第108話:レオン・ジーラギ
案内された家は、他の民たちよりは多少大きく造られていたものの、見た目は全く同じ掘っ立て小屋だった。
「みんなが僕のために大きく造ってくれたんだ。僕よりもみんなの方が大変だろうに、ありがたい事だよ」
そう笑いながら口にする殿下の言葉に嘘はないような気がする。自然と出てきた言葉に見えたからだ。
「さて、それじゃあ前置きはなしにして僕たちが得ている情報を伝えようか」
さらに殿下は話が早く、無駄を省いて情報を提供してくれた。
まずはジーラギ国の状況についてだ。
アクトが口にした通り、ジストの森では魔獣が生まれ落ちていないらしい。
どうしてそうなったのかは分かっていないが、それでも魔獣が溢れかえっていた当時と比べるとだいぶ楽になったようで、その点に関してはホッとしているのだとか。
「僕も前線に出ていたんだけど、この場を維持するのもギリギリだったからね」
「殿下が前線に!?」
「そうでもしないと維持できなかったんだ。それに、僕だけじゃない。剣を取った事のない民も戦ってくれたんだ。……その過程で失われた命もあるんだ。僕だけが隠れているわけにはいかないだろう?」
最後は苦笑を浮かべながらの言葉になっていたが、これからも殿下は前線に出て戦い続ける事だろう。きっとこの人は、そういう人なのだ。
「それと、王侯貴族が船でジーラギ国を出たと言ったが……正直、どれだけの船が無事に他国へ辿り着けたかは分からない」
「という事は、殿下以外の王族が亡くなっている可能性も?」
「ある。だけど、分からない事を考えても仕方がないからね。一応、情報の一つとして伝えておこうと思ったんだ」
確かにその通りだ。
しかし、船の話が出たのでこちらから質問をしてみようか。
「アクトから船があると聞きました。それは本当ですか?」
「船かい? あるけど、やっぱり海は危険だよ? 僕たちは海の魔獣に対して対抗策を持っていないからね」
「いいえ、俺とデンなら対抗は可能です」
「……そうなのかい?」
少しだけ驚いた顔で殿下はアクトに視線を向けると、彼は一つ頷いた。
「俺は
「ま、魔獣キラーだって!」
常に飄々とした表情だった殿下だが、魔獣キラーの名を聞いた時だけははっきりと表情を変えていた。体も前のめりになり、結構近い距離でこちらを見ている。
「……殿下、近いです」
「……あ、すまない! いや、本当に驚いたよ。生まれてから今日までで一番の驚きだ」
「それは、俺がキラー系スキルを持っているからですか?」
俺はあえてキラー系スキルの事を話題に上げた。
アクトが口にした通り、目の前の王族はキラー系スキルに忌避を抱かないのか否か。
「いや、違うよ。僕は王族だけど、どちらかと言えば民と近しい立場にいたからね。もちろん、ジーラギ国の国民性なのか民の中にもキラー系スキルに忌避を抱く者は少なくない。だが、民の事を考えれば、むしろ使えるものは使わないといけないと考えている」
「……変わった考え方ですね」
「だろう? でも、本来ならそうすべきなんだ。使われる立場の君からすると、やはり王族は権力を振りかざすのか、と思われるかもしれないが、国や民のためなら僕がなんと言われようとかまわないのさ」
この人はやはり凄い。
凝り固まった王侯貴族の考え方を真っ向から否定する力を持っている。
そして、少しずつではあるが自らの考えを実行するために行動を起こしていた。
……だが、だからこそ、もったいないとしか言いようがない。
「……いいえ、俺はそんな風には思えません」
「……そうかい?」
「はい。殿下がいれば、ジーラギ国は再び立ち上がれるのではないですか? 正直、殿下が上に立ってくれていればと思わなくはありません。ですが、殿下ならば、ここからでも立ち上がってくれるのではないかと思わせてくれます」
俺は素直な気持ちを殿下に伝えた。
魔獣キラーを伝えた時ほどではないが、殿下は目を見開いて驚いている。その横に立つアクトも似たような表情だ。
「……僕に、できると思うかい? この荒れ果てた大地で」
「俺はできると思います。ただ、この地で難しいと言うなら、別の土地で一からやり直すのもありだとは思います」
「……別の土地で?」
俺の意図が理解できないのか、殿下はアクトへ振り返るが二人して首を傾げている。
殿下ならば本当にこの土地をさらに豊かにしてくれると思っている。だが、それは本人だけの力ではどうしようもない。周りの助けが絶対的に必要になるからだ。
もし、その助けを得る事ができなければ、殿下だって外に出てもいいと俺は思う。
「この土地から殿下を含めた全員が避難できたなら、その先で生きる事だって可能なんですよ」
それを選択するかどうかは殿下次第だが、彼のような人材がこの地で失われるのはどうしても避けたい。
俺は選択肢の一つとして、そのように伝えた。
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