第3話
「おっ」
「あっ」
鉢合わせする。ふたり。
町の裏の顔役と、町の警察のエース。
「あなたも、在形さん家に?」
「おう。部下が賭場に来てないって報告してきたんでな。そっちは?」
「通報があったわ。この家から」
「よし。入るか」
家のなか。綺麗に整っている。
「おお。顔役も姉御も。よくお越しで」
在形さん。ベッドにいる。
「通報されましたので」
「俺は様子を見に来ただけだ」
「わしはもうすぐ死ぬ。いい人生じゃった」
在形さんと呼ばれた老人。にこにこしている。
「わしは独り身でな。諸々の手続きを考えると、通報しておいたほうがいいと思ってな」
「ありがとうございます。助かります」
「じいちゃん。賭場に新しい賭場台が来るんだ。もうちょい、長生きできないのか?」
「むりじゃ。さすがにしんどい」
「そうか。よく生きたな。充分がんばった」
「へへへ。この町に生まれて。この町に生きて。いい人生じゃった」
笑い声が、徐々に小さくなっていって。
消えた。
「じいちゃん。あばよ」
「本署。聞こえますか。南地区。死体1。在形生三。確認の手続きを。医者は要りません。老衰です」
「死体は俺が運ぶ」
「おねがい」
顔役が、やさしく亡骸を持ち上げる。
「じいちゃん。なかなか重いな。よいしょ」
「ドア開けるわ」
外に出る。ふたり。死体がひとつ。
「これが終わったら。久々に、呑みに行くか」
「そうね。献杯しましょう」
ふたりで、霊柩車を待つ。
「仕事の話。なにかある?」
「新しい医薬品が、今度入る。副作用少なめのやつだ。病院に話を通しておいてくれ」
「わかった。どんなやつ?」
「海外では違法薬物として大人気のやつ」
「うわあ」
「毒は薬ってな。医薬品としての使い勝手が、どうやらかなり良いらしい」
「わかった。引き締めは強めにするわね」
「頼むよ」
町の顔役と町の警察は、こうやって、繋がっている。
「俺からもいいか」
「うん」
「武器とか、買った?」
「あ。ばれた」
「だっておまえ、にやにやしてるもん」
「買った。ついさっき届いたの。いい感じだったわ」
「いくらした?」
「う」
「おい。どれだけの額買った?」
「1億1700万円」
「ひいい」
「だって。使うでしょ。今度の模擬戦賭博で」
「空砲と電子解析のレクリエーションなのに、なんで実弾が使える銃をそんなに」
「だってだって。本物がいいんだもん」
「しかたねえなあ。後でリスト送ってくれ。賭博のレートを引き直す」
「今回もネット配信するの?」
「するよ。町の警察vs町の裏側。大規模喧嘩カチコミレース」
「なにその名前」
「いいじゃねえか。誰も損をしない、やさしい賭博なんだから。子供じみた名前のほうが分かりやすいんだよ」
「そうなんだ」
「お。車来たな。このまま焼き場直行か?」
「うん。そう願うって、通報の段階で聞いてるわ」
「呑み屋は後で連絡するよ。じゃあな」
「うん。じゃあね」
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