第106話:予想外の反応

 俺は罵られるか、もしくは突き放されると思っていたのだが、まさか手を取られて笑みを向けられるとは思わなかった。


「統括長には酷い仕打ちを受けていたと聞いた。今さらだとは思うが、同じ貴族として申しわけなく思う、すまない」

「……あ、いえ」


 さらに、貴族が平民に頭を下げるなど、あってはならない事だ。


「私たちは現在、残った民をまとめてなんとか生活をしているという状況です。貴族も残っていますが、彼らは四男以下で平民にも分け隔てなく接する事ができる者たちです」

「まあ、統括長も四男だったがな」

「彼は……まあ、貴族にしがみついていた無能ですから」


 あの統括長を無能って……まあ、無能だったけど。


「あれ? そういえば、統括長はどうなったんですか? それに、貴族もそうですが陛下は?」

「統括長は多くの兵が解雇されてから程なくして、魔獣の侵攻と大量解雇の責任を取って職を辞しました。……まあ、いわゆる解雇ですね」


 俺を解雇した人間が、さらに上の人間に解雇されたのか。

 なんだろう、ざまぁみろと言いたのだが、俺は何もしていないのでなんの感慨もわいてこないな。


「他の貴族たちは最初に申し上げましたが、民を見捨て、船を占領し、さっさと逃げてしまいました。それは……陛下も、同じです」

「……そう、ですか。陛下までもが、逃げ出したのですね」


 すでに国を出ているとはいえ、俺はジーラギ国で35年間生きてきて、門番としては20年間、この身を挺して魔獣から王都ジラギースを守ってきた。

 魔獣キラーというスキルが忌み嫌われている事を知りながらも、必死になって働いてきたのだ。

 だが、そんな国の王様は、民を見捨てて逃げ出したという。

 ……俺が働いてきた20年は、いったいなんだったのだろうか。


「……で、ですが、陛下の命に逆らって残ってくれた王族もいます」

「王族が、残っているのか?」

「はい、ガジルさん。第三王子のレオン・ジーラギ様です」

「レオン・ジーラギ殿下……」


 ……うん、分からん。そもそも、俺は王族が出席する式典などでは魔獣狩りに出されていたから見た事ないのも仕方ないと言えるか。


「でも、レオン殿下って……その、ダメ王子って噂がありませんでしたか?」

「そうなのか、エリカ?」

「う、うん。放蕩息子で、お金の使い方も相当に荒かったとか……実際のところは分からないんだけど」


 火のない所に煙は立たぬと言うが、その噂が本当であればここに残った理由が分からない。

 本当に民を思って残っているのであれば、そいつは放蕩息子なんかではなく、爪を隠した全く別の存在になり得るかもしれないが……果たして。


「レオン殿下は確かに城下に足を運んで贅沢をしていましたが、それは城下にお金を落とすためのものでした」

「そうなんですか?」

「はい。そして、城下に足を運んでいるというだけで変な噂が立ってしまい、女遊びをしているだのと言われ始めてしまったのです」

「その噂を消そうとは思わなかったのか?」

「殿下は、その方が自由に動けるから好都合、だとか言っておられましたね」


 どうやら、俺たちにとっては接しやすい性格なのかもしれない。

 だが、レオン殿下がキラー系スキルに好感を持ってくれるかは分からない。アクトに伝えた事でそちらにも伝わるだろうが、大丈夫だろうか。


「……大丈夫ですよ、レインズさん。殿下は民との関わりを持つだけではなく、キラー系スキルへの偏見にも嫌気を覚えていますから」

「……珍しい王族なんですね」

「だからこそ、誤解されてしまうんですけどね」


 苦笑を浮かべているものの、アクトの雰囲気からはそれを誇っているように感じられる。

 アクトの方も人格者のように見えるし、彼に認められているレオン殿下には一度会ってみたいかもしれないな。


「話も長くなりそうですし、一度私たちの拠点へ移動しませんか? そこでならゆっくり話もできますし、殿下とも顔を合わせてもらいたいので」


 ありがたい提案だが、俺だけの判断で決めていい事ではない。

 俺はガジルさん、エリカ、リムルの順番で視線を向けると、全員が小さく頷いた。


「……分かった、行こう」

「ありがとうございます! では、ご案内いたします!」


 こうして俺たちは、情報を得るために一路アクトたちが拠点にしている場所へ向かって歩き出した。

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