて振り向くと、拓也と海優が二人でイチャイチャしながらこちらを見てニヤニヤと笑顔を浮かべていた。
それを見て俺は踵を返そうと歩を進める。
「ちょ、しゅーくん!?」
「屋上は空いていないらしい。空き教室でも探そう」
幸い時間はまだある。瑞希は昔から少食気味ではあったので昼食の量もさほどだろう。
「ノリ悪いな〜愁。せっかく開けてやってんだぜ?」
「そうだよ〜。一緒に食べよ?」
「だったらその笑みをやめろ」
「「え〜」」とニヤニヤを崩すつもりがないバカップルを見て、俺は頭を抱える。
「あの……しゅーくん?別に私はこの二人とでもいいよ?」
──しゅーくんと二人で食べれたらそれでいいもん
脳内に響く声で顔が熱くなるのがわかる。
……まあ、仕方ないか。俺は二人の提案を渋々頷くことにした。
……それにしても、このやり取りの間の視線の量も凄いものだな。
やはり、人気者の幼馴染を持つと大変らしい。地道に慣れていこうと誓った俺だった。
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