「ゾウって性器を使えば五足歩行できそうだよな」

@Kitune13

「ゾウって性器を使えば五足歩行できそうだよな」

「ゾウの性器の長さは六十センチに上るそうだ、足と同じぐらいだし五足歩行できそうだよな」


 と、聞いてもいないし前後の文に一切関係のない言葉が眼前の少女から放たれた。

 彼女の姿は一言で例えれば妖精のようだった。日本人離れしたはかなげな白色の長髪、濁り一つない処女雪しょじょゆきのような透き通った肌。その相貌は眠たげに半分閉じられて知的で、それでいて怪しげな魅力を醸し出している。


 陽の一つ刺さぬカーテンに閉ざされた一室で男女が二人きり、青少年であるこの俺山田太郎には少々毒な空間なのだが、彼女の呟き一つで空気が猛毒となりそんな気すら起きなくなる。


 彼女がこうしてわけのわからぬ戯言をのたまうのはいつもの話だ、やれ口を開けば天才もメスとオスが盛って生まれたんだから人類みな平等だよなとか、異世界物の主人公ってある意味サイコパスが多いよね、とか。


 太郎には二つの選択肢がある、まず一つ目は今手元にある官能小説を読み進める、そして二つ目は彼女の戯言に耳を貸して夜が更けるまで時間をつぶす、かだ。

 今回の太郎の機嫌はよかった、なんせ購入した官能小説が性癖に突き刺さる神小説であったからだ。


「藪から棒にならぬ口から性器ですか」


「卑猥だなセクハラで訴えるぞ後輩」


 貴方が言いますかという反論は胸にしまい込んで一言。


「それにしてもまた突然どうしたんですか?」


「いや、唐突に気になってな。ゾウの全長は約六メートル、そして性器の長さは六十センチ。なんと比率が一割なんだ」


「それが」


「どうかしているんだよ。なんと人間の、オスの性器の長さも大体......」


 ちらりと彼女は太郎の下腹部を見て鼻で笑ってから。


「平均では十三センチから十五センチに当たるとされている。平均身長は百七十だから比率は約0.8割ぐらい。ゾウもまた似たようなものだ」


「おい待て今なんで俺の息子をチラ見して笑ったうちの子センシティブなんだからな」


「そんな感じやすい早漏のは置いておいてまじめな話だ」


「すでにこの会話だいぶまじめじゃないと思うんですけど」


 ゾウの性器は六十センチで始まる会話がまじめであってたまるかという至極正当でまっとうな突込みだが聞いてもらえるはずもなく。


「ゾウって哀れな生物だと私は子供のころから思っていたんだ」


「......もう突っ込みませんからね」


 話の転換が速すぎる、これでは会話ではないキャッチボールは相手が受け取れなければキャッチボールにはならないのだ、今この状況は一方的に投げつけられへたくそだとなじられた挙句もう一個投げつけられたようなものだ。


「ゾウって正面から見ると鼻が君のお粗末な物のようにしぼんだアレに見えて耳が二つの袋に見えるから男性器のたとえとして使われることが多々あるだろう」


「いうほどないだろゾウへの風評被害がひどすぎる」


 一体ゾウが何をしたというのか。同情をしばしゾウへとむけて痛む心を押さえて太郎はため息を一つ。

 先ほどから手を動かして何をやっているのかと思えば彼女は紙にゾウの絵をかいていたようだ、まあゾウはゾウでもその息子だが。


「ゾウにはもっと立派な六十センチの粉砕機があるというのにわざわざ顔で代替する必要なんてないだろうに」


「いや代替するのって卑猥だからじゃ......六十センチの剣を見せちゃあ卑猥のままでしょ」


「一理ある」


「百里あるまでありますけど」


 百里あれば東京から京都まで行ける何なら呉まで行けることだろう。


 ふざけたことを言っていないで俺は読書に集中しよう、学問は心を癒してくれるそう太郎は信じている。白髪ヒロインとさえない主人公の官能小説の続きを読もうと手に取ろうとするが机の上に置いたはずのそれが見つからない。

 あたりを見回してみるが視界に入らず、どこに置いたものかと思考するのもつかの間、すぐに気づいて彼女へと視線を移した。


 控えめに言って豊満と言って差し支えない彼女の蠱惑的な肢体、柔らかなその太ももから引き締まった腰回り、たおやかに膨らんだその豊満な胸の狭間に挟まれた官能小説は所狭しと志向の空間にいる。

 彼女の手際の良さははっきりと言って異常なものだと太郎は思う。なんせ彼女は数秒前まできちんと彼所専用の改造制服を着ていたはずだというのに瞬きの合間に胸をはだけさせその合間に挟んでいるのだ。


 彼女は徹して何も言わずに扇情的なほほえみを浮かべてこちらを見つめてくる、ので迷わず胸元に思いっきり手を突っ込んで本をとらせていただいた。


 やはりこの官能小説は素晴らしいと太郎は思う柔らかかったじゃない、この官能小説の描写は素晴らしく一見の価値があると思う。


「なっなっ......!!」


 はっきりと言って太郎にとってこの作者は地雷以外の何物でもなかった。

 過去に見た同一作者の官能小説で一度白髪ヒロインが髪を染める描写があったのだがそれがいただけないと思った。表紙に描かれた美しい銀髪美少女は消えるのだから実質これは詐欺だろう、と。

 危うく太郎は詐欺で出版社を訴えるところだった、最近の若者はすぐに訴えるのだ割と簡単に。


 そういえば訴えるで思い出したと太郎は本を一度閉じて。


「先輩、なんで制服はだけさせてるんですか?あれですか窓を開けろアピールですかこの前SNSで話題になってた」


「殺そうかなこの後輩。官能小説を読んでおいて今の状況下で迷わず引き抜いて読み始めるか?」


「?何を言っているんですか?ああいうのは主人公に惚れている二次元ヒロインがする行動であって三次元じゃありえないんですよ」


 ーーこいつ拗らせ童貞だ、と彼女は歯噛みする。

 拗らせ童貞とは何か。童貞とは惚れやすいミジンコのような生き物でありちょっと優しくされればもしかして俺のこと好きなのかなと勘違いし一喜一憂しクラスで晒し上げられて社会的に抹殺されるのだ半永久的に。そんな経験、もしくは類似する現象に立ち会い続けた童貞はあるときこういう言葉を放つようになる。


『もう僕は騙されない』


 これではまだ童貞検定準二級だ話にならない。こういう童貞はボディタッチで惚れる。

 だがそういうのすら超越した化け物がいるとすればそう、ボディタッチでも揶揄われ気持ち悪いとあざ笑われ社会的に完全に抹殺され、挙句の果てには価値が老いたバッタ以下とすら言われるまで落ち切った拗らせ童貞だ。


『あっそう』


 仏、まさしく仏。

 山田太郎、この男は仏の境地に達しているのだ。


 だからこそ彼女は歯噛みする、仏というのは厄介だ、と。

 今の明らかな好意を持った行動、それもかなり大胆なエロ仕掛けを食らっておいて完全無視をした挙句三次元よりも官能小説に集中し始める一周回って狂気のそれ、手強い。


 何を隠そう彼女は山田太郎に惚れているこの名前を三秒で考えたろう、考えてすらいないであろう男に。

 だからこその色仕掛け。


「『おかしい、おかしいぞ。朝ブログで読んだセックスアピールのためには性に関する話をしようという情報を信じゾウの性器という卑猥な話を吹っ掛けたというのにこの反応。絶対におかしい』」


 拗らせ童貞を陥落させるのにゾウの性器はないだろうと突っ込みを入れる神の声など存在しない、よって彼女がその勘違いに気づくことはない、まさに悪循環。


 なにかがおかしい、そう彼女は思った。

 きっと何かがあったにちがいない、日本の一般的な男子高校生は色仕掛けに弱く一瞬で陥落し押し倒してくるはず。


 おわかりいただけただろうか。

 山田太郎は悟りを開き自分を性とは超越した存在として考えてしまっているのだ。


 だからこその無反応、英雄を前にした英雄フェチのアテネのように飛びつくであろう格好の餌に無反応。自信を男としてみていないのだから目の前の人間が胸をかっぴらいて本を挟んだとしても反応することはないのである。


「『やはりここは切り札を切るしかないな、隠し玉は最後まで取っておきたかったが仕方がないだろう』」


 石でダメなら核弾頭、それが彼女のクレイジーな最高に頭が悪い彼女の論理的な脳が生み出した結論であった。

 ゾウの性器で興奮しないのであればここは趣向を凝らした逸品を出そうということだ馬鹿である。


「フランケンシュタインには生殖機能があるのだろうか」


「一体全体どうしたらゾウからフランケンシュタインに飛ぶんですかね?」


「いや、すまない、言葉の綾だ」


「突っ込んだら負けだ突っ込んだら負けだ突っ込んだら負けだ」


 そそくさと制服の上着を脱ぎながら彼女は語りだす。


「私の間違いだ、フランケンシュタイン博士の怪物だった。そりゃあフランケンシュタイン博士に生殖機能はあるに決まっている人間だろうし。人造人間として生み出されたフランケンシュタインの怪物は果たして生殖機能があるのだろうか」


「なんだか真面目そうな話に聞こえてきました」


「だろう?私は真面目なんだまじめな話になるに決まっているだろう」


「草ってこういうときに使うんですね」


「まあ草原を作り上げたい後輩は置いといて問題はフランケンシュタイン博士の......長いな、今から略称でフランケンシュタイン博士の息子にしよう。いまから怪物は息子に改名だ」


「ほかに言葉なかったんですか今俺の脳内で巨大なディルドが出来上がったんですが」


「思春期のスケベキッズめ。まあいい」


 よし性的に興奮した来たに違いないだろうそうに違いない、うんきっとそうだと彼女は自分に言い聞かせて。


「息子は果たして伴侶を手に入れたところで生殖できたのだろうか」


「そういうとただの童貞にしか思えなくなってきたんですが」


 セックスができない息子を心配し風俗に同行する母親かこいつは。

 なんだかいろいろと残念なことを考えながら太郎は脳内に現れた巨大ディルド型童貞を振り払う。

 というか言語化してみてさらに意味不明なのだが巨大ディルド型童貞とはなんだいったいそれは童貞なのかディルドなのかはっきりしろ。


 太郎は眉間をほぐしながらそっと言いたいが言いたくないことをこぼす。


「フランケンシュタイン博士の怪物」


「息子な」


「フランケンシュタ」


「息子な」


「怪物は」


「息子な」


「なぜにそこにこだわるんですか」


「なぜってそりゃあーー」


「『自分から息子と言わせればきっとムラムラするに違いないから、とは言えないよなぁ......そうだ!』」


 彼女は瞬きの間に考えをまとめてにっこりと慈悲深い天使がごとき笑みを浮かべる。


「ーー息子、だからな」


 ごり押し、IQがサボテンになった、3だ。

 だがそれでもうあきらめて続けるのが太郎であり今回もその例によって深くため息をはいて終わりだ。


「息子は最終的に博士に伴侶を作るように頼み込むけど断られて終わりなんで、答えはノーですよ」


「つまり息子は博士とヒュージョンしたしゲイで伴侶が欲しいというのはツンデレのツン成分だったといいたいんだな」


 そそくさと制服のスカートのボタンをはずしながら彼女はひひひと笑う、気味の笑い笑みだが美少女力が相殺しなんだかいたずらっぽい美少女に見える、世は所詮顔の煉獄だと太郎は重々理解した映画放送中。

 まあそんなふざけたことはともかく。


「一言も言ってないしそもそもそういう会話をしていないのに月に突き刺さるレベルの飛躍やめてもらえませんか?」


「いやあえて私は言いたいんだ。息子は博士とおせっせしてレストインピースしたかったんじゃないかって」


「結局死んでるじゃないですか」


 レストインピースって。


「そりゃあ死ぬだろう貧弱な人間だし」


「何その達観神ですか」


「私は先輩だ、それ以下ではないしそれ以上でもある、まあ神とでも思ってくれたまえ」


「やだこの中二病、誰か助けて」


 フリーダムが過ぎるだろうと突っ込みを入れたいがいつもそう言って話がこんがらがり飛躍しまくった挙句太陽系にさようならをしてしまうため太郎は黙る。

 そもそもなぜ自分はフランケンシュタイン博士の怪物のちんこの話をしているのだろうかと太郎はふと思う。


 腕時計は今の時刻を夜七時と告げていて、大体の部活の時間はとっくのとうに過ぎている。

 残っているのは彼女がいるからで、自分がいる天文学部が異常なだけだ。

 ふと彼女へと太郎は視線をこぼし、やはり容姿に優れているとナチョラㇽにさもオークのような不躾な視線を彼女へとぶつけた。


 全身白色、まさしく色素が抜け落ちたような姿をした彼女は世間一般ではアルビノと呼ばれる類の人間であった。

 生まれつき肌の色素が薄くありとあらゆる面において脆弱なため日光に弱い、よって学校に昼間は来ないし今冬場において午後六時に部活に来て八時に帰るというのを日課にしている。


 この部屋がカーテンに閉ざされているのもできるだけ彼女に与える負荷を軽減しようという学校側の計らいだった。


 まあ彼女の神秘的な容姿のせいで、遅くに部活から帰ろうとする一部の生徒に目撃されて幽霊事件になることが多々ある。


 そんな神秘的で幻想的な雰囲気を醸し出す美少女が今太郎の目の前で何故か半裸だ。

 部屋のLEDライトは淡く、色素の抜けた儚げなその肌を照らしている。学校の制服を独自に改造しできるだけ露出面積を減らした彼女は今やそのスカートと上着を脱いでシャツと下着、ニーソといった大変趣味趣向を研ぎ澄まさしたあられもない姿となっている。


 ちなみにそこまでにあったことといえばフランケンシュタイン博士の怪物の息子とゾウのちんこは六十センチという会話である。

 ここまでの流れの文脈と話の流れがまったくもって理解不能すぎてWindowsVist〇のように太郎の脳は考えるのをやめる。


「先輩痴女でしたっけ?」


 ふと出たのはその一言であった。けれど彼女は何故か自信満々に笑ってこう叫んだのであった。


「議論勝負をしようじゃないか後輩!勝敗は最も面白い息子の物語を思いついたほうが勝ちで」


「やるわけないじゃないですか唐突に何なんですか馬鹿なんですか?」


 何故か半裸で棒ポケットなモンスターに出てくるNPCのように勝負を挑んできた先輩を一瞥して太郎は本を読み進める。

 決して言えば彼女の容姿は優れているしなんなら男子高校生的語彙力で表現するのならばエロイといえるだろう。けれど相手は仏だ、仏は動かず動じずただそこにあるのだ。


「辛辣すぎて泣くぞ、女を泣かすのは男としてどうなんだ」


「あっ、いや、すみません先輩を女子として認識できてませんでした」


「殺すぞこの後輩め。私は正真正銘の女だ。ボンキュッボンだぞ襲いかかれよそこは!」


「いや倫理的にダメでしょ」


 性犯罪など笑えない、特にこんな特別扱いを受けている天文学部がつぶされるようなことは避けたいというのが太郎の持論。なにより襲うとかただの犯罪だろう。

 ただ淡々と官能小説を読み進めガン無視を決め込むまるで我関せずな太郎の両頬を彼女は抑えてかなりの至近距離に顔を近づけて。


「じゃあ襲いかかるか勝負をするかの二択だどうする」


「えぇ......そもそもなんでそんな選択を」


 鼻息が荒い、彼女は羞恥で死にそうになっていた。それもそうだ彼女は雑魚だ。アプローチこそ過激であるけれどそれが成立するのは太郎の無反応という条件がある。けれどこうして顔を近づけられた太郎は否応なく頬を紅色に染めてしまい、今更になってこの距離感に恥ずかしくなってきているのだ。


「ちっ......ちなみに選ばないとメイド長にお前に襲われたと言いつけるぞ」


「やはり勝負しかないだろう。全力で挑ませていただく」


 あのメイド長は恐ろしい、それだけは二人の共通認識であった。彼女の世話をするメイド長にしょっちゅう説教される太郎は苦笑いを浮かべ勝負を承諾したのであった。

 けれど勝負といったところで何をするのだろうかと太郎は首をかしげる。

 そもそも一体何がどうしたらフランケンシュタイン博士の怪物の息子の話を議論することになったのだろうか。


「で、具体的にどうするんですか?」


「話は簡単だ!まずは適当に物語を考えてーー」


 ノリノリで豊満な胸を揺らしながら身を乗り出して意気揚々と彼女は語るが。


「お嬢様、一体全体なにをしているのでしょうか?少年、やはり君は処分しなければいけないようですね」


「あ」


 背後、忽然と音一つ立てず現れたメイド服の少女は甘い香りを部室に運び鼻腔をくすぐる。ふわりと可愛らしく膨らんだ西洋風のメイド服に身を包んだ彼女の年の頃は太郎と同じぐらいだろうか。麦穂のような黄金色の三つ編みを揺らし、凛として彼女はその碧眼で太郎をにらみつける。


 背筋が凍るような威圧感に思わず太郎はびくりと身を震わせてすぐに現状の異常性を理解する。

 官能小説をよむ男子高校生に迫る半裸の美少女、ーーなるほど、確実に頭がおかしい光景だと太郎は理解する。

 メイドの少女も理解しているのか視線は鋭い。


「先ほどから話を聞いていましたが......なぜここまでおかしくなるまでに止めなかったんですか?」


「......いやー」


 あははと力なく笑って太郎はごまかすが彼女の視線は依然として軽蔑するそれだ。


「?カーヤはいったい何を言ってるんだ?」


「お嬢様は黙っててください」


「先輩は黙ってたほうがいいですよ」


「二人して息ピッタリじゃないかーー」


「『もしや二人は付き合ってるのでは、とここでいうのが定番だろう』」


 ほくそえみながら彼女は俯いて、すぐに悲壮感を漂わせる顔を作り上げる。

 幼少のころから処世術を教え込まれた彼女にとっては造作もないことだった。


「......まさか生き別れの双子じゃあ......」


「「何言ってんだこいつ」」


 思わず突っ込みを一つ、涙ながらに語る彼女とは裏腹に絶対零度の反応だった。

 ここまでは計画通り、突拍子もないことを突然真面目に言った時の反応は一つ。

 目を丸くして、あっと声を漏らしたメイドの少女ーーカーヤは咳ばらいを一つ。


「じゃなかったお嬢様、私には妹がいますが生き別れじゃありませんし何より私の弟がこの少年だった場合この少年が哀れすぎるでしょう」


「おいちょっと待てどういう意味ですかねそれは」


「私のように優秀で魅力的な女性の弟がこの何のとりえもない少年なんて......神は残酷すぎますよ」


「はいはいそうですね」


 カーヤというメイドの少女が完璧で否定しようのないほどの人物なのは自明なので太郎は反論するような真似はしない、ここは黙るのが吉と見た。


「それとお嬢様、お迎えのお時間です。少年も部室の鍵を閉めて家に帰りなさい」


「へいへい。じゃあ先輩また来週」


「......ん。じゃあな後輩。また来週、な」


 終わりはいつも突然に。

 こうして毎週月曜日の天文学部は終わりを告げる。

 アルビノという特異な境遇の彼女は体も弱く内臓もまともに動作しないのがほとんどとのことだと太郎は聞いている。

 彼女は一言も言わない、決して弱音を上げない。けれど太郎は知っている、彼女のカバンの中に詰まった錠剤の数々を。


 だからこその一日、月曜夜の二時間の時間。お互いの名前も知らないまま二人はくだらない時間を過ごして時間を終える。

 寝取大隙ねとりだいすき高校天文学部、だれも知らない部活はひっそりと今日も終わるのであった。






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